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第2章 悪役令嬢がメイドになって
ルルカとマリーの出会い
しおりを挟むルルカと出会ったのは、今日のような快晴の日。
私は今日と同じようなメイド服を着て、今日と同じように周囲に気を配りながら、日々の職務を全うしていた。
いつもなら。
事前に気付き、遭遇せぬよう、その場から離れたり、相手の方に背を向けたり、頭を下げて顔を隠したり。
なんだかんだと避ける事が出来た。
だがその日は何の因果か。運命の悪戯か。
お昼休憩だー!と気が抜けてしまった私は、一人の医師の呼び止める声を聞くまで、ユリ先生に気付かなかったのだ。
あの色気に気が付かなかったのだ。
きっと、視界に入っていただろうに。
その淡い紫の髪を視界の端で捉えながら、気取られぬよう、決して直視せぬよう、少し下を向いて道を進み、近くにあったドアノブを掴み、私は中へと入った。
心臓をバクバクさせながら。
医師二人を目に捉えながら、大きな音が出ぬようドアを閉める。そのまま肩で壁に体を預け、ドアに頭を当て体を支える。
一先ず危機を逃れた。目を閉じ、浅い息を吐き出して、心臓を落ち着かせようと試みる。
ドクドクと、迫る様な激しい音が煩い。呼吸がしづらく、少しだけ息が荒い。連動してか、体が熱くて、汗が出ているのを感じる。
取り敢えず、心身共に落ち着くまでここにいよう。
椅子を求めて部屋の中を歩くのも面倒なくらいの疲れで、せめてもと、ドアの前ににしゃがみ込み、膝に額を乗っけて、ドアに体重を預けた。目を閉じて、万が一にも奴らがここに来たりしない事を祈って。
「大丈夫か」
男性の声。優しい声音。
私の入った部屋には、既に人がいたらしい。
出入り口を塞ぐ私が邪魔なのかもしれない。申し訳ない。
それまで、私は先客に気付かなかった。少し雑多な部屋だからか。動揺していたのも一つの理由かもしれない。
彼の足音にも気付かなかったが、煩い心臓の音が私の耳を塞いで、足音が聞こえなかった可能性が高い。
顔を上げ、目に入る情報。
見覚えのある色味、造形、眼鏡。
形の違う双方の眼鏡を通して、視線が合う。
「熱い?少し触る───」
いや、もう、混乱。
至近距離で浴びる視線。心地良い声。私の体調を伺い、慮る瞳。
映像の中にあるのかもしれないが、ジゼレーナには一度も向けられた事のない瞳。
様子のおかしい私を心配する、優しい声音と瞳の男。
元義兄ルルカ。
ルルカラード・ディティリア。眼鏡を掛けた藍色の髪の男。決して仲良くはなかった、ジゼレーナの元お義兄様が、そこにいた。
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