えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲

文字の大きさ
上 下
45 / 58

一年前、後悔(1)

しおりを挟む
 ――――可愛いだけの無能な妹。

 その言葉を否定する資格は、私にはない。
 まさしく私は無能だった。可愛こぶるだけしか能がなかった。
 それで、すべてが丸く収まるのだと思っていた。

 自分を賢いと思い、立ち回りが上手いと思い、どうしようもない姉を私が助けているのだと思い込んでいた。
 一年前のあの日、あのとき、あの瞬間まで。
 私はどうしようもなく未熟な、世間知らずだったのだ。



「――――お姉様に、謀反の嫌疑?」

 最初に『それ』を聞いたのは、ジュリアンからだった。

 忘れもしない、一年前の王宮。
 姉を追放する、ひと月前のことだ。

「まだ確定じゃない。ただ、『そういうこと』にしようという動きがあるんだ。――魔術師はこの国の維持に必須。その魔術師を退団させるルシアは、自分一人に国を依存させようとしている。……国を私物化しようとしてる、ってね」

「…………まさか」

 まさか、そんなはずはない。
 まさか、誰がそんなことを。

 そのどちらも、私は口にできなかった。

 姉の真意はさて置いて、魔術師団の退団者が続いているのは事実だ。
 姉のやり方についていけない、あまりに厳しすぎると去っていく者が後を絶たず、姉はそんな退団者の穴埋めを引き受けていた。
 おかげで、魔術師団の姉への依存は大きくなる一方。その状況が危ういことは、私自身も感じていたことだった。

 姉を蹴落とそうと動く人間も、いくらでも頭に思い浮かんだ。
 敵を作りやすい姉の性格。聖女という地位。王太子の婚約者という立場。
 どれもこれも、姉を排除するには十分すぎる理由になる。

「最近、魔術師団でもちょっと変な退団が増えていただろ? そこまでルシアを恨んでなさそうなのに、ルシアを理由に退団するやつ」

 そう、おかしいとは思っていた。
 なにか企んでいそうだとは、思っていたのだ。

 フレデリク王太子殿下も巻き込んで、退団の理由を探っている最中のことだった。

「どうもそれが、ルシア排除のための動きらしいんだ。ここから一気に退団者を増やして、魔術師団を機能不全にしようっていう心づもりらしい。――……僕も、父上にそれとなく言われるまで気づかなかったんだけどさ」

 ――あのころは。

 私だけではなくジュリアンも、きっとフレデリク殿下も、未熟だった。
 深く考えているようで考えが浅く、先々を見通しているつもりで目の前しか見えていなかった。

 今回も、いつもの姉への嫌がらせだろうと思っていた。
 姉と対立した誰かが、個人的に知人を誘って辞めさせているのだろう。きっと数人で終わるだろう。それでも念のために、調べておこう――くらいの感覚でしかなかった。

 おかしいと思いながら、どうして楽観視してしまったのだろう。
 他にもやることがあるからと、どうしてもっと力を入れて調べなかったのだろう。
 姉の立場はもっとずっと危険なものなのだと、どうして考えられなかったのだろう。

 甘かった。あのころの私たちは、ただただ甘すぎたのだ。

 陛下はきっと、そんな私たちを見かねていたに違いない。

 もともと陛下は姉が王太子妃に――ひいては王妃になることに反対されていた。
 姉には王妃は務まらない。王妃の器ではないと、フレデリク殿下に何度も語り聞かせていたと、ジュリアン伝いに聞いたことがある。
 あれではいつか問題が起きる。それでも、本当に姉を選ぶのか――と。

 ――わかっているわ。

 私にだってわかっていた。
 姉は王妃になるには、あまりにも夢想家すぎる。
 姉の語る理想の国は美しく、優しく、正しく、誰もが幸福に暮らしている。あり得るはずのないおとぎ話だ。

 それでも、殿下は姉と同じ夢を見たいと思われた。
 ジュリアンは兄である殿下の恋を叶えたくて、私は――。

 私は、きっとハッピーエンドが見たかったのだ。
 まっすぐで、努力家で、目の前のどんな困難にも諦めずに立ち向かう。おとぎ話の主人公のような人間が、最後には幸せになれる瞬間が見たかった。

 陛下の忠告を無視したのは私たちだ。
 その上でなお、陛下は姉への嫌疑が表沙汰になる前に、最後の機会を与えてくださったのだ。

 だけど、それは同時に――。

 姉の『王太子の婚約者』という地位を守る機会という、甘いものではない。
 この先、姉に与えられるであろう処遇を少しでも軽くするための、ほんのわずかな猶予に過ぎなかった。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

私と結婚したくないと言った貴方のために頑張りました! ~帝国一の頭脳を誇る姫君でも男心はわからない~

すだもみぢ
恋愛
リャルド王国の王女であるステラは、絶世の美女の姉妹に挟まれた中では残念な容姿の王女様と有名だった。 幼い頃に婚約した公爵家の息子であるスピネルにも「自分と婚約になったのは、その容姿だと貰い手がいないからだ」と初対面で言われてしまう。 「私なんかと結婚したくないのに、しなくちゃいけないなんて、この人は可哀想すぎる……!」 そう自分の婚約者を哀れんで、彼のためになんとかして婚約解消してあげようと決意をする。 苦労の末にその要件を整え、満を持して彼に婚約解消を申し込んだというのに、……なぜか婚約者は不満そうで……? 勘違いとすれ違いの恋模様のお話です。 ざまぁものではありません。 婚約破棄タグ入れてましたが、間違いです!! 申し訳ありません<(_ _)>

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

見知らぬ子息に婚約破棄してくれと言われ、腹の立つ言葉を投げつけられましたが、どうやら必要ない我慢をしてしまうようです

珠宮さくら
恋愛
両親のいいとこ取りをした出来の良い兄を持ったジェンシーナ・ペデルセン。そんな兄に似ずとも、母親の家系に似ていれば、それだけでもだいぶ恵まれたことになったのだが、残念ながらジェンシーナは似ることができなかった。 だからといって家族は、それでジェンシーナを蔑ろにすることはなかったが、比べたがる人はどこにでもいるようだ。 それだけでなく、ジェンシーナは何気に厄介な人間に巻き込まれてしまうが、我慢する必要もないことに気づくのが、いつも遅いようで……。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

婚約者の姉に階段から突き落とされました。婚約破棄させていただきます。

十条沙良
恋愛
聖女の私を嫌いな婚約者の姉に階段から突き落とされました。それでも姉をかばうの?

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

処理中です...