悪役令嬢、メイドさんになる~転生先は処刑待ちの牢屋スタートです~

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第2章 悪役令嬢がメイドになって

あの男

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 建物と建物を繋ぐ通路を歩く男。
通路の両脇は一定間隔毎に柱があり、隙間はアーチ型に開いている。
距離は遠めだが、ここは開けているのでマリーには男の姿がよく見えた。

 同時に、向こうからもこちらの姿が見られるという事だが、木や蔦がちらほらとある上に、マリーはメイド。
男の視界や意識には入らないと思われる。

 が、数秒ほどこちら側を見られれば気付かれるという自覚がマリーにはあった。万が一に備え、さりげなく近くの建物に入った。
出入り可能なアーチ型の場所が近くにあり、このまま別の目的地へ行くかの様に不自然なく入れた。

 通路構造的にも、例の男が私に近付く事はない。
近付くにはこのちょっとした庭を突っ切るか、結構な遠回りをするかだ。その頃にはマリーも逃げているだろう。

 建物に身を隠し、この男が例の人物である事を再確認したマリーは、周囲に人がいないか窺った。

 ひっきりなしに人が通るような道ではないが、全く人が通らないという訳でもない。
この通路は日当たりが悪いのか少し暗く、他の道より狭めなのもあるのか、あまり人は来ないが、気紛れに通る人もいる。
この通路と、マリーから見て右側から先の通路が行き止まりなうえ暗いだけで、入り口を挟んで進み、突き当たりを右でも左でも曲がって少し行くと日当たり良好の明るい通路となる。

 人の気配はなく、男はまだ視界にいる。
マリーは右拳を握り締め、右のももを殴った。




「その呼び方は止めろと言ったが」

「あそこにいる男、分かります?」

 出会い早々聞き慣れた言葉をいつもの如く流す私。
 男と私との距離は半分も縮まっていないが、人がちらほら増えていた。
 小さな私の後ろに立ったアレンは、私をつぶさないよう壁に手を付き、身を少しかがめて私に視線を少し近付けた。

「あっ今話し掛けられた」

「あの男か。人当たりの良さそうな」

 近い距離で後ろから話されるの緊張する。
気を配ってくれているのか、ただただ身長の問題か、密着はしていないが、私を緊張させるには充分である。

アレンが男を認識したのを確認したので、やる事はやったと、私はその場で回転し、体の正面をアレンに向けて壁に背を預ける。
 よし。正体が見えている方が緊張しない。

建物の影とアレンの影とで目の前は暗いが。

「似ている親族とかでなければ一味いちみはず。奴らの会議の時にいて、末端ってわけではなさそうだけど、首謀者かどうかは不明で、あの中では一番若い気がする人」

 忘れる前にと記憶にある事は言わされているので、全て話さなくとも、あの男が誰を指すか分かるだろう。

 




    
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