6 / 27
私と婚約を続けるか、王子を辞めるか、どちらを選びますか?
6(終)
しおりを挟む
ソファに放り投げられた殿下は、どこぞの悪党のような負け惜しみを宣った。
「うわっ! ……はぁっ……くそっ。こんなことしてタダですむと思うなよっ!」
そんな殿下を尻目に、私は服についた埃をパタパタと手で払い落とし、対面のソファに腰掛ける。
そして小馬鹿にするような笑みを浮かべて、平然とした態度で殿下に答えた。
「どうぞご自由に。どうせ誰も信じませんよ」
「なんだと?」
「殿下はどこも怪我していないし、血の跡もない、私が暴力を振るったなんて証拠はどこにもありません。そもそも最初にそういう冤罪をかけてきたのは殿下です。信じる人なんて、誰も居やしませんよ」
ろくに調べもせず、何の証拠もないまま暴力を受けたという女の嘘を信じて、衆目の前で婚約者を断罪する愚かな男の言うことなど、誰が信じるというのか。
それも、女の言った嘘と同じ内容を主張して。
まともに相手にする者など居やしない。
「そんな……」
自分が犯した過ちを思い出したのか、殿下は目を見開いたまま、力が抜けたように呆然と座り込む。
「さて、それでは本題に戻りましょう。私が貴方との婚約を続ける条件は一つだけ。今後、政治・職務・不貞に関する内容以外の私の言動について、一切の邪魔をしない事。先ほどのように、やめろ・来るな等の制止の言葉や、逃げる・足を掴むと言った行動は邪魔と見なします。1度約束を反故されましたから、次からは誓約魔法か隷属魔法をかけることにしましょう。婚約者を蔑ろにし、冤罪をかけ、一方的な婚約破棄と国外追放を命じ、約束まで破る人間の言う事なんて、到底信じられませんからね」
私が出した条件を理解した殿下の顔からは一気に血の気が引き、瞳には恐怖が滲む。
「まさか……それは……」
「自分に出来ることなら何でもすると言ったのは殿下ですよ? 私が言ったことは全部、殿下に出来る範囲内のことです。私は婚約してから10年以上、貴方が私に向ける侮蔑や嫌悪といった感情を鏡の様に返してきました。貴方にも同じ事を要求します。私にとって愛も信頼も信用もない殿下との結婚など苦痛でしかないですから、貴方にもそれ相応の苦痛を味わって頂きます。毎日死ぬまでずっと」
殿下は青い顔で口を動かし、何かを言おうとしているが、パクパクと動かすだけで言葉は出てこない。
──殿下、これが貴方の愚かな行動に対する報いです。
私は姿勢を正し、淑女の笑みを浮かべ、本日初めて貴族令嬢然とした態度で殿下に相対する。
「さぁ殿下、私と婚約を続けるか、王子を辞めるか、どちらを選びますか?」
「うわっ! ……はぁっ……くそっ。こんなことしてタダですむと思うなよっ!」
そんな殿下を尻目に、私は服についた埃をパタパタと手で払い落とし、対面のソファに腰掛ける。
そして小馬鹿にするような笑みを浮かべて、平然とした態度で殿下に答えた。
「どうぞご自由に。どうせ誰も信じませんよ」
「なんだと?」
「殿下はどこも怪我していないし、血の跡もない、私が暴力を振るったなんて証拠はどこにもありません。そもそも最初にそういう冤罪をかけてきたのは殿下です。信じる人なんて、誰も居やしませんよ」
ろくに調べもせず、何の証拠もないまま暴力を受けたという女の嘘を信じて、衆目の前で婚約者を断罪する愚かな男の言うことなど、誰が信じるというのか。
それも、女の言った嘘と同じ内容を主張して。
まともに相手にする者など居やしない。
「そんな……」
自分が犯した過ちを思い出したのか、殿下は目を見開いたまま、力が抜けたように呆然と座り込む。
「さて、それでは本題に戻りましょう。私が貴方との婚約を続ける条件は一つだけ。今後、政治・職務・不貞に関する内容以外の私の言動について、一切の邪魔をしない事。先ほどのように、やめろ・来るな等の制止の言葉や、逃げる・足を掴むと言った行動は邪魔と見なします。1度約束を反故されましたから、次からは誓約魔法か隷属魔法をかけることにしましょう。婚約者を蔑ろにし、冤罪をかけ、一方的な婚約破棄と国外追放を命じ、約束まで破る人間の言う事なんて、到底信じられませんからね」
私が出した条件を理解した殿下の顔からは一気に血の気が引き、瞳には恐怖が滲む。
「まさか……それは……」
「自分に出来ることなら何でもすると言ったのは殿下ですよ? 私が言ったことは全部、殿下に出来る範囲内のことです。私は婚約してから10年以上、貴方が私に向ける侮蔑や嫌悪といった感情を鏡の様に返してきました。貴方にも同じ事を要求します。私にとって愛も信頼も信用もない殿下との結婚など苦痛でしかないですから、貴方にもそれ相応の苦痛を味わって頂きます。毎日死ぬまでずっと」
殿下は青い顔で口を動かし、何かを言おうとしているが、パクパクと動かすだけで言葉は出てこない。
──殿下、これが貴方の愚かな行動に対する報いです。
私は姿勢を正し、淑女の笑みを浮かべ、本日初めて貴族令嬢然とした態度で殿下に相対する。
「さぁ殿下、私と婚約を続けるか、王子を辞めるか、どちらを選びますか?」
14
お気に入りに追加
1,294
あなたにおすすめの小説
作られた悪役令嬢
白羽鳥(扇つくも)
恋愛
血塗られたエリザベス――胸に赤い薔薇の痣を持って生まれた公爵令嬢は、王太子の妃となる神託を受けた。
けれど王太子が選んだのは、同じく胸に痣のある異世界の少女。
嫉妬に狂ったエリザベスは少女を斧で襲い、王太子の怒りを買ってしまう。
罰として与えられたのは、呪いの刻印と化け物と呼ばれる伯爵との結婚。
それは世界一美しい姿をした、世界一醜い女の物語――だと思われていたが……?
※作中に登場する名前が偶然禁止ワードに引っ掛かったため、工夫を入れてます。
※第14回恋愛小説大賞応募作品です。3月からは不定期更新になります。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————
聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい
カレイ
恋愛
公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。
聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。
その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。
※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。
やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
元婚約者は入れ替わった姉を罵倒していたことを知りません
ルイス
恋愛
有名な貴族学院の卒業パーティーで婚約破棄をされたのは、伯爵令嬢のミシェル・ロートレックだ。
婚約破棄をした相手は侯爵令息のディアス・カンタールだ。ディアスは別の女性と婚約するからと言う身勝手な理由で婚約破棄を言い渡したのだった。
その後、ミシェルは双子の姉であるシリアに全てを話すことになる。
怒りを覚えたシリアはミシェルに自分と入れ替わってディアスに近づく作戦を打ち明けるのだった。
さて……ディアスは出会った彼女を妹のミシェルと間違えてしまい、罵倒三昧になるのだがシリアは王子殿下と婚約している事実を彼は知らなかった……。
婚約破棄だと言われたので喜んでいたら嘘だと言われました。冗談でしょ?
リオール
恋愛
いつも婚約者のそばには女性の影。私のことを放置する婚約者に用はない。
そう思っていたら婚約破棄だと言われました。
やったね!と喜んでたら嘘だと言われてしまった。冗談でしょ?
お望み通りに婚約破棄したのに嫌がらせを受けるので、ちょっと行動を起こしてみた。
夢草 蝶
恋愛
婚約破棄をしたのに、元婚約者の浮気相手から嫌がらせを受けている。
流石に疲れてきたある日。
靴箱に入っていた呼び出し状を私は──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる