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6 月無き世界、君無き世界
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月が無くなると、どういう事になるのか。
最初の変化は海の潮の満ち引きが無くなった。
それは些細な変化に過ぎなかった。次に地球にとって大きな変化が現れる。
地球は二十三.四度傾いているだが、その地軸の傾きが無くなったのだ。
地軸の傾きは地球から約三十八万キロメートル離れた場所にある月の引力によってもたされていた。
その地軸の傾きが無くなると地球から季節が無くなった。
傾いている角度によって地球に当たる太陽光の面積に差があることで、それぞれの地域に気候の変化を生じさせ、夏や冬などの季節を作り出していたのだ。
そして地球の自転にも影響をもたらした。
一日が二十四時間から約五時間になったのだ。
朝が来たと思えば、すぐに夜が来る。地球の自転速度が速くなってしまった。
先の月の引力によって、地球の自転速度に歯止めがかけられ、一日の自転周期を二十四時間にしていたのだ。
一日が五時間になったことで、地球の生態環境に大きな影響を与えた。
何十億年、一日が二十四時間であるというサイクルで生きていた生物・植物のバイオリズムを大きく崩し、発育不全の原因となった。植物は育たなくなり、生物の体調を悪くさせた。
それだけではなく、陽が出る時間はわずか二時間となり、短い日照時間の影響もあって寒冷化を促し、生態系の成長悪化により拍車をかけた。
育たなくなった植物は枯れ、太陽の光を見失った生物の活動は衰えていった。
その他にも地軸の変動が影響してか、様々な災害が起こり、地球は生物達が生きるのに厳しい星となった。
◆◆◆
ルナは激しい後悔の念に駆られた。
月である自分が地球に来てしまった為に。
地球から戻れなくなってしまった為に。
月が消えてしまい、地球がこんな風になってしまった。
ルナは自分に責があると感じていた。
そんな苦しむルナをアランは慰めた。
「君の所為じゃ無いよ、世界がこうなってしまったのは……」
アランと出会わなければ――
だけど――
「月が消えてしまったことよりも……僕は、君と逢えなくなってしまうことの方が、イヤだ……」
ルナもアランと逢えなくなることのほうが、悲痛な思いで一杯になる。
「ルナ。何処までも二人は一緒だ。世界がこうなってしまったけど、僕は幸せだよ。ルナ……」
「アラン……」
「そうだ、ルナ。日本に行こう」
「日本? なぜ」
「日本は何度も襲い掛かってくる危機的な災害に屈せず、何度も復興してきた奇跡の国だ。日本に行けば、ここよりは安全に暮らせると思うよ。行こう、ルナ」
幸せと感じていたのは、世界でルナとアランだけだっただろう。
しかし、地球上の生物を不幸にしてしまった二人が、幸せを謳歌するのを本物の神様は与えてはくれなかった。
日本に向かうため、二人が運良く乗れた飛行機が太陽の電磁波によってマシントラブルを引き起こし、海へと墜落したのだった。
ルナはアランと辛うじて脱出したが、海は荒れ狂い、二人は波に飲み込まれてしまった。
決して死ぬことが出来ないルナは、何処か知らない砂浜に、先ほど自分たちが乗っていただろう飛行機の残骸と共に打ち上げられていた。
だが、そばにアランはいなかった。
それからルナはアランを捜す為に各地をさ迷い歩く。
何処に行っても数多くの亡骸が地に横たわっていた。その一人一人の顔を確かめ、それがアランでないと解かると胸を撫で下ろした。
ルナは心の何処かで……いや、心の底から信じていたのだろう。きっと、アランは生きていると。そう思いながら、アランを探し続けた。
やがて百年の月日が過ぎ去った――
◆◆◆
地球の景色は大きく変わってしまっていた。
見渡す限り広がっていた海は枯れ果て、岩と砂ばかりの荒廃した大地と化していた。
それはまるで月のようだった。
ルナが見飽きてしまったあの景色と同じ。
そして地球上のどこにでもいた人間の姿を見かけなくなったが、滅びた訳ではない。
世界はこんな風になってしまっても、生き延びた人間は安全な場所に集まり、共同交流関係を築いては、過去の文明遺産を再利用しつつ細々と暮らしていた。
だがしかし、生活環境は石器時代のようで、文明は随分と退化してしまっていた。
その人間の暮らしを横目で見つつ、ルナはアランを捜したが見つけられなかった。
その代わりなのか、アランを捜すついでに墜落の時に無くしてしまったアランから貰ったもの―綺麗な石や指輪、ギザギザな欠片―を捜しては、似たようなものを拾ったりした。
百年もの間――そんな風に過ごしていた。その年月は、ルナにとっては十ヶ月ほどの時間間隔だが、この地球に暮らす者たちにとっては長く儚い時間だろう。
五十年ほど経った時に、ルナは気付き始めていた。
アランは既に―――
しかし、アランを捜すことを止めなかった。
それは月に戻れないルナが、地球にいる存在理由でもあったからだ。アランを捜し続けるのがルナの贖罪であるかのように。
だけど、ルナがアランの後を追うことが出来たのなら、迷わず行動を起こしていただろう。
だが、死ぬことが出来ない体であるルナに、その選択は出来なかったのである。
今もまだ月の無い空を眺めながら、月のような大地をさすらい、アランを捜し続けていた。
変わらない日々だがったが、今日、ある人間と出逢ってしまった。
偶然にもアランという同じ名を持つ青年――バーニング・ライト・アランを瞳に映すと、アラン・ブラウンの姿が思い浮かんだ。
最初の変化は海の潮の満ち引きが無くなった。
それは些細な変化に過ぎなかった。次に地球にとって大きな変化が現れる。
地球は二十三.四度傾いているだが、その地軸の傾きが無くなったのだ。
地軸の傾きは地球から約三十八万キロメートル離れた場所にある月の引力によってもたされていた。
その地軸の傾きが無くなると地球から季節が無くなった。
傾いている角度によって地球に当たる太陽光の面積に差があることで、それぞれの地域に気候の変化を生じさせ、夏や冬などの季節を作り出していたのだ。
そして地球の自転にも影響をもたらした。
一日が二十四時間から約五時間になったのだ。
朝が来たと思えば、すぐに夜が来る。地球の自転速度が速くなってしまった。
先の月の引力によって、地球の自転速度に歯止めがかけられ、一日の自転周期を二十四時間にしていたのだ。
一日が五時間になったことで、地球の生態環境に大きな影響を与えた。
何十億年、一日が二十四時間であるというサイクルで生きていた生物・植物のバイオリズムを大きく崩し、発育不全の原因となった。植物は育たなくなり、生物の体調を悪くさせた。
それだけではなく、陽が出る時間はわずか二時間となり、短い日照時間の影響もあって寒冷化を促し、生態系の成長悪化により拍車をかけた。
育たなくなった植物は枯れ、太陽の光を見失った生物の活動は衰えていった。
その他にも地軸の変動が影響してか、様々な災害が起こり、地球は生物達が生きるのに厳しい星となった。
◆◆◆
ルナは激しい後悔の念に駆られた。
月である自分が地球に来てしまった為に。
地球から戻れなくなってしまった為に。
月が消えてしまい、地球がこんな風になってしまった。
ルナは自分に責があると感じていた。
そんな苦しむルナをアランは慰めた。
「君の所為じゃ無いよ、世界がこうなってしまったのは……」
アランと出会わなければ――
だけど――
「月が消えてしまったことよりも……僕は、君と逢えなくなってしまうことの方が、イヤだ……」
ルナもアランと逢えなくなることのほうが、悲痛な思いで一杯になる。
「ルナ。何処までも二人は一緒だ。世界がこうなってしまったけど、僕は幸せだよ。ルナ……」
「アラン……」
「そうだ、ルナ。日本に行こう」
「日本? なぜ」
「日本は何度も襲い掛かってくる危機的な災害に屈せず、何度も復興してきた奇跡の国だ。日本に行けば、ここよりは安全に暮らせると思うよ。行こう、ルナ」
幸せと感じていたのは、世界でルナとアランだけだっただろう。
しかし、地球上の生物を不幸にしてしまった二人が、幸せを謳歌するのを本物の神様は与えてはくれなかった。
日本に向かうため、二人が運良く乗れた飛行機が太陽の電磁波によってマシントラブルを引き起こし、海へと墜落したのだった。
ルナはアランと辛うじて脱出したが、海は荒れ狂い、二人は波に飲み込まれてしまった。
決して死ぬことが出来ないルナは、何処か知らない砂浜に、先ほど自分たちが乗っていただろう飛行機の残骸と共に打ち上げられていた。
だが、そばにアランはいなかった。
それからルナはアランを捜す為に各地をさ迷い歩く。
何処に行っても数多くの亡骸が地に横たわっていた。その一人一人の顔を確かめ、それがアランでないと解かると胸を撫で下ろした。
ルナは心の何処かで……いや、心の底から信じていたのだろう。きっと、アランは生きていると。そう思いながら、アランを探し続けた。
やがて百年の月日が過ぎ去った――
◆◆◆
地球の景色は大きく変わってしまっていた。
見渡す限り広がっていた海は枯れ果て、岩と砂ばかりの荒廃した大地と化していた。
それはまるで月のようだった。
ルナが見飽きてしまったあの景色と同じ。
そして地球上のどこにでもいた人間の姿を見かけなくなったが、滅びた訳ではない。
世界はこんな風になってしまっても、生き延びた人間は安全な場所に集まり、共同交流関係を築いては、過去の文明遺産を再利用しつつ細々と暮らしていた。
だがしかし、生活環境は石器時代のようで、文明は随分と退化してしまっていた。
その人間の暮らしを横目で見つつ、ルナはアランを捜したが見つけられなかった。
その代わりなのか、アランを捜すついでに墜落の時に無くしてしまったアランから貰ったもの―綺麗な石や指輪、ギザギザな欠片―を捜しては、似たようなものを拾ったりした。
百年もの間――そんな風に過ごしていた。その年月は、ルナにとっては十ヶ月ほどの時間間隔だが、この地球に暮らす者たちにとっては長く儚い時間だろう。
五十年ほど経った時に、ルナは気付き始めていた。
アランは既に―――
しかし、アランを捜すことを止めなかった。
それは月に戻れないルナが、地球にいる存在理由でもあったからだ。アランを捜し続けるのがルナの贖罪であるかのように。
だけど、ルナがアランの後を追うことが出来たのなら、迷わず行動を起こしていただろう。
だが、死ぬことが出来ない体であるルナに、その選択は出来なかったのである。
今もまだ月の無い空を眺めながら、月のような大地をさすらい、アランを捜し続けていた。
変わらない日々だがったが、今日、ある人間と出逢ってしまった。
偶然にもアランという同じ名を持つ青年――バーニング・ライト・アランを瞳に映すと、アラン・ブラウンの姿が思い浮かんだ。
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