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プロローグ

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 こんな話を聞いたことがある。
 まだ私が幼いころ。眠れない私のために語られた、「むかしむかし」ではじまるおとぎ話。



 むかしむかしある国に、美しくはないけれど正直で働き者の姉と、可愛らしいけれど嘘つきで怠け者の妹がいました。
 姉は家族や国の人々のために、毎日一生懸命働きます。
 妹は、そんな姉を横目に遊び暮らしてばかり。そのくせ、嘘をついて姉の手柄を横取りし、自分が一生懸命働いているふりをするのです。

 それを見た周囲の人々は、みんな妹を気の毒がりました。
「妹ばかりに仕事を押し付けるなんて、なんてひどい姉だろう!」
 そんなふうに、姉のことを責めました。

 正直者の姉がどれほど本当のことを言っても、誰も聞いてはくれません。
 それどころか、可愛らしい妹と見比べて、姉こそ嘘つきだと決めつけてしまいました。

「可愛い妹をうらやんで意地悪を言っているんだろう! そんな悪者は出ていけ!」

 そしてついに、みんなで姉を国から追い出してしまったのです。
 最後まで誰にも信じてもらえなかった姉は、悲しい気持ちでとぼとぼと国を去り、隣の国へと行きました。

 ところが――。

 姉がいなくなってすぐ、国には大混乱が起きました。
 いつものように仕事をしても、いつまでたっても終わらないのです。
 それどころか、前より一生懸命働いても、仕事は増えていく一方です。働き者のはずの妹に頼んでも、ちっとも役に立ちません。
 そうして、みんなが困り果てたとき――。

 国に、お客様がやってきました。
 お客様は、隣の国の王子様とお妃様。そのお妃様の顔を見て、みんな「あっ」と驚きました。

 それは、みんなで追い出した姉だったのです。
 隣の国へ行った姉は、そこでも一生懸命働いてみんなを助けていました。
 隣の国の王子様は、この国の人たちとは違って、それをちゃんと見ていたのです。

 立派な姉の姿を見て、みんなようやく真実に気が付きました。
 今までこの国が上手くいっていたのは、すべて姉がいてくれたおかげ。妹の言葉は嘘で、姉こそがずっと真実を言い続けていたんだ――と。

 だけど、気づいたときにはもう手遅れです。
 どれほど戻ってきてほしいと訴えても、姉は悲しげに首を横に振るだけです。
 姉はもう隣の国のお妃様。この国に戻ってくることはできません。
 引き留めるたくさんの声を背に、姉は隣の国の王子様とともに、再び国を去ってしまいました。

 こうして、嘘つきな妹を信じた人たちは深く後悔し、正直者の姉は隣の国で末永く幸せに暮らしましたとさ――。



 ――なんて。
 今から考えれば、よくある勧善懲悪の物語だ。
 悪人たちには罰が当たり、正しい人間が報われる。誰もが「こうであってほしい」と憧れる、こんな『めでたしめでたし』で終わる夢物語は、世界中から愛されてきた。

 ただし――。

 この話が勧善懲悪として成立するのは、あくまで『報われるべき正しい人間』に非がない場合だけなのである。
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