ミスティー・ナイツ

空川億里

文字の大きさ
上 下
10 / 35

第10話 メタマテリアル

しおりを挟む
    人間というよりもターミネーターみたいなアンドロイドのようだ。
「畠山(はたけやま)、いよいよお前の出番だ」
 明定は、スキンヘッドの男に話した。
「隙を見て、ステファン・アダムスを名乗る男に発信機をしかけたんだ。発信機の位置から、こそ泥のアジトを探してくれ。そして奴らを始末するんだ」
「さすがっすね。最初からアダムス博士を名乗る男の招待がこそ泥の仲間と見破ったので」
 畠山が、世辞を披露した。
「残念ながら、そうじゃない。ただ相手がアダムス博士だという確証がなかったので、念のため発信機をしかけたのだ」
「サツには話さないんですか」
「通報できるわけねえだろう。警察でもない個人が勝手に発信機をしかけたなんて。それにポリ公にチクって盗人が捕まえたところで、ムショで何年か臭い飯食って、またぞろシャバに出るだけじゃねえか。おれは、おれに恥をかかせた奴を生きたままにしちゃおかねえ。ミスティー・ナイツだか何だか知らねえが、ちんぴら共の息の根を止めてやれ。奴らにたっぷりと、この世の地獄を味あわせてやる」
「わかりました」
    畠山は、不敵な笑みを浮かべて答えた。
「クズ共を血の海に沈めてやりましょう」
「頼んだぞ……。後、今度の経緯は鶴本先生には秘密だぞ。間違っても、おれや鶴本先生の名前が出ないようにしろ」
 畠山はうなずいた。そして、応接室の外に去った。
(ミスティー・ナイツの連中がどうなるか楽しみだ)
 明定は、笑いがこらえきれなかった。やがてそれは静かな笑みから爆笑となり、いつまでも、いつまでも笑い続ける。が、椅子にそっくりかえって爆笑しつづけたので、そのまま後方に倒れてしまい、床に頭をぶつけてしまった。
           *
 美山と愛梨が後ろに乗り、海夢が運転するスカイ・カーは、一路海上をめざした。海夢がスイッチの一つを押すと、車体が透明になった。
 この車はメタマテリアルでできている。メタマテリアルは屈折率を自由に設定できるため、背景からの光を遮らずに、それを観る者の目に届けて、車は見えなくなってしまう。
 すでに雲村博士は、この技術を実用化していた。おそらくアメリカやロシアあたりも発表してないだけで、実現しているかもしれない。
 スカイ・カーは本体に電波吸収性塗料を塗っているので、レーダーには探知されない。
 その後自衛隊や警察のさしがねらしいジェットヘリや戦闘機が現れたが、すぐそばを飛んでいるスカイ・カーの存在に気づかず、そのまま通りすぎていった。 
 まるで透明人間か、幽霊にでもなった気分だ。もっとも、こちらが視覚的にも電波的にも見えないがゆえに、間違って飛行機と空中衝突するんじゃないかと、美山はついつい心配になる。
 鳥がジェット噴射口に入りこんでも、結果は同じだ。
「海夢のおかげで助かったぜ」
 去ってゆく戦闘機を見ながら、美山は安堵の息をもらした。
「これも海夢の運転技術のおかげだな。元レーサーってのは伊達じゃないわ」
「とんでもない」
 海夢が謙遜の言葉を述べた。
「雲村博士が素敵な車を作ったおかげです。ジェームズ・ボンドだって、こんなの乗ってないんじゃないですか。それとこれだけの車を自力で開発できるミスティー・ナイツの資金力は大したものです」
「それもこれもみんなが、今までがっぽり稼いでくれたおかげだな」
 スカイ・カーは夜になってから再び南美島に舞い戻った。周囲に人目のない森の中に着陸すると、翼とジェット噴射口も車体の中に収納する。
 そして今度は普通に車として公道を海夢が運転し、3人は再びアジトに帰りついた。そして出迎えた仲間達に、今までの状況を報告する。
「しくじったみたいだな」
 最初に玄関の扉を中から開けてくれた西園寺が、開口一番言葉を放った。
「よくわかったな」
「一体何年つきあってると思ってる」
「贋物をつかまされたんだ。こっちのすり替えもすぐに気づいたらしく、すぐに奴らは追ってきた」
「そいつは悪かった。誰にも見破れねえような精巧な贋作を作ったつもりが、相手にはばれてたわけか」
「ま、気にするなって。お互い様だ。おれもちょっと明定を甘く見てたぜ。こうとなっちゃ、第2案でいくしかねえな。釘谷のおやっさん頼んだぜ」
「任せておけ」
 釘谷は自信たっぷりの口調である。
「おれにやらせてくれたらまず間違いねえから大船に乗ったつもりでいてくれ。西園寺の贋作はよくできてたが、明定の野郎もそこはプロだからな。そもそもケースにしこんであったのが贋作だったんだから、仮に明定がすりかえに気づかなくても、こっちは本物を入手できなかったのには変わりない」
「いやホント、間一髪の危機だったぜ。博士のスカイ・カーと海夢のプロなみの運転技術がなかったら、とっくに逮捕されてたかもな。今頃ムショで、姫崎ちゃんのハイヒールに踏まれてたところだ」
 美山が雲村博士に話した。
「そのスカイ・カーを最初に見た時『テレビアニメの見すぎ』だの『ジェームズ・ボンドじゃねえんだ』だの、色々ほざいてたのはどこのどいつだったかな」
 雲村が笑顔を浮かべながら、穏やかに反撃してきた。
「そうだったかもしんねえけど、あれは冗談半分だから」
 美山は右手で、頭の後ろをかきながら答えた。自分でも、苦笑を浮かべているのがわかる。
「爆破する廃ビルの場所は、すでに決めてある」
 釘谷が地図を広げた。
「美術館からよく見える位置だが、途中に高い建物がないからであって、結構遠い場所にある。美術館の警備員が消火活動の応援に行けば、警護体制はガラ空きになるって寸法だ」
「簡単に侵入できんのか」
 美山は尋ねた。
「敷地の周囲は金網で囲まれてるけど、容易に乗りこえられる高さだ」
「周辺にホームレスのおっさん達はいないのか。万が一でも、爆弾の巻きぞえにしちゃあ、取り返しがつかねえ」
「何度か行ったけど、浮浪者の姿はなかった。爆破当日もしもホームレスがいたら、そっから追いだすだけだ。ダイナマイトの巻きぞえにするつもりはねえ」
「そら、そうだ。無関係の人を犠牲にはできないもんな」
「家のない貧困層こそ、資本主義社会の最大の犠牲者だ。おれが夢見る真の革命が起これば、全ての浮浪者が家や仕事を持てる日がやってくる」
「まだ、そんな寝言ほざいてるのか」
 美山はあきれて、たしなめた。
「そりゃ、ホームレスになった人の中には、住居を持ちたい人や職業につきたいもいるだろうよ。でも逆に、今の生活が気にいってる奴もいるんじゃないの」
「世界中の全人民が住まいや職を持てるようにするのが、わが革命の理念だ。その時こそ、地球に平和が訪れる」
「そうかいそうかい。ま、思想や信条は自由だからな。ご高説は拝聴しました。お好きなように、ご自分の夢を追ってちょうだい」
「確かに世間には革命だの、社会主義だの、古い考えと思ってる者がいっぱいいるんだろうけど、おれはそうは思ってない。所得格差が広がった今の日本を見てみろ。やがてわが国の人民も立ち上がり、今の政府と資本主義を打倒する日がやってくる。日本だけじゃない、世界中の全人民がだ」
「でも、ソ連や東欧の共産国家は倒れちまったぜ」
 美山は釘谷に茶々を入れた。
「あんなのは、断じて共産主義じゃない。共産主義のふりをした全体主義国家だから、崩壊して当然だ。だからといって、日本や欧米や中南米の左翼政党の考えも間違ってる。これから本当の社会主義の時代が来る」
 釘谷は、ゆるがぬ口調で断言した。
(ただ単に、自分以外の人間の考えは、ことごとく間違ってると思ってるだけじゃねえのか)
 美山は腹の中でつぶやいた。口に出すのも面倒だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ナマズの器

螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。 不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

【完結】僕たちのアオハルは血のにおい ~クラウディ・ヘヴン〜 

羽瀬川璃紗
キャラ文芸
西暦1998年、日本。 とある田舎町。そこには、国の重大機密である戦闘魔法使い一族が暮らしている。 その末裔である中学3年生の主人公、羽黒望は明日から夏休みを迎えようとしていた。 盆に開催される奇祭の係に任命された望だが、数々の疑惑と不穏な噂に巻き込まれていく。 穏やかな日々は気付かぬ間に変貌を遂げつつあったのだ。 戦闘、アクション、特殊能力、召喚獣的な存在(あやかし?式神?人外?)、一部グロあり、現代ファンタジー、閉鎖的田舎、特殊な血統の一族、そんな彼らの青春。 章ごとに主人公が変わります。 注意事項はタイトル欄に記載。 舞台が地方なのにご当地要素皆無ですが、よろしくお願いします。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...