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人生って、ままならないものよね
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商会に着いて二日後、リリアナとマイケルは、商会がある街から程近い森に来ていた。
ドゴォ!!
リリアナに蹴り飛ばされ、激しい音をたてて木にぶつかった狼型の魔物が、見るも無惨な姿で地面にずり落ちていく。
マイケルはそれを何とも言えない顔で見つめた。
「お嬢様……もう少し加減しないと素材獲れませんよ」
「魔物って人間よりも頑丈だから加減が難しいのよね。気をつけてはいるんだけど」
「そうですか……まぁ、討伐依頼はクリアしてるんでいいんですけど」
昨日、二人は街の冒険者ギルドで冒険者登録を行った。
簡単な討伐依頼を請け負い、必要な装備を調えたところで日が暮れたため、翌日、こうして討伐対象の魔物が生息する森へやって来た。
リリアナの希望により、マイケルが魔法で足止めをしてリリアナが身体強化魔法で止めを刺す、という方針でやっていたのだが、これがなかなか上手くいかなかった。
初めは、リリアナの力が足りず魔物に逃げられた。
次は、絶対に逃がさないと全力を出したリリアナによって辺り一面血塗れになった。
それからは徐々に力加減を調整していったのだが、個体により頑強さが違うため、結局は力みすぎたリリアナの攻撃により魔物は残骸と化した。
だが討伐依頼自体は達成しているので、リリアナは満足そうだ。
「私って冒険者の才能もあるのね。結婚しなくてもこれで生活できそう」
「え! それはちょっと……」
その「ちょっと」はどっちの意味だ、と少しむっとするものを感じたリリアナは、まごつくマイケルに大仰に溜息をついた。
「はぁー。何でここで、そんなことしなくても俺がお前を一生養ってやる、くらい言えないのかしら。本当にヘタレね。減点よ」
「あうぅ……。つ、次は頑張ります!」
マイケルが絞り出すように言った返事に満足したリリアナは、にっこりと笑って魔物討伐を再開した。
◇◇
それから二日後、リリアナは再び商会の応接室に来ていた。
「久しぶりだな。リリアナ」
二日前に兄が座っていたその場所には、商人服に身を包んだ本国の第二王子が座っていた。
「ディラン殿下……お久しぶりです。未来の王配殿下ともあろうお方が、こんなしがない商会で何をなさっておいでですか?」
ディランが婿入りしたこの国では、女性の王位継承を認めている。本国でも認めてはいるが、基本的には男児が優先される。
ディランの妻であるこの国の王女は次期女王として王位を継ぐことが決まっているため、次期王配である彼はこんなところにいるべき人間ではないのだが。
「そう嫌そうな顔をしないでくれ、と言いたいが、残念ながら嫌な知らせを持ってきた。うちの愚弟がこちらに向かっているらしい。今朝、兄上から届いた手紙にそう書いてあった。君に謝罪したいそうだ」
「ハーラン殿下からは既に心のこもらない謝罪を頂いているので追い返して頂けますか?」
「……兄上からの手紙によると、今度こそ本当に改心したらしい。あれでも血を分けた弟だ。私としては、それが事実なら一度でも顔が見たいというのが正直な気持ちだが、君には我々王家が多大な迷惑をかけているというのもまた事実だ。君がどうしてもハーランに会いたくないのであれば、君の意思を尊重してハーランを国に入れないよう手配する」
ディランの言葉に、リリアナは目を丸くした。
てっきりハーランに会うよう説得されるものと思っていた。
「ディラン殿下はあれほど歪んだ環境でお育ちになったのに、驚くほどまともですよね。素直に尊敬します」
「……褒め言葉と受け取っておこう」
「褒め言葉ですよ。あの王家のなかで、私のことを考えてくれたのは貴方だけでしたものね。いいですよ。ディラン殿下がそう言うのでしたら、国に入れるくらいは許して差し上げます」
リリアナのあけすけな物言いに、ディランは苦笑した。
「謝罪を聞くと言わないのが君らしいな」
「それは本人次第です」
そうか、と言って、ディランは真っ直ぐにリリアナを見た。
「君には迷惑ばかりかけて本当に申し訳ない。何かあればすぐに言ってくれ。早急に対処する」
「ええ、お願いします」
ドゴォ!!
リリアナに蹴り飛ばされ、激しい音をたてて木にぶつかった狼型の魔物が、見るも無惨な姿で地面にずり落ちていく。
マイケルはそれを何とも言えない顔で見つめた。
「お嬢様……もう少し加減しないと素材獲れませんよ」
「魔物って人間よりも頑丈だから加減が難しいのよね。気をつけてはいるんだけど」
「そうですか……まぁ、討伐依頼はクリアしてるんでいいんですけど」
昨日、二人は街の冒険者ギルドで冒険者登録を行った。
簡単な討伐依頼を請け負い、必要な装備を調えたところで日が暮れたため、翌日、こうして討伐対象の魔物が生息する森へやって来た。
リリアナの希望により、マイケルが魔法で足止めをしてリリアナが身体強化魔法で止めを刺す、という方針でやっていたのだが、これがなかなか上手くいかなかった。
初めは、リリアナの力が足りず魔物に逃げられた。
次は、絶対に逃がさないと全力を出したリリアナによって辺り一面血塗れになった。
それからは徐々に力加減を調整していったのだが、個体により頑強さが違うため、結局は力みすぎたリリアナの攻撃により魔物は残骸と化した。
だが討伐依頼自体は達成しているので、リリアナは満足そうだ。
「私って冒険者の才能もあるのね。結婚しなくてもこれで生活できそう」
「え! それはちょっと……」
その「ちょっと」はどっちの意味だ、と少しむっとするものを感じたリリアナは、まごつくマイケルに大仰に溜息をついた。
「はぁー。何でここで、そんなことしなくても俺がお前を一生養ってやる、くらい言えないのかしら。本当にヘタレね。減点よ」
「あうぅ……。つ、次は頑張ります!」
マイケルが絞り出すように言った返事に満足したリリアナは、にっこりと笑って魔物討伐を再開した。
◇◇
それから二日後、リリアナは再び商会の応接室に来ていた。
「久しぶりだな。リリアナ」
二日前に兄が座っていたその場所には、商人服に身を包んだ本国の第二王子が座っていた。
「ディラン殿下……お久しぶりです。未来の王配殿下ともあろうお方が、こんなしがない商会で何をなさっておいでですか?」
ディランが婿入りしたこの国では、女性の王位継承を認めている。本国でも認めてはいるが、基本的には男児が優先される。
ディランの妻であるこの国の王女は次期女王として王位を継ぐことが決まっているため、次期王配である彼はこんなところにいるべき人間ではないのだが。
「そう嫌そうな顔をしないでくれ、と言いたいが、残念ながら嫌な知らせを持ってきた。うちの愚弟がこちらに向かっているらしい。今朝、兄上から届いた手紙にそう書いてあった。君に謝罪したいそうだ」
「ハーラン殿下からは既に心のこもらない謝罪を頂いているので追い返して頂けますか?」
「……兄上からの手紙によると、今度こそ本当に改心したらしい。あれでも血を分けた弟だ。私としては、それが事実なら一度でも顔が見たいというのが正直な気持ちだが、君には我々王家が多大な迷惑をかけているというのもまた事実だ。君がどうしてもハーランに会いたくないのであれば、君の意思を尊重してハーランを国に入れないよう手配する」
ディランの言葉に、リリアナは目を丸くした。
てっきりハーランに会うよう説得されるものと思っていた。
「ディラン殿下はあれほど歪んだ環境でお育ちになったのに、驚くほどまともですよね。素直に尊敬します」
「……褒め言葉と受け取っておこう」
「褒め言葉ですよ。あの王家のなかで、私のことを考えてくれたのは貴方だけでしたものね。いいですよ。ディラン殿下がそう言うのでしたら、国に入れるくらいは許して差し上げます」
リリアナのあけすけな物言いに、ディランは苦笑した。
「謝罪を聞くと言わないのが君らしいな」
「それは本人次第です」
そうか、と言って、ディランは真っ直ぐにリリアナを見た。
「君には迷惑ばかりかけて本当に申し訳ない。何かあればすぐに言ってくれ。早急に対処する」
「ええ、お願いします」
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