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エピローグ
トゥルーエンド(8) ※公爵視点
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伯爵を抱え、シメオンが満足げな様子で去って行ったあと。
朝に向かう森の空を、ヴォルフは一人見上げていた。
視線は自然と、屋敷のある方角に向かう。
今ごろアネッサは、なにも知らずにベッドの中で眠っているはずだ。
可愛い恋人の寝姿を想像し、ヴォルフは知らず、顔に笑みを浮かべていた。
甘い笑みの、甘い瞳に宿るのは、どうしようもない愛しさと、尽きない欲望と――かすかな、憐憫の情。
――化け物。
伯爵が叫んだ言葉を否定する気はさらさらない。
ヴォルフはたしかに化け物だ。
魔族でもなく、人でもなく、同時にどちらでもある。
不安定で、揺らぎやすく、放っておけばすぐに転がり落ちるモノ。
――アネッサ。
今のヴォルフを人に押し留めているのは、ただ彼女の存在があるだけだ。
アネッサが見放した血族には、こうも簡単にもう一つの顔をのぞかせる。
伯爵を前にした彼は、まぎれもない魔族だった。
――君が俺を人にするんだ。
彼女の前では人間でありたい。
善良でありふれた、平凡な一人の娘に相応しい、同じだけありふれた男でいたい。
彼女が望むなら、ヴォルフはどんな強い欲望も呑み込んで人になれる。
だから――。
――目を離さないでくれよ。
屋敷で眠る恋人を想い、ヴォルフは祈るように目を細める。
ヴォルフの腕に囚われながら、ヴォルフの心を捕らえて離さない、哀れで罪深い籠の鳥。
――俺を、ずっと人間のままでいさせてくれ、アネッサ。
ヴォルフが逃げられないように、彼女ももう逃げられないのだと、永遠に気が付かないままでいてくれるように。
愛しい恋人の瞳に似た、澄んだ緑の木漏れ日に――ヴォルフは静かに、強く願い続けた。
(トゥルーエンド 終わり)
――――――――――――――――――
ここまでお読みくださりありがとうございました!
想像以上に多くの方に読んでいただけて、本当に嬉しかったです。
よろしければ、ぜひ感想などいただけますと幸いですー!!
朝に向かう森の空を、ヴォルフは一人見上げていた。
視線は自然と、屋敷のある方角に向かう。
今ごろアネッサは、なにも知らずにベッドの中で眠っているはずだ。
可愛い恋人の寝姿を想像し、ヴォルフは知らず、顔に笑みを浮かべていた。
甘い笑みの、甘い瞳に宿るのは、どうしようもない愛しさと、尽きない欲望と――かすかな、憐憫の情。
――化け物。
伯爵が叫んだ言葉を否定する気はさらさらない。
ヴォルフはたしかに化け物だ。
魔族でもなく、人でもなく、同時にどちらでもある。
不安定で、揺らぎやすく、放っておけばすぐに転がり落ちるモノ。
――アネッサ。
今のヴォルフを人に押し留めているのは、ただ彼女の存在があるだけだ。
アネッサが見放した血族には、こうも簡単にもう一つの顔をのぞかせる。
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――君が俺を人にするんだ。
彼女の前では人間でありたい。
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彼女が望むなら、ヴォルフはどんな強い欲望も呑み込んで人になれる。
だから――。
――目を離さないでくれよ。
屋敷で眠る恋人を想い、ヴォルフは祈るように目を細める。
ヴォルフの腕に囚われながら、ヴォルフの心を捕らえて離さない、哀れで罪深い籠の鳥。
――俺を、ずっと人間のままでいさせてくれ、アネッサ。
ヴォルフが逃げられないように、彼女ももう逃げられないのだと、永遠に気が付かないままでいてくれるように。
愛しい恋人の瞳に似た、澄んだ緑の木漏れ日に――ヴォルフは静かに、強く願い続けた。
(トゥルーエンド 終わり)
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