上 下
24 / 60
第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで

アレンと二人きり

しおりを挟む
 
 みんなが出て行き、私は笑いを止めた。さっきまで私に敵意を見せていた人がいないせいか、その場の静けさが妙に目立った。

……と思ったら左側にアレンがいた。いるのを知っていたら、笑いは自然に止めたのに。知らなかったから、切るようにピタッと、悪役笑いを止めてしまった。
不自然な止め方をして、怪しまれていないだろうか。

顔の向きも体の向きもそのままを維持し、目だけを左に動かしてアレンの顔色を窺う。
……無表情で、何を考えているのかが全くわからないが、横顔が綺麗だということはわかった。

「貴方は行かなくてもいいのかしら」

数秒の沈黙にも耐えられずに私はアレンに話し掛けた。アレンだけ私の元ここに残ったようだが、アレンは強そうだし、ここに残らずにリリアちゃんを助けに行く方がいいと思うのだけれど。

アレンの視線は、レオ達が出て行った扉へと向けられており、その手には縄が握られている。私をぐるぐる巻きにしている憎らしき例の縄だ。

「愛しの彼女が危険ですわよ?」

二人きりの空間が気まずいんです。どうぞ行って下さい。私の事はいいので。

「逃亡の計画という可能性がある」

低く落ち着いた声でアレンが応える。やはりこの声は好きだ。

「私が逃げた所で、痛くも痒くもないでしょうに」
「再度、彼女が危険に晒されしまうかもしれない。皆が行ってしまった以上、私が残るべきだ。それが命令でもある」

そう言うと、アレンは私に繋がる縄を引いて歩き出した。ペット気分で付いていく。可愛い犬とかじゃなくって、獰猛なペット。ワニとか。だって厳重警戒の拘束だもの。可愛い犬にこんなことしたら虐待よ。悪魔の所業よ。

「どこへ行きますの?」

出来れば歩きたくないし、ここにいた方がいいのではないかと思う。勝手に移動したりして、怒られないだろうか。怒られる時は一人で怒られてね。私を巻き込まないでね。私は付いていくしかなかったのだからね。

「彼女が危険なな目にっていた場合、共犯の可能性がある。犯人と会わせれば分かるだろう。それとも、危険な場所には行きたくないか」
「危険な場所に行きたい人なんて、いるのかしら。本当に、私を彼女の元へ連れて行くつもり?」

話しながらもアレンの足は止まらない。私はアレンに引っ張られる形で歩いているので、必然と同じ速度になる。リリアちゃんの事が心配なのか、元々なのか、嫌がらせか、歩くのが速い。

私の御令嬢足は、断頭台に来るまでにだいぶ痛めつけられている。もう少しゆっくり歩いて欲しい。衝撃を少なくして欲しい。罪人だから駄目なのか。
アレン君は筋肉足だろうけれど、私は違うんだよ。

「都合が悪いか。行かなければ共犯になるぞ」
「あら、脅しかしら。横暴ね。私自ら彼女を攻撃するとは?」
「その状態では何もできないだろう。簀巻きの女に負ける事はない」

すっ簀巻きの女……なんか悔しいんですけど……。
アレンとお話しをして気をまぎらわせてはいたが、足の裏が痛い。遅れて脳内に出現したアレンの映像でも見て気を反らそう。
集中により、痛みが少しでも緩和されることを期待して。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?

狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?! 悪役令嬢だったらどうしよう〜!! ……あっ、ただのモブですか。 いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。 じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら 乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

長女は悪役、三女はヒロイン、次女の私はただのモブ

藤白
恋愛
前世は吉原美琴。普通の女子大生で日本人。 そんな私が転生したのは三人姉妹の侯爵家次女…なんと『Cage~あなたの腕の中で~』って言うヤンデレ系乙女ゲームの世界でした! どうにかしてこの目で乙女ゲームを見届け…って、このゲーム確か悪役令嬢とヒロインは異母姉妹で…私のお姉様と妹では!? えっ、ちょっと待った!それって、私が死んだ確執から姉妹仲が悪くなるんだよね…? 死にたくない!けど乙女ゲームは見たい! どうしよう! ◯閑話はちょいちょい挟みます ◯書きながらストーリーを考えているのでおかしいところがあれば教えてください! ◯11/20 名前の表記を少し変更 ◯11/24 [13] 罵りの言葉を少し変更

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

断罪のフローレンシア~チート能力をつかって異世界で好き勝手裁判を・・・~

コーン
恋愛
異世界に転生、そして死ぬ直前の没落貴族に取り憑くことで【フローレンシア】になった女。 司法を司る貴族になった彼女を中心に国中が揺れていく。 ざまぁ要素分が多めにあります。 第1章はまとめて投稿します。徐々に投稿をはじめていきます!

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白
恋愛
推しキャラを幸せにしたい転生令嬢×裏アリ優等生攻略キャラ  社畜OLが転生した先は乙女ゲームの悪役令嬢エマ・リーステンだった。ゲーム内の推し攻略キャラ・ルイスと対面を果たしたエマは決心した。「他の攻略キャラを出し抜いて、ルイスを主人公とくっつけてやる!」と。優等生キャラのルイスや、エマの許嫁だった俺様系攻略キャラのジキウスは、ゲームのシナリオと少し様子が違うよう。 エマは無事にルイスと主人公をカップルにすることが出来るのか。それとも…… 「エマ、可愛い」 いたずらっぽく笑うルイス。そんな顔、私は知らない。

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

処理中です...