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金も家も権力もあるが虐待される奴隷か、金も家も権力も無いただの平民か、それが問題だ

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 ハーランは魔法師団長の見下すような態度に心底腹が立っていたが、時間が限られているため、込み上げる怒りを何とか抑え込んだ。

 せめて座らせてやるものか、と自分は執務机の椅子に座り、魔法師団長を対面に立たせたままで本題に入る。

「まぁいい。誓約魔法や隷属魔法を解除する方法はあるのか?」

 思っていたよりもまともな質問だったため、魔法師団長は少しだけ興味を持った。

「誓約魔法と隷属魔法ですか。それらは闇属性魔法ですから解除できる方は限られます。危険性を考えると、術者本人にしかできないでしょう」


 闇属性魔法も光属性魔法と同様、適性がないと使うことができない。
 ただ、希少性は光属性魔法に劣る。光属性魔法の使い手が現れる確率は百年に一人なのに対し、闇属性魔法は十年に一人といった割合だ。
 それでも珍しい事には変わりない。王宮の魔法師団にも闇属性魔法が使える者は二人しかいない。


「危険性とは?」

「誓約魔法と隷属魔法はどちらも魂に直接働きかける魔法です。誓約魔法は事前に定めた約束事を破らせないように、隷属魔法は特定の相手に逆らえないように対象者の魂を縛ります。術者以外が強制的に解除した場合、魂が傷つき最悪廃人になる可能性があります」

 想像よりも酷い危険性に、ハーランは顔を青くする。

「廃人……じ、じゃあ、魔法をかけられないようにする方法は? かかったフリができればなんでもいい!」

 ハーランのあまりに切迫した様子に、魔法師団長は理由を聞いた。

「どなたかがそういった魔法にかけられる予定がお有りですか?」

「それは……」

 ハーランは逡巡したが、これを何とかできなければ自分の未来はない。藁にも縋る思いで、五日前の子爵家での出来事を包み隠さず打ち明けた。


  ◇

「なるほど。リリアナ様もなかなか面白い事をなさる」

「面白い事などあるものか! ……待て、信じるのか?」

「ええ、もちろん。光属性魔法には身体強化魔法があると言われています。リリアナ様はおそらくそれを使われたのでしょう。非常に興味深い。是非とも近くで研究したいですね」

 たのしげに話す魔法師団長をハーランはめつける。

「笑い事ではない! こっちは酷い目に遭ったんだ! どうにかする方法を考えろ!」

「自業自得では? まぁ、誓約魔法や隷属魔法のような魂に作用する魔法から身を守る魔道具は存在します。ですが魔法がかからなかった事は術者本人にはわかってしまうので、かかったフリは難しいでしょう。一番現実的なのは、術者を王宮の魔法師団所属の魔法師に指定する事ですが、確かリリアナ様のご実家の商会にも一人闇魔法師がいらっしゃったはずなので、そちらも難しいでしょうね」

「では、リリアナの家の闇魔法師を脅して従わせれば……」

「リリアナ様は馬鹿ではありません。そのような動きを見せれば即刻気づき、婚約破棄撤回の話は無かったことになるでしょう。殿下には、大人しくリリアナ様に従うしか方法はありません」

「お前は私に死ねと言うのか!」

「死にはしません。リリアナ様は治癒魔法が使えますから」

「くそっ! どいつもこいつも!!」

 ハーランは怒りのあまり、ドン!と机を殴りつけた。
 治癒魔法。何度も聞いたその言葉にうんざりしていた。

「私としても、リリアナ様ほどの光属性魔法の使い手を逃すのは非常に惜しい。殿下には何としてでもリリアナ様と婚姻を結んで頂きたい。リリアナ様は殿下との結婚が苦痛と感じるから殿下にもそれを求めているのでしょう。殿下がリリアナ様を真実愛し、敬い、優しく接すれば、いつかは苦痛を感じなくなって虐待をやめてくれるかもしれませんよ」

「私があいつを愛するだと? あんな無愛想なたかが子爵令嬢ごときを!」

「それができなければ貴方は貴族ですらない平民です。元はと言えば貴方のその極端な選民思想が全ての原因です。この機会に矯正されては?」


 まただ、とハーランは思った。お前は選民思想が過ぎる、とハーランは二人の兄から何度も注意を受けていた。
 婚約破棄の件ではいつもは自分に甘い父も、今回ばかりは見過ごせない、と苦言を呈した。


「……お前も全て私が悪いと言うのか」

「当然です。おっと。そろそろ時間ですね。それでは私は失礼致します」

 魔法師団長はそう言うと直ぐさま執務室を出て行った。研究第一の彼にはこんな所で無駄にする時間はない。


  ◇◇


 一人残ったハーランは、ここに来て、ようやく今までの自分を振り返る。

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