悪役令嬢、メイドさんになる～転生先は処刑待ちの牢屋スタートです～

第１章 悪役令嬢がメイドに至るまで

食う食わない

　
　あの後、目が覚めた。
床も、背中の壁も、固いままだ。現実には戻っていない。夢は覚めず、牢屋の中である。私は座った姿勢のまま寝ていたようだ。
そして目の前。格子越しに、兵士がご飯を持って立っているのが見える。もしかしたら、兵士の気配を感じて起きたのかもしれない。
兵士の手にある食べ物を見たら、自分のお腹が空いている事に気付いた。

そして、兵士さんと目が合わない事にも同時に気付く。
私は兵士さんをしっかりと見ているのに、微妙に目が合わない。
兵士と私は互いを見ているというのに、絶妙に目が合わない。
これだけ目が合わないと、逆に目を合わせたくなってくる。

「食べます？」

面倒そうに言う兵士さん。
私がそれに頷くと、彼は目を見開いた。
目もがっつり合っている。

　引くくらい。

なんだか先程の言葉を訂正したい。目を反らしたい。だが、今目を反らすと負けな気がする。

……兵士よ、この勝負はいったいなんだ。なぜ驚く。頷く行為の意味が日本と反対の文化だったりする？えっ？食べないの？みたいに兵士がなってるとか？

目を見開いたまま兵士は動かない。だが、動くまで待ってられはしない。
私の空き空きのお腹ちゃんは、もう我慢ができない。
早く寄越せと両手を伸ばすと、ズサッと思いっきり後ろに下がられた。

なんでだよ。
食わせろよ。兵士さんよ。食事を落とさなかった事だけは褒めてやるからさ。

兵士さんが格子の前に戻ってきた。
……そうだよ。格子があるのにどうして下がった兵士よ。
兵士が口を開く。

「本当に食べるんですか？」

面倒そうな雰囲気が少し消え、驚きと少々の疑惑が追加されていた。
私はコクンとゆっくり頷いた。その間も目は離さない。
目が痛いと思ったら瞬きをしていなかった。バカか私は。

「食べる」

さっきの兵士の質問で、頷く意味が日本と同じだろう事が分かったけれど、一応口でも答えておく。
暫しばしの沈黙。目は反らさない。

「……えっ本当に食べるんですか？」

だが、兵士はまた聞いてきた。困った感も追加された。

「食べる」

私も再度答える。早く食べた過ぎて二度頷いてしまった。勢いよく振り過ぎて首が痛い。ってさっきから私はバカか。

「本当に食えます？」

敵が言い方を変えてきた。

「食える」

私は相手に合わせる。

「嘘ですよね」

今度は早口だ。確認するというよりも、断定する感じで言った。決めつけはよくないぞ。

「食べる。お腹空いた」

食べる意志を伝える為、私の内部情報をプラスする。

「本当に食うんですか」
「食う。腹減った」
「本当に食べるんですか」

デジャブ───。



この問答は延々えんえんと続いた。