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私と婚約を続けるか、王子を辞めるか、どちらを選びますか?

6(終)

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 ソファに放り投げられた殿下は、どこぞの悪党のような負け惜しみをのたまった。

「うわっ! ……はぁっ……くそっ。こんなことしてタダですむと思うなよっ!」

 そんな殿下を尻目に、私は服についた埃をパタパタと手で払い落とし、対面のソファに腰掛ける。
 そして小馬鹿にするような笑みを浮かべて、平然とした態度で殿下に答えた。

「どうぞご自由に。どうせ誰も信じませんよ」

「なんだと?」

「殿下はどこも怪我していないし、血の跡もない、私が暴力を振るったなんて証拠はどこにもありません。そもそも最初にそういう冤罪をかけてきたのは殿下です。信じる人なんて、誰も居やしませんよ」


 ろくに調べもせず、何の証拠もないまま暴力を受けたという女の嘘を信じて、衆目の前で婚約者を断罪する愚かな男の言うことなど、誰が信じるというのか。
 それも、女の言った嘘と同じ内容を主張して。
 まともに相手にする者など居やしない。

「そんな……」

 自分が犯した過ちを思い出したのか、殿下は目を見開いたまま、力が抜けたように呆然と座り込む。

「さて、それでは本題に戻りましょう。私が貴方との婚約を続ける条件は一つだけ。今後、政治・職務・不貞に関する内容以外の私の言動について、一切の邪魔をしない事。先ほどのように、やめろ・来るな等の制止の言葉や、逃げる・足を掴むと言った行動は邪魔と見なします。1度約束を反故されましたから、次からは誓約魔法か隷属魔法をかけることにしましょう。婚約者を蔑ろにし、冤罪をかけ、一方的な婚約破棄と国外追放を命じ、約束まで破る人間の言う事なんて、到底信じられませんからね」

 私が出した条件を理解した殿下の顔からは一気に血の気が引き、瞳には恐怖が滲む。

「まさか……それは……」

「自分に出来ることなら何でもすると言ったのは殿下ですよ? 私が言ったことは全部、殿下に出来る範囲内のことです。私は婚約してから10年以上、貴方が私に向ける侮蔑や嫌悪といった感情を鏡の様に返してきました。貴方にも同じ事を要求します。私にとって愛も信頼も信用もない殿下との結婚など苦痛でしかないですから、貴方にもそれ相応の苦痛を味わって頂きます。毎日死ぬまでずっと」

 殿下は青い顔で口を動かし、何かを言おうとしているが、パクパクと動かすだけで言葉は出てこない。


 ──殿下、これが貴方の愚かな行動に対する報いです。


 私は姿勢を正し、淑女の笑みを浮かべ、本日初めて貴族令嬢然とした態度で殿下に相対する。



「さぁ殿下、私と婚約を続けるか、王子を辞めるか、どちらを選びますか?」


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