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第6話 麗しき秘宝
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瀬戸菜が部下と去った後美山は一旦ホテルに戻り、その後国立南美島美術館に向かった。火曜なので、あまり客はいない。
それでも目当ての王冠があるガラスケースの前には人だかりがしていた。そばには屈強な体格をした警備員が2人立っている。
王冠は黄金製で、色鮮やかな、赤や青や緑の宝石がはめこまれていた。2000年の時を経て、海底から見つかったとは思えないほど、輝きに満ちている。王冠には文字のような物が彫りこまれていた。
国内外の学者が解読しようとしてるが、未だにそれはできていない。文字ではなく模様だという学者もいる。
ガラスケースには防犯用のマグネットセンサーが取りつけられており、複数の防犯カメラが狙っていた。
ガラス自体も防弾仕様のぶあつい代物で、ちょっとやそっとの衝撃では割れそうにない。
美術館の中にはガタイのいい制服のガードマンが大勢巡回したり立哨していて、敷地の外は警官が不定期に巡回していた。
警戒厳重なこの美術館のガードを破って、王冠を奪い去るのは難しそうだ。結局ここは天才ハッカーである衣舞姫の力を借りる形になるかもしれない。
美術館のガードシステムを無力化すれば、意外にたやすく王冠を盗めるかもと思ったが、王冠のガラスケースは美術館の最上階にあり、上空は警察のヘリコプターが不定期に飛んできていた。
ガードシステムを無力化しても、王冠を外へ持ち出すのは難しそうだ。まだカジノの地下金庫にある現ナマを持ち出す方が楽そうに思える。
場合によっては今回盗むのは現ナマだけにして、王冠を諦めた方がいいかもしれない。
この件も含めて皆に報告し、作戦を練り直した方がよさそうだ。今夜9時に美山はある場所で、会議を皆と開く予定であった。
今までもそうだが、テーブルを囲んで皆と話した方が、よい知恵が浮かぶ時が多いのだ。彼は再びホテルに戻った。
夜8時きっかりに、ホテルの部屋の呼び鈴が鳴りひびいた。ドアを開けるとサングラスに帽子をかぶった1人の男が現れた。身長は美山と同じ175センチ。体格もよく似ていた。帽子を外してグラサンも外すと、美山に生き写しの男が現れる。
まるで鏡を見ているようだが、双子ではない。彼の名前は井本豊(いもと ゆたか)。美山が自分の替え玉として使っている男である。
元々顔も背格好も似ていたが、整形してさらに美山の顔に似せ、髪型も一緒にしたので、まるで一卵性双生児のようである。
もちろん整形に関わる諸費用は全部美山が負担した。
体格や体重も、常に美山と同じぐらいになるように、食事の量や運動量も調整している。
井本は普通のサラリーマンだったが、美山が知り合った時ギャンブルと女に金をつぎこみすぎ、首の回らない状態だった。
無論普通はそんなバカは放っておくが、たまたま井本は美山と顔も背格好もよく似ていたのだ。
美山は全ての借金を肩代わりするのとバーターで、替え玉になるのを持ちかけた。
井本はそれを2つ返事で受け入れる。彼には他に選択肢がなかった。せいぜい自殺する時に首をくくるか飛び降りるかを選べるぐらいか。
「よく来てくれた。こんな遠い所まで」
「あんたには世話になってるからな。あんたは命の恩人だ……それにここは、天国みたいな島じゃないか。青い海、白い砂浜、ビキニの綺麗なお姉ちゃん、何だかまるで絵葉書の中にでも迷いこんだみたいだぜ」
井本は声も、美山のそれによく似ていた。つとめて美山の話し方に似せようと特訓してきたからでもあるが。
「確かにな。天国ってのは、こんな場所かもしれねえな」
もっとも自分は死んだとしても、天国に行きはしないだろう。地獄の方に犯罪者専用の指定席が待ってるはずだ。
「早速業務の話で悪いが、これからおれは変装して、打ち合わせに向かう。すでに全国警察は、このホテルをかぎつけてるから、あんたにはここでおれのふりをしてほしい」
「一体サツの奴ら、なんだってこっちの狙いがわかったのかな」
井本が、苦い顔をする。
「誰かチクったのかもしれん。全国警察だって馬鹿じゃないさ。捜査の結果、おれ達の次の狙いがわかったんだろう。ここも偽名で予約して、おれも変装してるのに、美山誠とバレてるしな」
美山は井本と服を交換し、井本のかぶった帽子をかぶり、グラサンをかけた。そしてホテルの外へ出る。美山はタクシーに乗りこんだ。
そして複数のタクシーやバスを乗りかえて、南美島にある『別荘』へと辿りつく。
別荘は二階建ての真っ白な豪邸だった。美山はタクシーの運転手に金を払うと、ポケットから取りだしたリモコンを正門に向けてボタンを押した。門は自動で横に開く。
中に入ると、再びリモコンで門を閉めた。玄関のドアまで行くとドアの方から先に開いて、中から赤のイブニングドレスを着た立岡愛梨が現れた。
いつ見ても、目の覚めるような美しさだ。ふっくらとした唇に穏やかな笑みを浮かべ、目はキラキラと輝いている。
「おかえりなさい。部屋でみんな待ってるわ」
美山は立岡愛梨と共に、応接間へと歩いてゆく。そこにはすでに、今回のメンバーが揃っていた。
ミスティー・ナイツの知恵袋の西園寺に雲村博士、ハッカーの衣舞姫に海夢、釘谷の5人である。
大学を追われた雲村を厳密な意味で博士と呼べるか疑問だが、美山も含めて皆博士と呼んでいた。いわばあだなのようなものか。
すでに食事がはじまっている。見るからに美味そうな料理ばかりだ。鼻をくすぐるいい匂いがする。
食事は別荘を管理している春間(はるま)という男が作ったものだ。名目上はこの家は、彼の邸宅という形になっている。
彼もミスティー・ナイツの一員だ。元々料理人なので、メシを作るのはお手の物だ。
「ようやくボスの登場だな。さすが重役出勤だ」
西園寺が軽口を叩いた。
「ワインにしますか」
春間が部屋に現れて、美山に声をかけてきた。春間は50代ぐらいだろうか。中肉中背の無口な男だ。必要な会話以外はめったにしゃべらない。
「そうしてくれ。赤なら何でもいい」
美山は酒の銘柄にはこだわらない男だった。そもそも味オンチで、銘柄に詳しいわけでもない。アルコールが入っていれば、大抵の酒は美味しく飲めた。
「承知しました」
小声で返答すると、春間はすぐにその場を辞した。
「問題は、王冠の方をどうするかだ」
美山はメンバー全員1人1人の顔を見ながら言葉を投げつけた。
「清武が欲しがってるのは現ナマだけなんだろう。だったら別に王冠なんかいらんじゃないか」
西園寺が呆れた調子で突っこんだ。
「そこはそれ、現金強奪だけじゃ面白くねえだろうよ。男にはロマンって物が必要でしょ」
美山が話す。
「女にだって、ロマンはいります」
横から愛梨が割りこんだ。
「ロマンなんて食えやせんだろう。マロンなら食えるけど」
西園寺が、つまらんだじゃれで応戦してきた。彼は大抵こうやって、ネガティブな意見をぶつけてくる。現実的な男なのだ。
だがそうだから、夢想家の美山といいコンビなのかもしれない。
「最終的にどうするかはともかく、ま、話を聞いてくれや」
美山は王冠の警備体制を説明した。
「まず、無理だろう。その警備体制を崩すのは」
案の定、西園寺が批判した。
「こうしたらどうでしょう」
富口海夢が口をはさんだ。普通に話しているだけでも、甘い美声だ。男が聞いても、耳に心地よく響く。
「現金強奪計画を、わざと発覚させるんです。そっちの対応に警察が追われている間に、王冠を盗んじゃうというのは」
「アイディアとしてはいいんじゃないかな」
「同感だ」
釘谷茂が割りこんだ。
「いわば手品と一緒だな。右手に注意をひきつけている間に、左手で鳩を出すって寸法だ。火事っていうのはどうだろう。美術館か、近くの建物に放火するんだ。火消しには人数が必要だしな。そっちの対応に追われてる間に盗むというのは」
「放火か。そりゃ、いい。その間に王冠も金も盗んじまえばいいんだもんな。ただ、やるにしても、放火で人が死んだりしないよう気をつけんとな」
美山はなるべく殺人はやらない主義だ。正当防衛や、相手が悪党ならともかく、何の罪もない一般人を巻き添えにしたくない。
やるとしたら平日の深夜だろう。もっとも、自分だって世間から見れば悪党なのに『相手が悪党なら』もないもんだが。
「美術館から少し離れた場所にある廃ビルを爆破するってのはどうだ。もっともそんなビルがあるのかどうか、探すのから始めないとな」
釘谷が話しはじめた。
「そこへ警察や消防が駆けつけている最中に、王冠をいただくんだよ」
「王冠を強奪するってアイディアを、まず捨てたら」
今まで黙っていた衣舞姫が横から提案した。口にはタバコをくわえながら、彼女特有の、一瞬投げやりに聞こえる口調でだ。
「何が言いたいのかな」
富口海夢が質問した。
「つまり、誰かが歴史学者に変装するの。そして王冠を研究すると称して一旦それを預かり、精巧にできた偽物とすりかえるってわけ。幸い、ここには変装の名人もいるわけだしね」
衣舞姫は美山の方を見た。確かに彼は今まで状況に応じて、様々な変装をしてきている。昔お笑い芸人だった頃の成果で、物まねも得意だ。
「しかしどうやって精巧な偽物を作るんだ。そんな簡単にはいかんだろう」
釘谷が突っこんだ。
「そういう細工が得意な方がここにはいるのさ。な、そうだろ」
美山は西園寺の方を見た。相棒は、まんざらでもない笑顔を浮かべた。
「実はそんな話になるだろうと思って、ちゃんと用意してあるのさ」
西園寺は説明しながら、部屋の隅まで歩いていき、そこにあったダンボール箱を持ってきた。中を開けると、話題の王冠そっくりのそれが現れる。海底で劣化した感じまで、本物そっくりにできていた。
それでも目当ての王冠があるガラスケースの前には人だかりがしていた。そばには屈強な体格をした警備員が2人立っている。
王冠は黄金製で、色鮮やかな、赤や青や緑の宝石がはめこまれていた。2000年の時を経て、海底から見つかったとは思えないほど、輝きに満ちている。王冠には文字のような物が彫りこまれていた。
国内外の学者が解読しようとしてるが、未だにそれはできていない。文字ではなく模様だという学者もいる。
ガラスケースには防犯用のマグネットセンサーが取りつけられており、複数の防犯カメラが狙っていた。
ガラス自体も防弾仕様のぶあつい代物で、ちょっとやそっとの衝撃では割れそうにない。
美術館の中にはガタイのいい制服のガードマンが大勢巡回したり立哨していて、敷地の外は警官が不定期に巡回していた。
警戒厳重なこの美術館のガードを破って、王冠を奪い去るのは難しそうだ。結局ここは天才ハッカーである衣舞姫の力を借りる形になるかもしれない。
美術館のガードシステムを無力化すれば、意外にたやすく王冠を盗めるかもと思ったが、王冠のガラスケースは美術館の最上階にあり、上空は警察のヘリコプターが不定期に飛んできていた。
ガードシステムを無力化しても、王冠を外へ持ち出すのは難しそうだ。まだカジノの地下金庫にある現ナマを持ち出す方が楽そうに思える。
場合によっては今回盗むのは現ナマだけにして、王冠を諦めた方がいいかもしれない。
この件も含めて皆に報告し、作戦を練り直した方がよさそうだ。今夜9時に美山はある場所で、会議を皆と開く予定であった。
今までもそうだが、テーブルを囲んで皆と話した方が、よい知恵が浮かぶ時が多いのだ。彼は再びホテルに戻った。
夜8時きっかりに、ホテルの部屋の呼び鈴が鳴りひびいた。ドアを開けるとサングラスに帽子をかぶった1人の男が現れた。身長は美山と同じ175センチ。体格もよく似ていた。帽子を外してグラサンも外すと、美山に生き写しの男が現れる。
まるで鏡を見ているようだが、双子ではない。彼の名前は井本豊(いもと ゆたか)。美山が自分の替え玉として使っている男である。
元々顔も背格好も似ていたが、整形してさらに美山の顔に似せ、髪型も一緒にしたので、まるで一卵性双生児のようである。
もちろん整形に関わる諸費用は全部美山が負担した。
体格や体重も、常に美山と同じぐらいになるように、食事の量や運動量も調整している。
井本は普通のサラリーマンだったが、美山が知り合った時ギャンブルと女に金をつぎこみすぎ、首の回らない状態だった。
無論普通はそんなバカは放っておくが、たまたま井本は美山と顔も背格好もよく似ていたのだ。
美山は全ての借金を肩代わりするのとバーターで、替え玉になるのを持ちかけた。
井本はそれを2つ返事で受け入れる。彼には他に選択肢がなかった。せいぜい自殺する時に首をくくるか飛び降りるかを選べるぐらいか。
「よく来てくれた。こんな遠い所まで」
「あんたには世話になってるからな。あんたは命の恩人だ……それにここは、天国みたいな島じゃないか。青い海、白い砂浜、ビキニの綺麗なお姉ちゃん、何だかまるで絵葉書の中にでも迷いこんだみたいだぜ」
井本は声も、美山のそれによく似ていた。つとめて美山の話し方に似せようと特訓してきたからでもあるが。
「確かにな。天国ってのは、こんな場所かもしれねえな」
もっとも自分は死んだとしても、天国に行きはしないだろう。地獄の方に犯罪者専用の指定席が待ってるはずだ。
「早速業務の話で悪いが、これからおれは変装して、打ち合わせに向かう。すでに全国警察は、このホテルをかぎつけてるから、あんたにはここでおれのふりをしてほしい」
「一体サツの奴ら、なんだってこっちの狙いがわかったのかな」
井本が、苦い顔をする。
「誰かチクったのかもしれん。全国警察だって馬鹿じゃないさ。捜査の結果、おれ達の次の狙いがわかったんだろう。ここも偽名で予約して、おれも変装してるのに、美山誠とバレてるしな」
美山は井本と服を交換し、井本のかぶった帽子をかぶり、グラサンをかけた。そしてホテルの外へ出る。美山はタクシーに乗りこんだ。
そして複数のタクシーやバスを乗りかえて、南美島にある『別荘』へと辿りつく。
別荘は二階建ての真っ白な豪邸だった。美山はタクシーの運転手に金を払うと、ポケットから取りだしたリモコンを正門に向けてボタンを押した。門は自動で横に開く。
中に入ると、再びリモコンで門を閉めた。玄関のドアまで行くとドアの方から先に開いて、中から赤のイブニングドレスを着た立岡愛梨が現れた。
いつ見ても、目の覚めるような美しさだ。ふっくらとした唇に穏やかな笑みを浮かべ、目はキラキラと輝いている。
「おかえりなさい。部屋でみんな待ってるわ」
美山は立岡愛梨と共に、応接間へと歩いてゆく。そこにはすでに、今回のメンバーが揃っていた。
ミスティー・ナイツの知恵袋の西園寺に雲村博士、ハッカーの衣舞姫に海夢、釘谷の5人である。
大学を追われた雲村を厳密な意味で博士と呼べるか疑問だが、美山も含めて皆博士と呼んでいた。いわばあだなのようなものか。
すでに食事がはじまっている。見るからに美味そうな料理ばかりだ。鼻をくすぐるいい匂いがする。
食事は別荘を管理している春間(はるま)という男が作ったものだ。名目上はこの家は、彼の邸宅という形になっている。
彼もミスティー・ナイツの一員だ。元々料理人なので、メシを作るのはお手の物だ。
「ようやくボスの登場だな。さすが重役出勤だ」
西園寺が軽口を叩いた。
「ワインにしますか」
春間が部屋に現れて、美山に声をかけてきた。春間は50代ぐらいだろうか。中肉中背の無口な男だ。必要な会話以外はめったにしゃべらない。
「そうしてくれ。赤なら何でもいい」
美山は酒の銘柄にはこだわらない男だった。そもそも味オンチで、銘柄に詳しいわけでもない。アルコールが入っていれば、大抵の酒は美味しく飲めた。
「承知しました」
小声で返答すると、春間はすぐにその場を辞した。
「問題は、王冠の方をどうするかだ」
美山はメンバー全員1人1人の顔を見ながら言葉を投げつけた。
「清武が欲しがってるのは現ナマだけなんだろう。だったら別に王冠なんかいらんじゃないか」
西園寺が呆れた調子で突っこんだ。
「そこはそれ、現金強奪だけじゃ面白くねえだろうよ。男にはロマンって物が必要でしょ」
美山が話す。
「女にだって、ロマンはいります」
横から愛梨が割りこんだ。
「ロマンなんて食えやせんだろう。マロンなら食えるけど」
西園寺が、つまらんだじゃれで応戦してきた。彼は大抵こうやって、ネガティブな意見をぶつけてくる。現実的な男なのだ。
だがそうだから、夢想家の美山といいコンビなのかもしれない。
「最終的にどうするかはともかく、ま、話を聞いてくれや」
美山は王冠の警備体制を説明した。
「まず、無理だろう。その警備体制を崩すのは」
案の定、西園寺が批判した。
「こうしたらどうでしょう」
富口海夢が口をはさんだ。普通に話しているだけでも、甘い美声だ。男が聞いても、耳に心地よく響く。
「現金強奪計画を、わざと発覚させるんです。そっちの対応に警察が追われている間に、王冠を盗んじゃうというのは」
「アイディアとしてはいいんじゃないかな」
「同感だ」
釘谷茂が割りこんだ。
「いわば手品と一緒だな。右手に注意をひきつけている間に、左手で鳩を出すって寸法だ。火事っていうのはどうだろう。美術館か、近くの建物に放火するんだ。火消しには人数が必要だしな。そっちの対応に追われてる間に盗むというのは」
「放火か。そりゃ、いい。その間に王冠も金も盗んじまえばいいんだもんな。ただ、やるにしても、放火で人が死んだりしないよう気をつけんとな」
美山はなるべく殺人はやらない主義だ。正当防衛や、相手が悪党ならともかく、何の罪もない一般人を巻き添えにしたくない。
やるとしたら平日の深夜だろう。もっとも、自分だって世間から見れば悪党なのに『相手が悪党なら』もないもんだが。
「美術館から少し離れた場所にある廃ビルを爆破するってのはどうだ。もっともそんなビルがあるのかどうか、探すのから始めないとな」
釘谷が話しはじめた。
「そこへ警察や消防が駆けつけている最中に、王冠をいただくんだよ」
「王冠を強奪するってアイディアを、まず捨てたら」
今まで黙っていた衣舞姫が横から提案した。口にはタバコをくわえながら、彼女特有の、一瞬投げやりに聞こえる口調でだ。
「何が言いたいのかな」
富口海夢が質問した。
「つまり、誰かが歴史学者に変装するの。そして王冠を研究すると称して一旦それを預かり、精巧にできた偽物とすりかえるってわけ。幸い、ここには変装の名人もいるわけだしね」
衣舞姫は美山の方を見た。確かに彼は今まで状況に応じて、様々な変装をしてきている。昔お笑い芸人だった頃の成果で、物まねも得意だ。
「しかしどうやって精巧な偽物を作るんだ。そんな簡単にはいかんだろう」
釘谷が突っこんだ。
「そういう細工が得意な方がここにはいるのさ。な、そうだろ」
美山は西園寺の方を見た。相棒は、まんざらでもない笑顔を浮かべた。
「実はそんな話になるだろうと思って、ちゃんと用意してあるのさ」
西園寺は説明しながら、部屋の隅まで歩いていき、そこにあったダンボール箱を持ってきた。中を開けると、話題の王冠そっくりのそれが現れる。海底で劣化した感じまで、本物そっくりにできていた。
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