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第11章 追跡の果てに
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アストリア王国の宮殿は、未明から慌ただしい動きに包まれていた。リリアナの脱獄から数時間が経過し、王国中に緊張が走っている。
大広間には、国王クライブを中心に重臣たちが集まり、緊急会議が開かれていた。
「なぜ、こんなことになったのだ!」国王の怒声が響く。「警備はどうなっていたのだ!」
警備隊長が頭を下げる。「申し訳ありません。内通者がいたようです...」
アレクが口を開いた。「父上、今は責任追及よりも、リリアナの行方を追うことが先決です」
国王は深いため息をついた。「そうだな...」
そのとき、セラが前に進み出た。
「陛下、私にリリアナ様の追跡を命じていただけませんでしょうか」
アレクは驚いた表情でセラを見た。
国王は、じっとセラを見つめた。「お前一人では危険すぎる」
「私も行きます」
アレクの声に、全員の視線が集まった。
「アレク!」国王が厳しい声で息子を制した。「お前は王位継承者だ。そんな危険な...」
「だからこそ、行かねばなりません」アレクは毅然とした態度で言った。「この国の未来のために、私自身がリリアナを連れ戻す必要があります」
セラは、アレクの決意に満ちた表情を見て、胸が熱くなるのを感じた。
長い沈黙の後、国王はついに頷いた。
「わかった。だが、護衛の部隊を同行させる」
「ありがとうございます、父上」
準備は急ピッチで進められた。セラとアレクは、小規模ながら精鋭の部隊を率いて、夜明けとともに宮殿を出発した。
情報によると、リリアナは国境地帯に向かっているらしい。
馬を走らせながら、セラはアレクに尋ねた。
「王子様、本当によろしいのですか? 危険な任務です」
アレクは真剣な表情で答えた。「ああ、私の決意は揺るがない。それに...」
彼はセラをまっすぐ見つめた。
「君と一緒なら、どんな危険も乗り越えられる気がするんだ」
セラは、思わず目を逸らした。彼女の頬に、かすかな赤みが差す。
「...王子様のお力になれるよう、全力を尽くします」
二人の会話は、背後の部隊には聞こえていない。しかし、二人の間に流れる空気は、明らかに変わっていた。
追跡は困難を極めた。リリアナの一味は、巧みに痕跡を消していた。
しかし、セラの鋭い観察眼が、わずかな手がかりを見逃さない。
「こちらです」セラが指さす先に、かすかな足跡が残っていた。
アレクは感心した様子で頷いた。「さすがだな、セラ」
追跡は3日目に入った。一行は、深い森の中を進んでいた。
突然、セラが手を挙げて一同を止めた。
「待ってください。何か...」
その瞬間、矢が空気を切り裂いて飛んできた。
「伏せろ!」
セラの叫び声と共に、全員が身を低くした。
森の中から、武装した集団が現れた。リリアナの一味だ。
「よくぞここまで来たわね」
リリアナの声が聞こえる。彼女の姿は見えないが、確かにそこにいる。
「リリアナ!」アレクが叫んだ。「もう諦めろ!」
冷たい笑い声が返ってきた。「諦める? まさか。これは始まりに過ぎないわ」
戦闘が始まった。セラは的確な指示を出しながら、アレクを守る。
アレクも、持ち前の剣術で応戦する。
しかし、敵の数が多い。じわじわと、彼らは追い詰められていく。
「くっ...」
セラの左腕に、かすり傷を負った。
「セラ!」アレクが心配そうに叫ぶ。
「大丈夫です」
セラは歯を食いしばって戦い続ける。しかし、状況は悪化の一途をたどっていた。
そのとき、思わぬ援軍が現れた。
「王子様!セラ様!」
エルバニアの軍隊だった。先頭には、エリナ王女の姿があった。
「エリナ!」アレクは驚きの声を上げた。
戦況は一変する。リリアナの一味は、次々と捕らえられていった。
しかし、リリアナ本人の姿は見当たらない。
「逃げたわ」エリナが息を切らしながら言った。「でも、これで彼女の居場所はなくなったはず」
戦いが終わり、セラはホッと息をついた。しかし、彼女の表情には、まだ緊張が残っていた。
「王子様、リリアナ様の真の目的がわかりません。これで終わりとは思えないのです」
アレクは頷いた。「そうだな。まだ何かありそうだ」
エリナが二人に近づいてきた。
「アストリアとエルバニア、両国で協力して、リリアナの行方を追います」
アレクは感謝の意を示した。「ありがとう、エリナ。君の助けがなければ、危なかった」
セラは、アレクとエリナのやり取りを見ながら、複雑な思いに駆られていた。
彼女の心の中で、何かが揺れ動いている。
それは、アレクへの想い。そして、守護者としての使命感。
二つの感情が、激しくぶつかり合う。
アレクは、セラの様子に気づいたようだった。
「セラ、大丈夫か?」
彼の優しい声に、セラは我に返った。
「はい...ただ、少し考え事をしていました」
アレクは、セラの目をまっすぐ見つめた。
「この戦いが終わったら、ゆっくり話がしたい」
セラは、その言葉の意味を察した。彼女の心臓が、激しく鼓動する。
「はい、王子様」
夕暮れの空が、二人を包み込む。
戦いは終わったが、新たな試練がすぐそこまで迫っていた。
セラは、自分の心の声に耳を傾けながら、決意を新たにした。
彼女は、アレクを守る。そして、この国を守る。
たとえ、それが自分の想いを押し殺すことになったとしても。
しかし、彼女の心の奥底では、小さな希望の灯が揺らめいていた。
その灯は、やがて大きな炎となり、彼女の運命を変えていくのだろうか。
それとも...
セラは、遠く水平線を見つめた。
新たな朝が、静かに訪れようとしていた。
大広間には、国王クライブを中心に重臣たちが集まり、緊急会議が開かれていた。
「なぜ、こんなことになったのだ!」国王の怒声が響く。「警備はどうなっていたのだ!」
警備隊長が頭を下げる。「申し訳ありません。内通者がいたようです...」
アレクが口を開いた。「父上、今は責任追及よりも、リリアナの行方を追うことが先決です」
国王は深いため息をついた。「そうだな...」
そのとき、セラが前に進み出た。
「陛下、私にリリアナ様の追跡を命じていただけませんでしょうか」
アレクは驚いた表情でセラを見た。
国王は、じっとセラを見つめた。「お前一人では危険すぎる」
「私も行きます」
アレクの声に、全員の視線が集まった。
「アレク!」国王が厳しい声で息子を制した。「お前は王位継承者だ。そんな危険な...」
「だからこそ、行かねばなりません」アレクは毅然とした態度で言った。「この国の未来のために、私自身がリリアナを連れ戻す必要があります」
セラは、アレクの決意に満ちた表情を見て、胸が熱くなるのを感じた。
長い沈黙の後、国王はついに頷いた。
「わかった。だが、護衛の部隊を同行させる」
「ありがとうございます、父上」
準備は急ピッチで進められた。セラとアレクは、小規模ながら精鋭の部隊を率いて、夜明けとともに宮殿を出発した。
情報によると、リリアナは国境地帯に向かっているらしい。
馬を走らせながら、セラはアレクに尋ねた。
「王子様、本当によろしいのですか? 危険な任務です」
アレクは真剣な表情で答えた。「ああ、私の決意は揺るがない。それに...」
彼はセラをまっすぐ見つめた。
「君と一緒なら、どんな危険も乗り越えられる気がするんだ」
セラは、思わず目を逸らした。彼女の頬に、かすかな赤みが差す。
「...王子様のお力になれるよう、全力を尽くします」
二人の会話は、背後の部隊には聞こえていない。しかし、二人の間に流れる空気は、明らかに変わっていた。
追跡は困難を極めた。リリアナの一味は、巧みに痕跡を消していた。
しかし、セラの鋭い観察眼が、わずかな手がかりを見逃さない。
「こちらです」セラが指さす先に、かすかな足跡が残っていた。
アレクは感心した様子で頷いた。「さすがだな、セラ」
追跡は3日目に入った。一行は、深い森の中を進んでいた。
突然、セラが手を挙げて一同を止めた。
「待ってください。何か...」
その瞬間、矢が空気を切り裂いて飛んできた。
「伏せろ!」
セラの叫び声と共に、全員が身を低くした。
森の中から、武装した集団が現れた。リリアナの一味だ。
「よくぞここまで来たわね」
リリアナの声が聞こえる。彼女の姿は見えないが、確かにそこにいる。
「リリアナ!」アレクが叫んだ。「もう諦めろ!」
冷たい笑い声が返ってきた。「諦める? まさか。これは始まりに過ぎないわ」
戦闘が始まった。セラは的確な指示を出しながら、アレクを守る。
アレクも、持ち前の剣術で応戦する。
しかし、敵の数が多い。じわじわと、彼らは追い詰められていく。
「くっ...」
セラの左腕に、かすり傷を負った。
「セラ!」アレクが心配そうに叫ぶ。
「大丈夫です」
セラは歯を食いしばって戦い続ける。しかし、状況は悪化の一途をたどっていた。
そのとき、思わぬ援軍が現れた。
「王子様!セラ様!」
エルバニアの軍隊だった。先頭には、エリナ王女の姿があった。
「エリナ!」アレクは驚きの声を上げた。
戦況は一変する。リリアナの一味は、次々と捕らえられていった。
しかし、リリアナ本人の姿は見当たらない。
「逃げたわ」エリナが息を切らしながら言った。「でも、これで彼女の居場所はなくなったはず」
戦いが終わり、セラはホッと息をついた。しかし、彼女の表情には、まだ緊張が残っていた。
「王子様、リリアナ様の真の目的がわかりません。これで終わりとは思えないのです」
アレクは頷いた。「そうだな。まだ何かありそうだ」
エリナが二人に近づいてきた。
「アストリアとエルバニア、両国で協力して、リリアナの行方を追います」
アレクは感謝の意を示した。「ありがとう、エリナ。君の助けがなければ、危なかった」
セラは、アレクとエリナのやり取りを見ながら、複雑な思いに駆られていた。
彼女の心の中で、何かが揺れ動いている。
それは、アレクへの想い。そして、守護者としての使命感。
二つの感情が、激しくぶつかり合う。
アレクは、セラの様子に気づいたようだった。
「セラ、大丈夫か?」
彼の優しい声に、セラは我に返った。
「はい...ただ、少し考え事をしていました」
アレクは、セラの目をまっすぐ見つめた。
「この戦いが終わったら、ゆっくり話がしたい」
セラは、その言葉の意味を察した。彼女の心臓が、激しく鼓動する。
「はい、王子様」
夕暮れの空が、二人を包み込む。
戦いは終わったが、新たな試練がすぐそこまで迫っていた。
セラは、自分の心の声に耳を傾けながら、決意を新たにした。
彼女は、アレクを守る。そして、この国を守る。
たとえ、それが自分の想いを押し殺すことになったとしても。
しかし、彼女の心の奥底では、小さな希望の灯が揺らめいていた。
その灯は、やがて大きな炎となり、彼女の運命を変えていくのだろうか。
それとも...
セラは、遠く水平線を見つめた。
新たな朝が、静かに訪れようとしていた。
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