カレンダー・ガール

空川億里

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第9話 メイン・パーソナリティ

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 日本時間の土曜の夜は、陽翔はタイタンのホテルに泊まり、日曜の朝転送ステーションから軌道上の地球行き宇宙船に乗りこんだ。
 今度の目的地は地球の日本。東京の日野市にある日風翼の邸宅だ。
 スターシップは地球の軌道上でワープアウトした。青い宝石のような惑星が、眼前に現れる。
 金星も美しいが、人類の故郷の美貌には、他の追随を許さない何かを感じた。
 陽翔はマイクロ・ワープで東京の新宿にある転送ステーションに他の乗客達と一緒に実体化した。
 新宿は今日も大勢の人が行き交う都会である。
 日本の人口は少子高齢化と火星や金星やスペース・コロニーへの移民で5千万人に減っており、都民も500万人に減っていたが、それでも街は賑わっている。
 人口の減少は地球的規模の情勢だった。先進国化した国は例外なく少子高齢化が進んだのである。
 道路を走る車は全て電気自動車で、発電は地熱や太陽光や風力などの再エネと核融合に頼っている。
 地球の地下にあった石油やウランは掘りつくされ、22世紀初頭には枯渇していた。
 転送ステーションを出ると、JRの新宿駅に向かう。ここから中央線に乗る。
 転送ステーションはどこの国でも大都市の限られた場所にしかないため、日野市に行くには鉄道か車を利用するしかなかった。
 無論時間があるのなら、徒歩や自転車でも移動可能だ。
 中央線だと新宿駅から日野駅まで1本だった。やがて列車は日野駅に到着する。
 駅の改札を出るとゴーグルをかけ、黒のスーツを着た長身の男性が待ち構えていた。
「九石陽翔様ですね」
 男は柔和な笑みをたたえ、穏やかな声でそう話した。
「よくわかりましたね」
 陽翔はサングラスをしている。太陽系中に名を知られた著名人なので、顔が知られると大勢人が寄ってくる時があるからだ。
「失礼ながら歩き方で個人を認識できるソフトをゴーグルに組みこんでますので。九石様のような有名人ならネットに落ちてるホロ動画から情報をソフトに組みこめますから」
 男がそう解説した。
「そういうソフトを使えるのは警察と諜報機関に限られてるはずだけど」
 陽翔はそう突っ込んだ。
「我が社の会長日風翼は命を狙われるような時もあります。そのため特例で、犯罪者に関する個人認識ソフトを利用できます。無論犯罪者でなくても、著名なお客様を迎える時には利用させていただいてます。有名人を追いかけるストーカーやパパラッチが日風に危害を加える可能性もありますから」
 陽翔は思わず笑ってしまった。
「俺には本来の目的を逸脱してるとしか考えられないなあ。金さえあれば、なんでもありかよ」
「お車を待たせてあります」
 陽翔の発言には回答せず、男は黒塗りのエアカーまで案内する。陽翔は後部座席に乗り、男は運転席に腰かけた。
 男がトロード・メットをかぶり、脳波通信で運転を指示すると、エアカーは浮上して、後は自動運転で目的地をめざしたのである。
 現代の太陽系ではオートドライブが一般的で、自動車の交通事故は皆無に等しい。
 やがて現れたのは邸宅の名にふさわしい屋敷であった。
 周囲を高い、白い塀に囲まれており、塀の上の向こう側に背の高い樹々の姿が見える。
 豪邸の下部には、震災時に浮上するための巨大ノズルが取り付けられていた。
 エアカーはやがて正面ゲートにちかづいてゆく。
 横に長く縦にも高い金属製の門が、横にスライドして開いていった。その隙間からエアカーが中に滑り込む。
 今日は絵に描いたような良い天気だ。太陽の日差しが眩しい。
 かつては二酸化炭素の激増による温暖化ならぬ熱中化に苦しめられた地球だが、現在では物質変換機でCO2を無害な何かに変えてしまったり、転送機で大気圏外にワープさせてしまうので、そういった問題はなくなっていた。
 屋敷に入ると、使用人らしい年配の女性が陽翔を出迎える。彼を連れてきた男はエアカーに戻った。女性は陽翔を応接室へと案内する。
「こちらです。日風会長と舞さんは、こちらにいらっしゃいます」
 女性の手が、扉を開く。
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