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一年前、後悔(2)
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調べてみれば、単純な話だ。
首謀者は姉の地位を娘に与えたい大貴族。
実際に動いているのはその傘下の貴族たちで、彼らが一部の魔術師を引き込んだ。
引き込んだ魔術師に約束したのは、『一時的な』魔術師団の退団と、姉失脚後の好待遇での復団だ。代わりに魔術師たちは師団内で姉への不満や不信を煽り、他の魔術師たちにも退団するよう促した。
もともと、敵を作りやすい姉のこと。魔術師団内では常に不満がくすぶっていた。
不満を煽る魔術師に賛同し、これで姉がいなくなるなら――あるいは反省するならと、自主的に退団する者はすぐに現れた。
それを見た他の魔術師も同調して後に続き、さらに退団の流れができると、あとは転がるように退団者が増えていくだけだ。
私たちが動き出したときには、もう流れを止められない状態だった。
相手は手札を揃え、手駒を揃え、すでに動き出したあと。今さら証拠を集め、首謀者を挙げようとしても間に合わない。それよりも、相手が姉の嫌疑を表沙汰にする方が早い。
どう考えても、このままでは首謀者まで手が届かない。それだけの時間が圧倒的に足りない。
私たちは、気付くのがあまりにも遅すぎたのだ。
首謀者の望みは、姉を罪人にすることだった。
どんな小さな罪でもいい。一度泥さえつけば、聖女ではいられない。王妃にも選ばれない。
身元の正しさが求められる王宮の魔術師団にもいられず、魔術師としての姉の影響力は地に落ちる。
陛下はたぶん、姉に足枷を付けることを望まれた。
姉に王妃は務まらない。だけど姉の能力は、手離すにはあまりにも惜しいもの。
この国に残し、国のために働かせたいと考えられたのだろう。
そのためには、罪の烙印は好都合だった。
両親は、罪を負うであろう姉を受け入れるつもりでいた。
きっかけは首謀者の欲得でも、彼らが利用した感情は本物だ。姉は事実として恨まれ、疎まれて、それによって魔術師団は機能不全に陥った。
姉を制御できなかったのは、親である自分たち。その責任は負わなければならないと、姉とともに罪を受け入れようとしていた。
――……だから。
「――――追放しよう」
追放を決めたのは私たちだ。
「ルシアを罪人にはしない。嫌疑が表に出る前に、国の外に逃がすんだ」
最初に言い出したのはフレデリク殿下で、ジュリアンが姉を手元に置きたい陛下を説得し、私が説得に使った『瘴気の予測』の資料を集めた。
すべては、姉を無実のまま逃がすためだ。
常に正しくあろうとし、国と民のために尽くしてきた姉に罪の烙印は押させない。
それは姉のこれまでをすべて否定することであり、姉を殺すのと同じことだ。
「罪を問うのではなく、私の一存で一方的に追放する。批判を私に向け、ルシアに同情を集めよう。……もともと、ルシアへの反感から始まった動きだ。これでルシアが同情されれば、あるいは――」
あるいは、なにかが変わっていただろうか。
一年前のあの日。あのとき。
人を集めた盛大な追放劇は、姉への見せしめであり、姉を逃がすための場であり――。
同時に、『あるいは』を期待した、最後の機会でもあった。
もともと姉には功績がある。理不尽な追放で姉に同情が集まれば、かばう者も出ただろう。
退団者の多くは、姉に反省を求めていた。あの場で自分の行動を省みれば、戻ってきた魔術師もいただろう。
あるいは、姉が泣いて縋っていたなら、殿下は――。
もしかしたら、立場も身分も捨て、姉とどこへでも逃げるつもりだったのかもしれない。
すべてが終わってから、殿下が国境での警備を志願したのは、姉の責任を負うためだけではなくて。
本当は、隣国のどこかにいるはずの姉を探していたのではないだろうか。
――なんて。
そんなこと、今さら言っても仕方のないことだけれど。
首謀者は姉の地位を娘に与えたい大貴族。
実際に動いているのはその傘下の貴族たちで、彼らが一部の魔術師を引き込んだ。
引き込んだ魔術師に約束したのは、『一時的な』魔術師団の退団と、姉失脚後の好待遇での復団だ。代わりに魔術師たちは師団内で姉への不満や不信を煽り、他の魔術師たちにも退団するよう促した。
もともと、敵を作りやすい姉のこと。魔術師団内では常に不満がくすぶっていた。
不満を煽る魔術師に賛同し、これで姉がいなくなるなら――あるいは反省するならと、自主的に退団する者はすぐに現れた。
それを見た他の魔術師も同調して後に続き、さらに退団の流れができると、あとは転がるように退団者が増えていくだけだ。
私たちが動き出したときには、もう流れを止められない状態だった。
相手は手札を揃え、手駒を揃え、すでに動き出したあと。今さら証拠を集め、首謀者を挙げようとしても間に合わない。それよりも、相手が姉の嫌疑を表沙汰にする方が早い。
どう考えても、このままでは首謀者まで手が届かない。それだけの時間が圧倒的に足りない。
私たちは、気付くのがあまりにも遅すぎたのだ。
首謀者の望みは、姉を罪人にすることだった。
どんな小さな罪でもいい。一度泥さえつけば、聖女ではいられない。王妃にも選ばれない。
身元の正しさが求められる王宮の魔術師団にもいられず、魔術師としての姉の影響力は地に落ちる。
陛下はたぶん、姉に足枷を付けることを望まれた。
姉に王妃は務まらない。だけど姉の能力は、手離すにはあまりにも惜しいもの。
この国に残し、国のために働かせたいと考えられたのだろう。
そのためには、罪の烙印は好都合だった。
両親は、罪を負うであろう姉を受け入れるつもりでいた。
きっかけは首謀者の欲得でも、彼らが利用した感情は本物だ。姉は事実として恨まれ、疎まれて、それによって魔術師団は機能不全に陥った。
姉を制御できなかったのは、親である自分たち。その責任は負わなければならないと、姉とともに罪を受け入れようとしていた。
――……だから。
「――――追放しよう」
追放を決めたのは私たちだ。
「ルシアを罪人にはしない。嫌疑が表に出る前に、国の外に逃がすんだ」
最初に言い出したのはフレデリク殿下で、ジュリアンが姉を手元に置きたい陛下を説得し、私が説得に使った『瘴気の予測』の資料を集めた。
すべては、姉を無実のまま逃がすためだ。
常に正しくあろうとし、国と民のために尽くしてきた姉に罪の烙印は押させない。
それは姉のこれまでをすべて否定することであり、姉を殺すのと同じことだ。
「罪を問うのではなく、私の一存で一方的に追放する。批判を私に向け、ルシアに同情を集めよう。……もともと、ルシアへの反感から始まった動きだ。これでルシアが同情されれば、あるいは――」
あるいは、なにかが変わっていただろうか。
一年前のあの日。あのとき。
人を集めた盛大な追放劇は、姉への見せしめであり、姉を逃がすための場であり――。
同時に、『あるいは』を期待した、最後の機会でもあった。
もともと姉には功績がある。理不尽な追放で姉に同情が集まれば、かばう者も出ただろう。
退団者の多くは、姉に反省を求めていた。あの場で自分の行動を省みれば、戻ってきた魔術師もいただろう。
あるいは、姉が泣いて縋っていたなら、殿下は――。
もしかしたら、立場も身分も捨て、姉とどこへでも逃げるつもりだったのかもしれない。
すべてが終わってから、殿下が国境での警備を志願したのは、姉の責任を負うためだけではなくて。
本当は、隣国のどこかにいるはずの姉を探していたのではないだろうか。
――なんて。
そんなこと、今さら言っても仕方のないことだけれど。
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