悪役令嬢、メイドさんになる~転生先は処刑待ちの牢屋スタートです~

文字の大きさ
上 下
41 / 60
第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで

私を殺すくせに、彼女まで死なせるなんて、嫌でしょう?

しおりを挟む
 
「彼を見ても、前までのような想いを抱かなかった。
彼への恋心も、始めから全て偽りだったのに。いつからか、教育の為という目的が抜け落ち、嘘に呑まれ、本心が消えていた。

私の軸は、王妃教育からレオ様に変わった。
もしかしたら、王妃教育から逃げたかったのかも。
でも、それで人を傷付けるなんて、世話がないわね」

目を伏せる彼女の声は、聞き取ることが難しくなっていた。

「最後に思い出せたのは良かったけれど、もう思い出した意味もないわ。
こんな所で思い出すなんて……。もっと、早くに思い出せていたら。

後悔したって仕方ないし、後戻りなんてできない。全てが、私の所為なのも、分かっているわ。勉強をする為だなんて、そんなこと言い訳にもならない。
自分を騙してした事なら、最後まで貫いて、まっとうすべきだった。でも私は、自分自身の嘘に呑み込まれ、人を傷付けた。

なんの為の嘘だったのか。王太子の婚約者でもなくなり、貴族でもなくなり。私には何も残らない。
最後には処刑が残るのみ。努力は消え、私は死ぬ。誰に擁護されることもなく。誰に認められることもなく。

悪いのは私だけれど。

だから、彼を愛する事も、彼女を嫌う事も、今の私には何の意味もなさない。馬鹿馬鹿しくって、どうでもいい……。
もう終わりだから、話してしまおう。最後だから、彼らの慌てる顔でも見てみようって。

彼女には本当に、酷いことをしたから。最後くらい、彼女を救いたかった。
それで許されるなんて、簡単な事、思っていないけど。
私を殺すくせに、彼女まで死なせるなんて、嫌でしょう?」

儚く微笑む彼女の話は、最後まで聞いても、嘘か誠か分からなかった。
ただ、彼女の喉だけが心配だった。
 


「そうか。聞いた通りだ。大変だったな」

俺を回想の世界から引き上げたのは、金髪に青い目の男性。レオによく似ている。
今俺は陛下に彼女の事を報告していた。暗部系の者達からも聞いていだろうから、端的に。回想よりも短く。

「そうですよ陛下。いくらなんでも、悪女と二人きりにさせるなんて……」

深刻そうに話す騎士服を着た黒髪黒目の男。陛下の護衛、近衛騎士団長。いつも真顔で表情筋が死んでいる俺の父。
一人の騎士としては尊敬しているが、父親としては……正直苦手だ。

「女の子と二人きりになんてなったら、こんなにかっこよくて可愛くて優秀で立派で真面目なヴィーくんは襲われてしまう。ましてや悪女───」

こういうところが。

「大丈夫だったか?何もされていないか?」

深刻そうに、真剣に、真面目な顔で言うのだ。何を考えているか分からなくて怖い。
……この通りの事を考えているのなら余計に怖い。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。

ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい! …確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!? *小説家になろう様でも投稿しています

えっ、これってバッドエンドですか!?

黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。 卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。 あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!? しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・? よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

処理中です...