9 / 10
第9話 メイン・パーソナリティ
しおりを挟む
日本時間の土曜の夜は、陽翔はタイタンのホテルに泊まり、日曜の朝転送ステーションから軌道上の地球行き宇宙船に乗りこんだ。
今度の目的地は地球の日本。東京の日野市にある日風翼の邸宅だ。
スターシップは地球の軌道上でワープアウトした。青い宝石のような惑星が、眼前に現れる。
金星も美しいが、人類の故郷の美貌には、他の追随を許さない何かを感じた。
陽翔はマイクロ・ワープで東京の新宿にある転送ステーションに他の乗客達と一緒に実体化した。
新宿は今日も大勢の人が行き交う都会である。
日本の人口は少子高齢化と火星や金星やスペース・コロニーへの移民で5千万人に減っており、都民も500万人に減っていたが、それでも街は賑わっている。
人口の減少は地球的規模の情勢だった。先進国化した国は例外なく少子高齢化が進んだのである。
道路を走る車は全て電気自動車で、発電は地熱や太陽光や風力などの再エネと核融合に頼っている。
地球の地下にあった石油やウランは掘りつくされ、22世紀初頭には枯渇していた。
転送ステーションを出ると、JRの新宿駅に向かう。ここから中央線に乗る。
転送ステーションはどこの国でも大都市の限られた場所にしかないため、日野市に行くには鉄道か車を利用するしかなかった。
無論時間があるのなら、徒歩や自転車でも移動可能だ。
中央線だと新宿駅から日野駅まで1本だった。やがて列車は日野駅に到着する。
駅の改札を出るとゴーグルをかけ、黒のスーツを着た長身の男性が待ち構えていた。
「九石陽翔様ですね」
男は柔和な笑みをたたえ、穏やかな声でそう話した。
「よくわかりましたね」
陽翔はサングラスをしている。太陽系中に名を知られた著名人なので、顔が知られると大勢人が寄ってくる時があるからだ。
「失礼ながら歩き方で個人を認識できるソフトをゴーグルに組みこんでますので。九石様のような有名人ならネットに落ちてるホロ動画から情報をソフトに組みこめますから」
男がそう解説した。
「そういうソフトを使えるのは警察と諜報機関に限られてるはずだけど」
陽翔はそう突っ込んだ。
「我が社の会長日風翼は命を狙われるような時もあります。そのため特例で、犯罪者に関する個人認識ソフトを利用できます。無論犯罪者でなくても、著名なお客様を迎える時には利用させていただいてます。有名人を追いかけるストーカーやパパラッチが日風に危害を加える可能性もありますから」
陽翔は思わず笑ってしまった。
「俺には本来の目的を逸脱してるとしか考えられないなあ。金さえあれば、なんでもありかよ」
「お車を待たせてあります」
陽翔の発言には回答せず、男は黒塗りのエアカーまで案内する。陽翔は後部座席に乗り、男は運転席に腰かけた。
男がトロード・メットをかぶり、脳波通信で運転を指示すると、エアカーは浮上して、後は自動運転で目的地をめざしたのである。
現代の太陽系ではオートドライブが一般的で、自動車の交通事故は皆無に等しい。
やがて現れたのは邸宅の名にふさわしい屋敷であった。
周囲を高い、白い塀に囲まれており、塀の上の向こう側に背の高い樹々の姿が見える。
豪邸の下部には、震災時に浮上するための巨大ノズルが取り付けられていた。
エアカーはやがて正面ゲートにちかづいてゆく。
横に長く縦にも高い金属製の門が、横にスライドして開いていった。その隙間からエアカーが中に滑り込む。
今日は絵に描いたような良い天気だ。太陽の日差しが眩しい。
かつては二酸化炭素の激増による温暖化ならぬ熱中化に苦しめられた地球だが、現在では物質変換機でCO2を無害な何かに変えてしまったり、転送機で大気圏外にワープさせてしまうので、そういった問題はなくなっていた。
屋敷に入ると、使用人らしい年配の女性が陽翔を出迎える。彼を連れてきた男はエアカーに戻った。女性は陽翔を応接室へと案内する。
「こちらです。日風会長と舞さんは、こちらにいらっしゃいます」
女性の手が、扉を開く。
今度の目的地は地球の日本。東京の日野市にある日風翼の邸宅だ。
スターシップは地球の軌道上でワープアウトした。青い宝石のような惑星が、眼前に現れる。
金星も美しいが、人類の故郷の美貌には、他の追随を許さない何かを感じた。
陽翔はマイクロ・ワープで東京の新宿にある転送ステーションに他の乗客達と一緒に実体化した。
新宿は今日も大勢の人が行き交う都会である。
日本の人口は少子高齢化と火星や金星やスペース・コロニーへの移民で5千万人に減っており、都民も500万人に減っていたが、それでも街は賑わっている。
人口の減少は地球的規模の情勢だった。先進国化した国は例外なく少子高齢化が進んだのである。
道路を走る車は全て電気自動車で、発電は地熱や太陽光や風力などの再エネと核融合に頼っている。
地球の地下にあった石油やウランは掘りつくされ、22世紀初頭には枯渇していた。
転送ステーションを出ると、JRの新宿駅に向かう。ここから中央線に乗る。
転送ステーションはどこの国でも大都市の限られた場所にしかないため、日野市に行くには鉄道か車を利用するしかなかった。
無論時間があるのなら、徒歩や自転車でも移動可能だ。
中央線だと新宿駅から日野駅まで1本だった。やがて列車は日野駅に到着する。
駅の改札を出るとゴーグルをかけ、黒のスーツを着た長身の男性が待ち構えていた。
「九石陽翔様ですね」
男は柔和な笑みをたたえ、穏やかな声でそう話した。
「よくわかりましたね」
陽翔はサングラスをしている。太陽系中に名を知られた著名人なので、顔が知られると大勢人が寄ってくる時があるからだ。
「失礼ながら歩き方で個人を認識できるソフトをゴーグルに組みこんでますので。九石様のような有名人ならネットに落ちてるホロ動画から情報をソフトに組みこめますから」
男がそう解説した。
「そういうソフトを使えるのは警察と諜報機関に限られてるはずだけど」
陽翔はそう突っ込んだ。
「我が社の会長日風翼は命を狙われるような時もあります。そのため特例で、犯罪者に関する個人認識ソフトを利用できます。無論犯罪者でなくても、著名なお客様を迎える時には利用させていただいてます。有名人を追いかけるストーカーやパパラッチが日風に危害を加える可能性もありますから」
陽翔は思わず笑ってしまった。
「俺には本来の目的を逸脱してるとしか考えられないなあ。金さえあれば、なんでもありかよ」
「お車を待たせてあります」
陽翔の発言には回答せず、男は黒塗りのエアカーまで案内する。陽翔は後部座席に乗り、男は運転席に腰かけた。
男がトロード・メットをかぶり、脳波通信で運転を指示すると、エアカーは浮上して、後は自動運転で目的地をめざしたのである。
現代の太陽系ではオートドライブが一般的で、自動車の交通事故は皆無に等しい。
やがて現れたのは邸宅の名にふさわしい屋敷であった。
周囲を高い、白い塀に囲まれており、塀の上の向こう側に背の高い樹々の姿が見える。
豪邸の下部には、震災時に浮上するための巨大ノズルが取り付けられていた。
エアカーはやがて正面ゲートにちかづいてゆく。
横に長く縦にも高い金属製の門が、横にスライドして開いていった。その隙間からエアカーが中に滑り込む。
今日は絵に描いたような良い天気だ。太陽の日差しが眩しい。
かつては二酸化炭素の激増による温暖化ならぬ熱中化に苦しめられた地球だが、現在では物質変換機でCO2を無害な何かに変えてしまったり、転送機で大気圏外にワープさせてしまうので、そういった問題はなくなっていた。
屋敷に入ると、使用人らしい年配の女性が陽翔を出迎える。彼を連れてきた男はエアカーに戻った。女性は陽翔を応接室へと案内する。
「こちらです。日風会長と舞さんは、こちらにいらっしゃいます」
女性の手が、扉を開く。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
浦島幻譚
緑川 葵文(みどりかわ あおふみ)
SF
遥かな時の流れに翻弄され、帰るべき場所を失った男が手にした玉手箱。その箱に込められた意味とは何か——。
この物語は、古くから語り継がれる浦島太郎の伝説を、新たな視点と深い哲学的テーマで再構築したものです。幼き日の喪失、孤独に苛まれながらも希望を追い求めた浦島が辿り着いた竜宮城。その美しさに隠された乙姫の秘密、そして帰郷の果てに彼を待ち受けたのは、過ぎ去りし時が変えてしまった村の面影でした。
人はどこまで自らの運命を受け入れ、過去を抱きしめることができるのか。幻想的な描写と重厚な語り口で紡がれる「浦島幻譚」は、読む者に問いを投げかけ、深い余韻を残します。
あなたがもし、浦島の立場に立たされたなら——その手で玉手箱を開けますか?
屑星の英雄はランプを擦る/対抗狙撃戦
二市アキラ(フタツシ アキラ)
SF
人造神グレーテルキューブによって惑星アークへ転送された地球人類は、惑星表面に設置された幾つかの巨大コロニーに分散して生き延びていた。中でも最大規模の人口を有するコロニー・エバーグリーンは、先住生物である昆爬虫類の侵攻から自らの生活圏を守る事に成功し着実にその領土を拡充しつつあった。
だがそれは表向きの話。歴史には様々な暗黒面がある。昆爬虫類と最前線で対峙する一人の若き軍人スパイナーが、英雄的行為によって戦場での壊滅的大打撃を回避した。 しかし彼は、軍上層部からある事実を隠蔽する為に、英雄の称号を与えられながらも強制退役させられていた。
ブロンズメダルの万能兵器コネクターを持つこの英雄スパイナーの渾名はロックロウ。
ロックロウが、しがない特別退役軍人年金の穴埋めに始めた始末屋稼業は、様々なトラブルを彼に運んで来るのだが、、。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
【総集編】未来予測短編集
Grisly
SF
⭐︎登録お願いします。未来はこうなる!
当たったら恐ろしい、未来予測達。
SF短編小説。ショートショート集。
これだけ出せば
1つは当たるかも知れません笑
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる