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第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで
アレンは諦めた
しおりを挟む「じゃあ、ちょっと移動しようか。ちょうどこの辺りに部屋があったんだよね」
移動を提案し、医師は話しながら歩いて行く。
私達は───私を抱えたアレンと言った方が正解かもしれないが───彼の左斜め後ろを歩いている。
しかし、彼がこちらを見て話す所為で、下手な行動が取れず、対策も練れない。練れたとしても、共有が出来ない。共有するべき作戦だとすればだが。
ユリネイラ医師は話す時に、布で顔が隠れている私の方も見てくれる。それが地味に嬉しい。隠れているのは顔どころではないけれど。
「椅子も机もあって、ああ、ベッドもあったな」
そこで医師は立ち止まり、振り返った。
「やめて下さいね」
急に足を止めた彼に警戒しながらも、アレンは歩くのを止めて、医師に向き直る。
「何をかな?そういうことはしないの、君は知ってるでしょ」
そう言って、壁に凭れる医師。色気が半端なく出ている。直ぐに壁から離れたが、右手は既に、ドアノブを握っていた。
いつ現れたそのドアノブ。
「待って下さい。道具が必要ですよね」
部屋を開けようとした医師をアレンは止めた。
「一通り持ってるよ」
だが、医師はドアノブに手を掛けたまま、肩に掛けた鞄を私達に見せた。
「水を。まだ洗っていません」
「心配しないで。それも持ってるよ」
止める理由を絞り出したアレンだったが、医師は微笑みながら鞄を叩いた。
「……先に入っていて下さい」
アレンは止めるのを諦めて、彼を先に行かせるようだ。
「りょーかい。長くは待てないからね」
微笑みを絶やさない医師は私に手を振ると、壁と同化した扉を開けて、部屋へと入っていった。部屋、めっちゃ近かったな。
扉が閉じてから少し待ち、ユリネイラ医師が部屋から出てこない事を確認したアレンは、私に小声で話し掛けてきた。
「診てもらう気か」
「今更逃げるなんて怪しいですわ」
私も小声で言葉を返す。なぜか、お互いに顔を合わせていない私達は、各々の体の向きに従い、真っ直ぐ前を向いている。
「先生は診た方の特徴をいつまでも覚えている」
「私は彼に診察された事はないですし、当然、彼に足を見られたこともないですわ。きっと気付かれる事もありませんわよ」
だが待て……ちょっと待て。
気付かれてはいけないのは、リリアちゃんにだけではないの?
私がジゼレーナだとリリアちゃんにバレたら、君達が彼女についた、『ジゼレーナは修道院に行ったよ』っていう嘘が、どっかに行っちゃうからって話ではなかったの?
リリアちゃん以外にも知られてはいけないってのは、混乱を生まない為なのかもしれない。他の美形にバレたら喧嘩勃発。他の人にバレても、噂なんて一瞬で広がるもので、混乱必須。
確かに隠すべき事項だが。
まあ、今聞く事でもないだろう。あまり待たせて、ユリネイラ医師に疑いを持たれたらまずい。きっと、私の事を話してはいけない理由があるのだろう。
私がそんな事を考えている間に、アレンは足の拘束を外そうとしていた。
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