えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲

文字の大きさ
上 下
5 / 58

姉、戻る(4)

しおりを挟む
「私のお姉様がごめんなさい。ええ、わかっているわ。あなたはなにも悪くないってこと」

 そう言って、傷ついた令嬢を慰めたのは一度や二度ではない。

「お姉様が無礼なことをして、本当にごめんなさい。私がお姉様に代わって謝ります」

 姉に怒る令息たちには、何度頭を下げて回ったかわからない。

「いつも姉がご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません。次からは、こんなことがないように言い聞かせますから」

 詫びの品を持って魔術師たちの間を駆けまわるのは、もう日常になっていた。



 バークリー侯爵家は、私と姉の二人姉妹。
 兄弟は他になく、病弱な母は領地を離れられない。
 父は領主として多忙であり、病弱な母への心配もあって、ほとんど王都へ出られない。
 王太子の婚約者として王都で暮らす姉のやらかしの後始末をできるのは、同じく社交のために王都へ出た、まだ十七歳の私だけだった。

 これまで、どれほど姉を諫めたかは覚えていない。
 もう少し言葉に気を付けるように、態度を改めるように、よく周りを見るようにと言っても、だけど姉は聞きもしない。
 失敗してはいけない場所、気を付けなければならない相手、口を挟むべきではない場面。どんなに忠告をしても、姉は自分が正しいと思うことを優先した。

 いつ、どこでやらかすかわからない姉の目付のために、私はいつしか、姉の行く先々についてまわるようになった。
 姉の参加する茶会には私も潜り込み、姉が招かれたパーティにも『一緒に行く』と無理にでも姉についていく。
 茶会やパーティ会場では姉にぴったりくっついて、姉が余計なことを言いそうになるたびに強引に自分の話題に持って行った。
 人前で姉を諫めざるを得なかったことも何度もある。

 それでも姉の失態を止められないとわかると、もうできるのは、姉を社交に参加させないようにすることだけだ。
 失敗の許されないパーティの案内は、姉に見つかる前に隠した。難しい相手が主催の茶会は、嘘をついてでも姉を遠ざけた。どうしても外せない社交は、姉の行動を大目に見てもらえるようにと、できるだけ多くの参加者に根回しをした。

 泣き落としもした。同情を買うような言い方もした。時には嘘だって口にした。
 姉の代わりの申し訳なさそうな表情。しおらしい態度。切実な声の出し方も覚えた。
 姉の尻拭いをするうちに、相手の懐に潜り込み、怒りをなだめる手練手管ばかりが上手くなってしまった。

 おかげで世間での私の評判は、『姉とは真逆の謙虚な令嬢』だ。

 同じ家の娘なのに、一歳しか違わないのに、どうしてこんなに違うのだろうと言われ続けた。
 我の強い姉と比較して、よく気のまわる大人しい令嬢だと思われた。

 姉とは違って、小柄で色素が薄い容姿のせいもあるのだろう。赤というよりは淡いピンクブロンドの髪に、日に焼けない白い肌。ストレスのせいで優れない顔色も、大人しい印象に拍車をかけたのだと思う。

「あんなお姉様がいて大変ね」
「君は良い子なんだけどな」
「か弱い妹に苦労をかけるなんて、まったく困った姉だ」

 姉の周囲の人たちから、何度そんな言葉をかけられたかわからない。
『気弱で虚弱な妹』は、人々の同情の的だった。

 領地にいる両親も、私の負担が心配だったらしい。手紙で頻繁に近況を聞き、時間を見つけては王都に来た。
 そうして、「リリアから聞いたが――」と姉に言動に気を付けるようにと注意を促してくれた。


 それが、どうやら姉には気に食わなかったらしい。



「――――私のために? ご冗談を」

 殿下の問いに、姉は冷たい笑みを浮かべた。
 その視線は、殿下のさらに後ろ。
 殿下の影に立つ、私をぴたりと見据えている。

「リリアは自分のために――――私から『奪う』ために駆け回っていたのでしょう? 私の友人たちも、両親の愛情も――殿下の婚約者の地位も」

 …………。

 姉の確信に満ちた言葉に、私はため息をついた。
 もちろん違う。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

私と結婚したくないと言った貴方のために頑張りました! ~帝国一の頭脳を誇る姫君でも男心はわからない~

すだもみぢ
恋愛
リャルド王国の王女であるステラは、絶世の美女の姉妹に挟まれた中では残念な容姿の王女様と有名だった。 幼い頃に婚約した公爵家の息子であるスピネルにも「自分と婚約になったのは、その容姿だと貰い手がいないからだ」と初対面で言われてしまう。 「私なんかと結婚したくないのに、しなくちゃいけないなんて、この人は可哀想すぎる……!」 そう自分の婚約者を哀れんで、彼のためになんとかして婚約解消してあげようと決意をする。 苦労の末にその要件を整え、満を持して彼に婚約解消を申し込んだというのに、……なぜか婚約者は不満そうで……? 勘違いとすれ違いの恋模様のお話です。 ざまぁものではありません。 婚約破棄タグ入れてましたが、間違いです!! 申し訳ありません<(_ _)>

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

皆さん、覚悟してくださいね?

柚木ゆず
恋愛
 わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。  さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。  ……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。  ※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

処理中です...