悪役令嬢、メイドさんになる～転生先は処刑待ちの牢屋スタートです～

第１章 悪役令嬢がメイドに至るまで

私は、死にたくない

　
セクシーな長髪医師の言葉に、レオが答えた。

「予定通り安全な場所にいる。問題はない。さぁ、終わらせよう」

レオの言葉を合図に、背中を押され、前から引っ張られ、私は階段を上らせられる。

危ない。痛い。危ない。痛い。危ない。
この拘束は痛みを与えるものか？危なすぎるだろ。

ギロチンは、切られたあと痛みで無駄に苦しまないように、即死できるように考えて作られたと聞いた事がある。
この拘束とは真逆だ。大違いだ。
痛みがないとは嬉しい。せめてもの情けかな。
まぁ。所詮しょせん夢ではあるのだけれど。夢の世界だから痛みがどうなるのか分からないけど。

───ん？痛み？私は夢の中で痛みを感じている？

やっとこさで辿りついた断頭台。拘束状態での階段上りは、思っていたよりもキツかった　体中痛いし。絶対におすすめしない。何度転けそうになったことか。けれども私は転けなかった。
褒めて欲しい。褒める権利をあげるから。
下りもキツいだろうな。……下らないか。そんなくだらない事を考えている私だが、ギロチンさんを見て、今更に思った。

　死にたくない。

艶やかなギロチンを間近で、至近距離で目にして、その白さに、一気に目が覚めた。
白くてよかった。茶じゃなくてよかった。

死を直前にして、頭が冴えた。首が固定される前で良かった。

さっきまで本当に夢現ゆめうつつだったみたいだ。　半分寝てた状態。いや、半分以上寝ていたのかもしれない。

一気に押し寄せてくる現実味。
青空は晴れ渡り、爽やかで美しく。
全身に浴びるのは、暖かな日差し。
緩やかな風は、私の頬を撫でる。
拘束による、全身の痛み。

……全てに、その全てに、現実感がある。
冷や汗が出る。鳥肌が立つ。

もしかしてもしかすると、これは夢じゃなかったりなんだったりしちゃったり……。本当は、現実だったりしちゃったり……。

私の目に、白い鳥が映った。また白だ。好きな色を変えようかな。青が好きだったのだけど。
大きな空を、自由に羽ばたく白い鳥。

　『生きたい。生きようぜ』

って私に言っている。いや、絶対に言ってるから。
とにかく！私は夢でも、現実でも、死にたくないのだ。
私は、死にたくない。
よし。反抗しよう！

一か八かだ。
失敗しても、予定通り死ぬだけ。
成功したら、生きることができる。

作戦を考える為に、少し時間を稼ごう。考えが顔に出ないよう、感情を無にして。
背を向けているから、感情が多少出たとしても問題はないのだろうけれど。顔に出していたら、声に滲んでしまうかもしれない。

油断大敵。

「彼女が、私の処刑を頼みましたの？無害そうな顔をして、怖い方ですわね」

映像の中での私のお嬢様な話し方を意識して。上手くできているか、自信はないけれど。処刑直前だし、いつものジゼレーナでなくとも、問題はないだろう。

彼女というのは、ピンク髪のリリアベル嬢の事。ジゼレーナは頑かたくなに、リリアベルの名を呼んでいなかった。
イケメン方の怒りを後ろに感じる。

「リリアベル嬢は関係ない。全て、国王陛下が下された決定だ。貴様の所業を思えば、処刑など当たり前だ」

元兄のルルカだ。眼鏡のルルちゃんが反応してくれた。
頑張って時間を引っ張るぞ。作戦を練るんだ。