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必要なこと。 ○アリス○

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 しばらく待つと、侍従の彼が、プリプリと怒りながら戻ってきた。



「アリス・ベルトハイド公爵令嬢…様。どうぞお入りくださいませ…」

「まぁ!お会い頂けるのね!嬉しいわ。確認どうもありがとう」

「…殿下に危害を加えたり、妙な事をしたら、タダじゃおきませんからね!それに!次も言い逃れ出来る等と、思わないでくださいませ!」

「フフ安心なさって。そのような事、致しませんわ?」


 そう答えて、私はアレクシス殿下の執務室へと入室した。



▼△▼

【アレクシス第一王子殿下・執務室】



「失礼致します」


「…やぁ。ジリアン・カルフル伯爵令嬢…ではなくて、アリス・ベルトハイド公爵令嬢で良かったかな?」


「ええ。その通りですわアレクシス殿下。ご機嫌よう」


「ご機嫌よう。…君から私を訪ねて来てくれるとは、思ってもみなかったから…正直驚いたよ」


「…驚かせてしまい、失礼致しました。
 私も訪問するつもりは、一切無かったのですけれど…必要に駆られましたの。
 だから今回は、仕方なく訪問させて頂きましたわ」


 そう言って、揶揄うような笑みを浮かべる。


「…ふむ。…では、そんなに嫌々ながらも訪問してくれた理由を、教えてくれるかな?」


 そう言って、アレクシス殿下が揶揄う様に、楽し気に問いかけてくる。

 
「ええ。お話しさせて頂きますわ。
 本日は、警告に参りましたの。

 ジーク殿下のお兄様である、アレクシス殿下と、殿下と親しいご友人方への警告ですわ。

 【無垢な悪意】に、ご注意くださいませ」



 私の発言を聞いて、アレクシス殿下が、サッと笑顔を消す。


「…ジークのお兄様ね…。

 それに、警告とは…穏やかじゃないね?
 …色々と疑問があるのだけれど。

 無垢な悪意とは…。
 些か、抽象的過ぎるのでは無いだろうか…?」


「詳細については、お教え出来ませんわ。

 ご自身でお考えくださいませ。
 嫌でも、その内、理解できますわ」


 私の発言を受けて、何か言いたそうにしている殿下を無視して、話を強引に切り替える。


「それより殿下。私、せっかく殿下のお時間を頂くのに、手ぶらで来るような、不作法者では御座いませんわ。

 とっておきのスイーツをお持ちしましたの。

 苦労して入手致しましたのよ?
 折角ですし、今この場でお召し上がり頂けるかしら?」


 クスクスと笑いながら、小箱を差し出す。


「…」


「……アリス嬢。すまない。
 悪いがそれは出来ない決まりなんだ。

 君だからとか、菓子だからとか、誓ってそう言う理由では無い。…無用な疑いを避け、君自身の名誉を守る為でもあるんだ。理解してくれると嬉しい…」


 アレクシス殿下は言いづらそうに、けれど真摯に回答してくれた。



「…左様ですか。今後も例外なく、そのようにご対応くださいませ。そちらは捨てて頂いて構いませんわ」


 何の未練も滲ませず、飄々と言ってのける。


「…」


 単に警告をすると言っても、敵が誰で、何処にいるのか、全くわからない状況で、詳細の説明など出来るはずがなかった。


 ここまで匂わせて、察せ無いようであれば、その程度の人だと言う事。


 勝手に毒漬けになり、退場してもらうまでだ。


「…心遣いと理解…感謝するアリス嬢。
 然るべき手順を踏んでから頂くよ。…ありがとう。

 …けれど、わからないんだ。

 君が、なぜ私に対して、"警告"を…してくれるのかな?」


 殿下が思考を巡らせ、言葉を選びながら、慎重に尋ねてくる。

 アレクシス殿下の質問を聞いて、クスクスと笑い穏やかに回答する。


「…簡単ですわ。

 アレクシス殿下が害される事を、私が望んでいないからですわ。

 もちろん、アレクシス殿下が黒幕であれば、この警告は全て無駄になってしまいます…。

 けれど、それならそれで、構わないのです。

 その場合、殿下の安全に関しては、お約束されておりますでしょ?

 …私は、アレクシス殿下に無事で居て頂けるのなら…それだけで良いのですわ」


 善人に見えるような、笑みを浮かべる。


 そう。


 今後の計画の中で、アレクシス殿下が被害を受けてしまうことが、最も嫌で、最も望まない事だった。

 アレクシス殿下が被害を受けてしまえば、一気にこちらが加害者になってしまう。


 しかも、国家反逆罪とか、王族殺人未遂罪とか、…到底笑えないような犯罪の容疑者になってしまう可能性がある。


 だから事前に、リスクは排除する必要があった。


 アレクシス殿下が被害を受けない中で、皆で立てた計画を、存分に楽しみたかったのだ。



 また、殿下が黒幕であれば、それはそれで構わなかった。


 今回、警告した事で、警戒を緩めるにしろ、強めるにしろ、必ず動きに綻びが生まれる。


 その切っ掛けを、こちらから先手を打って、与える事が出来たのだ。


 どちらにしても、結果を待つだけで良い。



「…心に留めておこう。…警告ありがとうアリス嬢」



「ええ。存分に感謝してくださいませ?
 折角、警告して差し上げたのですから…。
 せいぜい…能天気に、健やかに、お過ごしくださいませ?」


 晴れやかな笑みにのせ、言ってのける。


 そして、思い出したかのような、表情を浮べてから、話を続ける。


「…あら?いけない。忘れる所でしたわ。

 殿下?警告とは別に、お願いが御座いますの。聞いてくださるかしら?」


 小首を傾げて、笑顔を浮かべる。


「…ああ。…可能な事であれば…」
 アレクシス殿下が、僅かに言葉を詰まらせながら、聞いてくる。


「フフ、殿下はお優しいのね?

 では、そんな殿下へのお願いですわ。もしも殿下がレディーから【些細な無礼】を受けたとしても、寛大な心で受け止めて、慈悲深い対応をしてくださいませ。

 貴方にとっては害があっても、誰かが楽しみにしているかもしれませんわ。

 それに…狭量な男は、好かれませんわ」


 そう言って揶揄うように、無邪気で爽やかな笑みを浮かべる。



「…承知した。…胸に刻んでおくとしよう」

 アレクシス殿下は、何かに耐えながら、絞り出すように了承してくれた。



「フフ。ご了承頂き、感謝致しますわ。…では、父も待たせておりますし、そろそろ失礼させて頂きます。ご機嫌よう?」


 自分の言いたい事だけを、笑顔で吐き捨てて、さっさと退室する。


 もうこの場所に用はない。



 計画は、順調に進んでいる。

 なんて楽しみなのだろう…。


 そんな事を考えながら、アリスは王宮内を、上機嫌に移動するのであった。


 1人残されたアレクシス殿下が、耳を赤く染めていた事実に、アリスが気付く事は無かったのであった。



 王位奪取計画・第三段階・種蒔き。
・アレクシス殿下に警告する。
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