悪役令嬢、メイドさんになる～転生先は処刑待ちの牢屋スタートです～

第２章 悪役令嬢がメイドになって

メイドのマリー

　
　ハルガパルガ大陸東に位置するウェルグリー国ウェルグリー城にて。

　昨日のどんよりとした曇り空が嘘のよう。
暖かな日差しに照らされ、箒を手に今日も仕事に従事するメイドが一人。

　チョコレート色の髪には白いメイドキャップを被り、白いシャツの上に長袖の黒のワンピース、その上に白いエプロン。
スカートの丈は足首が見えるか見えないか。
ウェルグリー城のメイド服を着たほっそりとしたショートボブの少女。

　顔が小さいのか、前髪が少し長いのか、黒茶色の丸い眼鏡が少し大きく見える。
その奥にあるのは灰色にも似た水色の瞳。主張控えめなその色のお陰か、丸い眼鏡のお陰か。つり目だが、そこまできつい印象を抱かない。
　つり目というより猫目だからか。



　こんにちは。メイドのマリーです。

　私は幼少の頃から体が弱く病になりやすく、療養のため田舎で過ごしていました。
　風も日差しも運動も天敵とばかりに、あまり外へ出る事はできませんでしたが、綺麗な空気に素敵な景色。窓から見えるそれに、私は充分に満たされていました。
　私の体調や外の天気に問題がない時は、家の周りをのんびりと歩いたり、座ってまったりと過ごしたりします。
それは幸せな一時ひとときで、ほんの少しの時間でしたが、とても大切な時間でした。

　一日に顔を合わせるのは、お世話をしてくれるお姉さん達やおじさん達のみ。
私は人と会うと熱が出てしまうので、他の方と会う様な事はなく、私の世界は狭いものでした。
　それでも私にとっては素敵な世界で、体が辛い日も、体が怠い日も、体が楽な日も、一緒に喜んでくれたり、励ましてくれたり、悲しんでくれたり、心配してくれたり。
私のお世話をしてくれる方々は、とても素敵な方ばかりで、寂しい思いはしませんでした。

　迷惑を掛けていると不安な時も『私達がお世話をしたくてしているの。迷惑ではないし、これが迷惑ならもっと掛けて欲しい。でもそしたらお嬢様の体がもっと辛く……』と言って笑わせてくれました。
　私が度々不安な気持ちを抱えると、直ぐに気付き何度も同じ事を言い、私を安心させてくれました。

　晴れて元気になった今でも、多少、体調を崩してしまうことはありますが、私は、私をお世話してくれた素敵な方達に恥じぬよう、誇れるよう、この仕事を成していきたいです。

　『元気に生きているだけで充分よ！』
そんなふうに言ってくれそうです。

　


　と、何度目だろうか。暇があれば設定を振り返り、新たな思い出を生み出しているマリーの思考が止まった。

　───あの男だ。