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おかえり(3)
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そういうわけで、現在。
私は猛烈に荒れていた。
「――あの、頑固者!!!!」
医務室から場所を移し、王宮にある私の仮眠室。
仮眠室にしては少々立派なその部屋のソファに腰を掛け、私はこぶしを震わせる。
荒れに荒れながら思い返すのは、医務室での姉とのやり取りだ。
「なぁにが、『さっさと出ていきなさい。見世物じゃないのよ』よ! 『あなたと話すことなんてないわ』よ!!」
人払いをした医務室。静かで穏やかな朝の空気。
すれ違い、わだかまり、後悔を残した追放から一年。ようやく互いの本心を知り、しめやかに和解――なんてことにはならなかった。
しめやかどころか、言い争いの末の喧嘩別れ。
一年経っても姉は相変わらずである。
「ほんっと、少しは反省したと思ったら! もっと素直になれないのかしら!」
返す返すも腹立たしく、私はソファのクッションにこぶしを叩きつける。
テオドールを沈めた一撃を受け、クッションはぼすんと弾んで落ちていくけれど、拾ってやるだけの心の余裕はない。私の内心は大荒れなのだ。
――あんな面倒な人、相手にできるのは卿くらいだわ!
荒々しくソファに座りなおし、ふん! と鼻息もまた荒く吐く。
忍耐強いヴァニタス卿と違って、私はとても姉の頑固さに付き合ってはいられない。あれでは慰める気も起きないし、そもそも姉の方も私に慰められたくはないだろう。
姉の相手など、卿一人がいれば十分。面倒ごとは押し付けるに限るということで、見舞いの花だけ置いて早々に逃げてきたのが現在の私なのである。
もっとも、逃げたところで腹の虫は治まらない。
むしろ時間が経つほどに、姉の態度への腹立たしさは増していく。
「あの人、今の自分がどんな立場かわかっているの!? 意地なんて張っている場合じゃないでしょうに!」
テオドールに操られていたとはいえ、姉がしたことは大罪も大罪だ。
一年前の『嫌疑』とは比べ物にならない。直接国に刃を向けたに等しいことをしたのである。
本来なら極刑は免れない。どれほど甘い判断を下しても、重罪人の入る地下監獄で死ぬまで幽閉だ。
それほどの重い処罰が保留となっているのは、ひとえに今回の件が姉の本意ではなかったからこそ。
魅了で望まぬ行為を強いられた状態で、姉の責任をどれほどと見るべきかで、王宮では意見が大きく揺れていた。
要するに、ここが同情の引きどころということだ。
意地を張らず素直に落ち込み、悲しみ、深く後悔する姿を見てもらえれば、人々は『姉もまた被害者だった』と考えてくれるはずである――。
……と、いうのに。
「どうして強がって見せるのよ! 涙は隠すより見せなさいよ! いつもいつも、お姉様って人は――うぐっ」
姉への怒りに声を荒げた瞬間、腹部に強い痛みが走る。
不本意ながら慣れ親しんだ感覚に、私は腹を押えてうなだれた。
「い、いたたた……! 胃が……!!」
「まあまあ、リリア」
痛みに唇を噛む私に、やはり慣れたように差し出されるのは胃薬だ。
誰が差し出してきたかは、視線を向けるまでもない。
向けるまでもないけれど、ちらりと視線を向けた先。
これもまた見慣れた紫の目が、私を映して細められる。
「いったん落ち着きなよ。そんな興奮することないって」
「……ジュリアン」
もちろん、胃薬を手にするのは私の幼なじみのジュリアンだ。
彼は私と同じく、医務室で姉に追い払われた身。そのままどうしてか私についてきて、仮にも未婚の令嬢の部屋にどうしてか当たり前の顔で居座っているのは置いておいて――。
「リリアがルシアを心配する気持ちはわかるけどね。そんなに不安にならなくても、たぶん大丈夫だよ」
この男、にこやかに胃痛も忘れるほどおぞましいことを言った。
誰が、誰を心配しているって?
私は猛烈に荒れていた。
「――あの、頑固者!!!!」
医務室から場所を移し、王宮にある私の仮眠室。
仮眠室にしては少々立派なその部屋のソファに腰を掛け、私はこぶしを震わせる。
荒れに荒れながら思い返すのは、医務室での姉とのやり取りだ。
「なぁにが、『さっさと出ていきなさい。見世物じゃないのよ』よ! 『あなたと話すことなんてないわ』よ!!」
人払いをした医務室。静かで穏やかな朝の空気。
すれ違い、わだかまり、後悔を残した追放から一年。ようやく互いの本心を知り、しめやかに和解――なんてことにはならなかった。
しめやかどころか、言い争いの末の喧嘩別れ。
一年経っても姉は相変わらずである。
「ほんっと、少しは反省したと思ったら! もっと素直になれないのかしら!」
返す返すも腹立たしく、私はソファのクッションにこぶしを叩きつける。
テオドールを沈めた一撃を受け、クッションはぼすんと弾んで落ちていくけれど、拾ってやるだけの心の余裕はない。私の内心は大荒れなのだ。
――あんな面倒な人、相手にできるのは卿くらいだわ!
荒々しくソファに座りなおし、ふん! と鼻息もまた荒く吐く。
忍耐強いヴァニタス卿と違って、私はとても姉の頑固さに付き合ってはいられない。あれでは慰める気も起きないし、そもそも姉の方も私に慰められたくはないだろう。
姉の相手など、卿一人がいれば十分。面倒ごとは押し付けるに限るということで、見舞いの花だけ置いて早々に逃げてきたのが現在の私なのである。
もっとも、逃げたところで腹の虫は治まらない。
むしろ時間が経つほどに、姉の態度への腹立たしさは増していく。
「あの人、今の自分がどんな立場かわかっているの!? 意地なんて張っている場合じゃないでしょうに!」
テオドールに操られていたとはいえ、姉がしたことは大罪も大罪だ。
一年前の『嫌疑』とは比べ物にならない。直接国に刃を向けたに等しいことをしたのである。
本来なら極刑は免れない。どれほど甘い判断を下しても、重罪人の入る地下監獄で死ぬまで幽閉だ。
それほどの重い処罰が保留となっているのは、ひとえに今回の件が姉の本意ではなかったからこそ。
魅了で望まぬ行為を強いられた状態で、姉の責任をどれほどと見るべきかで、王宮では意見が大きく揺れていた。
要するに、ここが同情の引きどころということだ。
意地を張らず素直に落ち込み、悲しみ、深く後悔する姿を見てもらえれば、人々は『姉もまた被害者だった』と考えてくれるはずである――。
……と、いうのに。
「どうして強がって見せるのよ! 涙は隠すより見せなさいよ! いつもいつも、お姉様って人は――うぐっ」
姉への怒りに声を荒げた瞬間、腹部に強い痛みが走る。
不本意ながら慣れ親しんだ感覚に、私は腹を押えてうなだれた。
「い、いたたた……! 胃が……!!」
「まあまあ、リリア」
痛みに唇を噛む私に、やはり慣れたように差し出されるのは胃薬だ。
誰が差し出してきたかは、視線を向けるまでもない。
向けるまでもないけれど、ちらりと視線を向けた先。
これもまた見慣れた紫の目が、私を映して細められる。
「いったん落ち着きなよ。そんな興奮することないって」
「……ジュリアン」
もちろん、胃薬を手にするのは私の幼なじみのジュリアンだ。
彼は私と同じく、医務室で姉に追い払われた身。そのままどうしてか私についてきて、仮にも未婚の令嬢の部屋にどうしてか当たり前の顔で居座っているのは置いておいて――。
「リリアがルシアを心配する気持ちはわかるけどね。そんなに不安にならなくても、たぶん大丈夫だよ」
この男、にこやかに胃痛も忘れるほどおぞましいことを言った。
誰が、誰を心配しているって?
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