悪役令嬢、メイドさんになる～転生先は処刑待ちの牢屋スタートです～

第１章 悪役令嬢がメイドに至るまで

再びの映像

　
　私は壁に背を預け、一人考えていた。

イケメン二人が去った後すぐのこと。私はそのまま床に転がろうかと思ったが、それだともう二度と起き上がらないだろうと踏み止まり、こうして壁に凭もたれかかり脱力している。

イケメン二人が戻ってきた時に転がっていたら怒られるな、という思いも多少はあった。

　そんなことよりも、と。さっきの王子イケメン、レオの言っていた事を思い出す。

「───既にお前は公爵家から出された。今のお前は只の平民。いや、罪人だ。婚約も破棄した。もう私の婚約者ではない。お前の処刑も決まった事だ───」

　この私という人間は、公爵家のお嬢様。公爵令嬢で、レオの婚約者だったらしい。

　そして今は、公爵家追放に婚約破棄。公爵令嬢でもなく、レオの婚約者でもない罪人。

　そして、私は処刑される。

なるほど……。なんて夢だ。
なんて夢を見ているのだ。私。すげー。

処刑か……。首吊り系かギロチン系か。餌系もあるのか？ああ、あと毒もか。

　その時、私の中で、また映像が現れた。

やはり、ピンクの髪を靡なびかせた可愛らしい少女のことを見ている。
……結構遠くからだが。

　少女のいるテーブルには見目麗しい男女が共におり、王子イケメンことレオと、騎士イケメンことアレンもその中にいた。
レオは少女の隣に座っている。先程の様子とは違い、二人共随分と朗ほがらかで優しい雰囲気をしている。

　私は、少女が飲食する様子を物陰からじっと見ていた。私の視界には葉がちらほらと入ってくる。
　たまに視界の中心がレオに移るが、やはり、視線は少女に戻った。

　───少女に、何かあるのだろうか。
　というか、私はこの席に参加していないのね。欠席したのか、招待されていないのか。

　映像は私の目線からのものだが、私の心は一切いっさい感じない。空気や匂いは感じるが、嬉しさや憎しみといった私の感情や考えがわからない。

　だから、なぜ私がピンクの少女を見ているのか、本当に謎だ。


ピンクの少女が唐突にパンを吐き出した。


───えっどうした？私、何か見逃した？

「ゴホッゲホッ」

　体を丸めながら口を抑えて咳き込む少女。
思い切り咳き込んでおり心配になる。
周囲もそう感じたようで、心配そうに少女に声をかけていた。

　レオも最初は慌てたような立ち振舞いだったが、少女が食べていたパンを見るなり表情を固くし、周囲を見渡した。
その目はとても冷たく、瞳の奥には抑えられた怒りが窺うかがえる。

───何かを探している？
せっかくなので私もマネして探してみる。

私の視線の先は相も変わらず少女に固定されているが、私はその視界に移る範囲内で、レオの探しているものを見つける為に周囲を見る。

　全体をさらっと見た後に、視界の中心がレオに移った。と思ったら、周囲の景色が一瞬にして切り替わる。

少女を心配する声は後ろから聞こえており、場面が変わったのではなく、少女達に背を向けただけのようだった。

そして私は歩き出す。
心なしか、速く歩いているような気がする。


どうやら私は、ここから早く立ち去りたいらしい。