42 / 60
第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで
陛下は、彼女を実験台にするつもりですか
しおりを挟む父といる時に鳥肌が立つようになったのはいつからだろうか。
去年『パパのお嫁さんになるんだよね』と言われた時には吐くかと思った。
父に対して返答すると気色悪い方向に話が行ってしまうので、基本的に仕事以外の話には言葉を返さないようにしている。仕事の話でも、できるだけ返答は短くしている。
今も何か話しているが聞こえない。最近聞き取らないという事が可能になった。
習得して良かった技の一つだ。
急に仕事の話に切り替わっても、そこからきちんと聞こえるので本当に良い。
幸いな事に、他人様の前では親バカの本性は現さないので、変な目で見られたりはしていない。
『あんな父親がいて羨ましい』という声を聞く度に複雑な心境にはなったが、騎士としては尊敬している。嘘ではなく。
今ちょっと揺るぎそうだが。
陛下と父は幼馴染みなもので、他人様の中に入らないようで残念だ。
微笑みながら見守る陛下の視線が生暖かく、本当に居心地が悪い。
こういう時、普段は宰相が父を止めてくれていたのだが、今回は彼の元娘ジゼレーナの件という事もあり、ここにはいない。
俺は父の話を無視して陛下に尋ねた。
「彼女の話の真偽は調査しますが、今回の件については、今後どうされるおつもりですか」
陛下は止まれと言うように軽く右掌をこちらに向けた。公の場では優雅な上に親しみも持てるような格別な威厳のある陛下だが、内々だからか、今はとても気怠げだ。力を抜いた状態でも上品に見えるから流石だ。
「調査はこちらでやるから君は気にしなくていい。彼女にはあれを使おう」
一瞬の静けさが落ちた。陛下は呑気にお茶を飲んでいる。
「……あれは国宝ですよ。愛しのヴィーくんに何かあったらどうする気ですか」
愛しのってなんだよ。
仕事の話の途中に入ってくる変な単語には対応できない。聞き取れてしまう。
俺は鳥肌を振り払い、陛下に尋ねる。
「陛下は、彼女を実験台にするつもりですか」
その頃、ジゼレーナはくしゃみをした───なんて事はなく。
アレンが出て行った時から変わらず、生気の抜けた表情で椅子に座っていた。
ジゼレーナの拘束は解かれ、左足首に縄が残るのみ。その縄は、彼女の座る椅子の細い足に繋がっており、今直ぐにでも解けてしまいそうな結び方だった。
椅子を持ち上げれば、最後の拘束も解けるだろう。
ドアの鍵は開いている。
どうして逃げないのか……。
暗部を警戒しているんだよ!
絶対見張られてる。試されてる。
意識し過ぎて何も出来ない。
逃げれたとしても黒服の所為で兵がうろちょろしてるだろうし!
絶対逃げ切れないよ。不可能だ。
不可能を可能になんて出来ない。
6
お気に入りに追加
206
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!
美月一乃
恋愛
前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ!
でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら
偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!
瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。
「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」
と思いながら
乙女ゲームのヒロインに転生したらしいんですが、興味ないのでお断りです。
水無瀬流那
恋愛
大好きな乙女ゲーム「Love&magic」のヒロイン、ミカエル・フィレネーゼ。
彼女はご令嬢の婚約者を奪い、挙句の果てには手に入れた男の元々の婚約者であるご令嬢に自分が嫌がらせされたと言って悪役令嬢に仕立て上げ追放したり処刑したりしてしまう、ある意味悪役令嬢なヒロインなのです。そして私はそのミカエルに転生してしまったようなのです。
こんな悪役令嬢まがいのヒロインにはなりたくない! そして作中のモブである推しと共に平穏に生きたいのです。攻略対象の婚約者なんぞに興味はないので、とりあえず攻略対象を避けてシナリオの運命から逃げようかと思います!
転生不憫令嬢は自重しない~愛を知らない令嬢の異世界生活
リョンコ
恋愛
シュタイザー侯爵家の長女『ストロベリー・ディ・シュタイザー』の人生は幼少期から波乱万丈であった。
銀髪&碧眼色の父、金髪&翠眼色の母、両親の色彩を受け継いだ、金髪&碧眼色の実兄。
そんな侯爵家に産まれた待望の長女は、ミルキーピンクの髪の毛にパープルゴールドの眼。
両親どちらにもない色彩だった為、母は不貞を疑われるのを恐れ、産まれたばかりの娘を敷地内の旧侯爵邸へ隔離し、下働きメイドの娘(ハニーブロンドヘア&ヘーゼルアイ)を実娘として育てる事にした。
一方、本当の実娘『ストロベリー』は、産まれたばかりなのに泣きもせず、暴れたりもせず、無表情で一点を見詰めたまま微動だにしなかった……。
そんな赤ん坊の胸中は(クッソババアだな。あれが実母とかやばくね?パパンは何処よ?家庭を顧みないダメ親父か?ヘイゴッド、転生先が悪魔の住処ってこれ如何に?私に恨みでもあるんですか!?)だった。
そして泣きもせず、暴れたりもせず、ずっと無表情だった『ストロベリー』の第一声は、「おぎゃー」でも「うにゃー」でもなく、「くっそはりゃへった……」だった。
その声は、空が茜色に染まってきた頃に薄暗い部屋の中で静かに木霊した……。
※この小説は剣と魔法の世界&乙女ゲームを模した世界なので、バトル有り恋愛有りのファンタジー小説になります。
※ギリギリR15を攻めます。
※残酷描写有りなので苦手な方は注意して下さい。
※主人公は気が強く喧嘩っ早いし口が悪いです。
※色々な加護持ちだけど、平凡なチートです。
※他転生者も登場します。
※毎日1話ずつ更新する予定です。ゆるゆると進みます。
皆様のお気に入り登録やエールをお待ちしております。
※なろう小説でも掲載しています☆
長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ
藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。
そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした!
どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!?
えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…?
死にたくない!けど乙女ゲームは見たい!
どうしよう!
◯閑話はちょいちょい挟みます
◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください!
◯11/20 名前の表記を少し変更
◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更
転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました
みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。
日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。
引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。
そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。
香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……
悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)
どくりんご
恋愛
公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。
ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?
悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?
王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!
でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!
強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。
HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*)
恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)
完全無欠なライバル令嬢に転生できたので男を手玉に取りたいと思います
藍原美音
恋愛
ルリアーノ・アルランデはある日、自分が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界に転生していると気付いた。しかしルリアーノはヒロインではなくライバル令嬢だ。ストーリーがたとえハッピーエンドになろうがバッドエンドになろうがルリアーノは断罪エンドを迎えることになっている。
「まあ、そんなことはどうでもいいわ」
しかし普通だったら断罪エンドを回避しようと奮闘するところだが、退屈だった人生に辟易していたルリアーノはとある面白いことを思い付く。
「折角絶世の美女に転生できたことだし、思いっきり楽しんでもいいわよね? とりあえず攻略対象達でも手玉に取ってみようかしら」
そして最後は華麗に散ってみせる──と思っていたルリアーノだが、いつまで経っても断罪される気配がない。
それどころか段々攻略対象達の愛がエスカレートしていって──。
「待って、ここまでは望んでない!!」
断罪のフローレンシア~チート能力をつかって異世界で好き勝手裁判を・・・~
コーン
恋愛
異世界に転生、そして死ぬ直前の没落貴族に取り憑くことで【フローレンシア】になった女。
司法を司る貴族になった彼女を中心に国中が揺れていく。
ざまぁ要素分が多めにあります。
第1章はまとめて投稿します。徐々に投稿をはじめていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる