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第7話 来るはずの男
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これらの希少種を殺害するのは地球上でもラグランジュ・ポイントでも、太陽系内ならどこでも違法だ。それもあって、ここへは1人で来たのである。
知りあったばかりのファンの女性を連れてきて、ネットで暴露されたりしたら、それこそおれは芸能人を廃業せねばならないだろう。刑務所行きも確実だった。信頼している銅田さんにも狩猟の件は内緒である。
「それじゃあ早速、明日にでも行こうかな」
「お時間はどうします?」
「食事をした後、午後の1時でどうだろう」
「それでは明日の午後1時に参ります」
「寝てるかもしれないけど、遠慮なくチャイムを鳴らしてくれ」
「承知しました」
ソフィアはそれだけ言葉を残すと、再び室外へ出ていった。その夜もおれはコック・ロボットが調理した海の幸をいただいた。どれもマリン・スペースで獲れたての魚介類を調理したものだ。刺身や寿司、焼き魚等、どれも新鮮で美味い物ばかりであった。
酒は何でも選べたが、エデンの農場で収穫された米から作った日本酒を飲んだ。正確には日本で作ったわけではないので、エデン酒とでも呼んだ方がいいのかもしれないが。ほろよい気分になったおれは服を脱いで、真っ白なシーツが敷かれたふかふかのベッドに潜りこんだ。
翌日おれはチャイムの音で、目が覚めた。たっぷり眠った充足感に満ちている。室内にソフィアのホログラムが大きく投影されていた。
「開いてるから入ってよ」
おれは、インターホンのボタンを押すと言葉を発した。
「承知しました」
パースノイドのなめらかな声が返答し、しばらくするとドアが開く音がして、ソフィアが姿を現した。驚く事に、彼女(と呼んでいいものか微妙だが)はカーキ色のベレー帽と、上着とパンツを身につけていた。
「サバンナ・スペースにあわせてコスプレかい」
やわらかな笑みを、ソフィアが返した。
「江間様の分も、用意してますけど」
結局おれも、彼女が持ってきた似たような衣装に着がえさせられた。そして彼女に案内されて、サバンナ・スペースに到着した。
そこは予想した以上に素晴らしい光景が広がっている。キリン、シマウマ、サイ、カバ、ライオン、様々なけだもの達が抜けるような青空の下、放し飼いにされていた。ソフィアの運転する四輪駆動に乗ったおれは、渡されたライフルの使い方を教わり、次々に動物達をしとめていく。
銃声と共に野獣が倒れていくさまはダイナミックで、ヴァーチャル・ゲームでは味わえない体験である。殺したけだもの達の一部は、コロニー内のロボットに命じて剥製にした。これらの動物は狩るのも剥製にするのも禁じられていたが、あらかじめ入福が、剥製を作れるロボットを用意してくれていたのだ。
これらの行為は違法だが、子供時代万引きしたり、女の子のスカートをめくったりした時のような、背徳の喜びをおれは感じていた。そしてサバンナ・スペースでも、おれは新しいコンテンツをイマジネートしたのである。
どこまでも青い空、灼熱の陽光、野獣達、バオバブの木、大航海時代の探険家、リビングストン、暗黒大陸、今は失われたアフリカの大自然……そんなものをテーマに作曲したのである……そんなこんなで残りの12日間も、疾走するチーターのように、過ぎてゆく。
サバンナ・スペースに来てから12回ずつ昼夜を繰り返した後で、いよいよソフィアに連れられて、おれはドッキング・ベイに向かった。
「ちょうど今日本時間で、7月27日の朝7時半です。すでに宇宙船がドッキング・ベイで待機してます」
ソフィアがおれに説明した。
「地球に帰りたくなくなっちゃったな」
こんなに自由を満喫したのは一体いつ以来だろう。いや、初めての経験かも。
「大勢のファンが待ってますわ。帰らないと、みなさん寂しがるでしょう」
ソフィアがそんな台詞を吐いた。
「別に帰らなくたっていいのさ」
おれは、投げやりに言葉を放った。
「ずっとここにいたとしても、みんなおれのコンテンツで、楽しんでくれると思う」
だが、ここにずっと居続けるのは、叶わぬ望みとわかっている。来月には改装工事が始まるのだ。おれはドッキング・ベイに行き、そこで待っていた白いボディの宇宙船に乗りこむと、男性型のパースノイドが、出迎えた。こちら も金髪の白人の姿をしている。
入福には欧米コンプレックスでもあるのだろうか。いや、それは正直自分にもあるとおれは思った。22世紀になっても、太平洋戦争に敗れて以来の敗戦国根性が抜けきれてないのだろう。
「入福さんは、どうしたの?」
おれは、男性型のパースノイドに質問した。
知りあったばかりのファンの女性を連れてきて、ネットで暴露されたりしたら、それこそおれは芸能人を廃業せねばならないだろう。刑務所行きも確実だった。信頼している銅田さんにも狩猟の件は内緒である。
「それじゃあ早速、明日にでも行こうかな」
「お時間はどうします?」
「食事をした後、午後の1時でどうだろう」
「それでは明日の午後1時に参ります」
「寝てるかもしれないけど、遠慮なくチャイムを鳴らしてくれ」
「承知しました」
ソフィアはそれだけ言葉を残すと、再び室外へ出ていった。その夜もおれはコック・ロボットが調理した海の幸をいただいた。どれもマリン・スペースで獲れたての魚介類を調理したものだ。刺身や寿司、焼き魚等、どれも新鮮で美味い物ばかりであった。
酒は何でも選べたが、エデンの農場で収穫された米から作った日本酒を飲んだ。正確には日本で作ったわけではないので、エデン酒とでも呼んだ方がいいのかもしれないが。ほろよい気分になったおれは服を脱いで、真っ白なシーツが敷かれたふかふかのベッドに潜りこんだ。
翌日おれはチャイムの音で、目が覚めた。たっぷり眠った充足感に満ちている。室内にソフィアのホログラムが大きく投影されていた。
「開いてるから入ってよ」
おれは、インターホンのボタンを押すと言葉を発した。
「承知しました」
パースノイドのなめらかな声が返答し、しばらくするとドアが開く音がして、ソフィアが姿を現した。驚く事に、彼女(と呼んでいいものか微妙だが)はカーキ色のベレー帽と、上着とパンツを身につけていた。
「サバンナ・スペースにあわせてコスプレかい」
やわらかな笑みを、ソフィアが返した。
「江間様の分も、用意してますけど」
結局おれも、彼女が持ってきた似たような衣装に着がえさせられた。そして彼女に案内されて、サバンナ・スペースに到着した。
そこは予想した以上に素晴らしい光景が広がっている。キリン、シマウマ、サイ、カバ、ライオン、様々なけだもの達が抜けるような青空の下、放し飼いにされていた。ソフィアの運転する四輪駆動に乗ったおれは、渡されたライフルの使い方を教わり、次々に動物達をしとめていく。
銃声と共に野獣が倒れていくさまはダイナミックで、ヴァーチャル・ゲームでは味わえない体験である。殺したけだもの達の一部は、コロニー内のロボットに命じて剥製にした。これらの動物は狩るのも剥製にするのも禁じられていたが、あらかじめ入福が、剥製を作れるロボットを用意してくれていたのだ。
これらの行為は違法だが、子供時代万引きしたり、女の子のスカートをめくったりした時のような、背徳の喜びをおれは感じていた。そしてサバンナ・スペースでも、おれは新しいコンテンツをイマジネートしたのである。
どこまでも青い空、灼熱の陽光、野獣達、バオバブの木、大航海時代の探険家、リビングストン、暗黒大陸、今は失われたアフリカの大自然……そんなものをテーマに作曲したのである……そんなこんなで残りの12日間も、疾走するチーターのように、過ぎてゆく。
サバンナ・スペースに来てから12回ずつ昼夜を繰り返した後で、いよいよソフィアに連れられて、おれはドッキング・ベイに向かった。
「ちょうど今日本時間で、7月27日の朝7時半です。すでに宇宙船がドッキング・ベイで待機してます」
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こんなに自由を満喫したのは一体いつ以来だろう。いや、初めての経験かも。
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「別に帰らなくたっていいのさ」
おれは、投げやりに言葉を放った。
「ずっとここにいたとしても、みんなおれのコンテンツで、楽しんでくれると思う」
だが、ここにずっと居続けるのは、叶わぬ望みとわかっている。来月には改装工事が始まるのだ。おれはドッキング・ベイに行き、そこで待っていた白いボディの宇宙船に乗りこむと、男性型のパースノイドが、出迎えた。こちら も金髪の白人の姿をしている。
入福には欧米コンプレックスでもあるのだろうか。いや、それは正直自分にもあるとおれは思った。22世紀になっても、太平洋戦争に敗れて以来の敗戦国根性が抜けきれてないのだろう。
「入福さんは、どうしたの?」
おれは、男性型のパースノイドに質問した。
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