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第1章 悪役令嬢がメイドに至るまで
嘘には真実を混ぜましょう
しおりを挟む「彼女を護衛なんかに任せていていいのかしらね」
脳内映像で見た事を元に話を作る。完全な嘘ではない。もしかしたら本当にあるかもしれない。可能性のある話を。
目的は死なないこと。寿命が少しでも延びれば良し。
「私達が同じ空間にいる時に、遠巻きに見てくる方々。その中に、毎度毎度同じ人がいましたの」
貫かんと私を睨む美形達。敵意と嫌悪の視線に身が竦む。緊張と恐怖に手が震えるが、落ち着いて行こう。手は後ろにある。
この震えは、彼らからは見えない。冷静に、淡々と、噛まずに、つっかえずに。
死なないために。
「いない時もありましたが、その時は別の人がいましたわ。数人、野次馬に紛れていましたの。格好を変えたりしていたので、皆さん、気が付かなかったのですわね」
私は続けざまに見たから気付けたのだけど。普通に過ごしている状態であったなら、気付くことは難しいだろう。
皆は黙って聞いてくれていたが、ルルカ元兄さんは口を挟んだ。
「野次馬に同じ人間くらいいるだろう。どれ程注目されていたのか分からないのか」
大丈夫。返答できる。
「町へ下りた時にもいましたわ。町まで付いてきた野次馬は他におらず、貴方方は変装もしていらしたというのに。それでも一般人と仰るなら、フッ。とんだ野次馬根性ですわね」
ルルカ元兄ちゃんが言葉に詰まった。
「怪しいと思って探ってみると、素敵な事が分かりましたの。その人達の計画は、数多くありましたが、その中の一つに、彼女を殺める計画がいくつかあったのですわ」
一気に空気が険しくなる。この話が真実かどうか疑っている。
「様々な可能性を吟味して作られたもので、私が処刑される場合の計画もありましたわ。私の最後の悪足掻きと見せ、彼女を殺す。あら、今日がその日ですわね」
レオの冷気が濃くなり、鳥肌が立った。皆の敵意が増幅している。
だが、ここで怯んではいけない。
「私が殿下の婚約者ではなくなった事で、その座を狙う輩が現れるのは当然の話ですわよ?今までは高い能力の見目麗しい公爵令嬢が相手で、殿下の婚約者になる事を諦めていたのでしょうけれど。そんな私はいなくなりましたし、まだ彼女も、正式な婚約者ではありませんわよ」
まだ疑っているかもしれない。
「信じるも信じないも自由ですけれど。今回は信じない方が素敵ですわよね。貴方方が私を信じないことで、彼女が傷付くことになりますから」
でも、あとひと押しくらいか。
「ああ。貴方方がいても、意味がないのかしら。簡単な不審者にさえ気が付かれなかったようですし。ふふっ。彼女がどんな姿をしているか、その時貴方方がどんな顔をするのかアハハッ───見物ですわねぇ」
この言葉でレオが駆け出した。遅れて走り出す眼鏡、美少年、医師。慌てた様子の兵士達もついて行った。
「もう間に合わないのではなくて?」
私はその背中達に追い討ちをかけた。無事に生き永らえ、フフッと笑いが零れてしまう。
「ハハハハハハハ───」
誤魔化しついでに笑いながら、彼らを見送る。意図せずも悪役な笑い方になっていたが、この笑い方もまた、気持ちがいい。
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