影の守護者

dep basic

文字の大きさ
上 下
10 / 29

第10章 再会の時

しおりを挟む
アストリア王国の宮殿に、早朝の静けさが漂っていた。しかし、その静寂は長くは続かなかった。

「セラ様が帰還されます!」

侍従の声が、宮殿中に響き渡る。

アレク王子は、その知らせを聞いて即座に動き出した。彼は、宮殿の大階段を駆け下りていく。その表情には、喜びと期待が溢れていた。

宮殿の大門が開かれ、そこにセラの姿があった。

「ただいま戻りました、王子様」

セラは深々と頭を下げた。しかし、その声には僅かな震えが混じっていた。

アレクは、セラの前に立ち、彼女の肩に手を置いた。

「おかえり、セラ」

その言葉に、セラは顔を上げた。二人の目が合う。

そこには、言葉では表現しきれない感情が溢れていた。

しかし、その瞬間は長くは続かなかった。

「セラ」

厳しい声が響く。振り向くと、そこには国王クライブが立っていた。

「報告を聞こう」

セラは姿勢を正した。「はい、陛下」

大広間に集められた重臣たちの前で、セラは詳細な報告を行った。エルバニアでの交渉の経緯、リリアナの罪の証拠、そして両国の同盟関係の強化について。

報告が終わると、大広間に沈黙が流れた。

国王は、深く考え込んだ様子だった。

「よくやった、セラ」ついに国王が口を開いた。「お前の働きは、我が国に大きな貢献をもたらした」

セラは深々と頭を下げた。「お言葉、恐縮です」

アレクは、誇らしげな表情でセラを見つめていた。

しかし、その時だった。

「しかし」国王の声が響く。「リリアナの処遇については、まだ慎重に検討せねばならん」

アレクが驚いて声を上げた。「父上!セラが証拠を...」

「わかっておる」国王は息子を制した。「だが、国家間の問題は複雑だ。我々は慎重に行動せねばならない」

セラは黙って国王の言葉を聞いていたが、その目には決意の色が宿っていた。

会議が終わり、セラは自室に戻った。長い任務の疲れが、一気に押し寄せてくる。

そのとき、ノックの音がした。

「セラ、入っていいか?」

アレクの声だった。

「どうぞ」

ドアが開き、アレクが入ってきた。彼の表情には、心配と安堵が混ざっていた。

「本当によく頑張ってくれた」アレクは静かに言った。「君がいなければ、この危機は乗り越えられなかった」

セラは微笑んだ。「私は、ただ自分の務めを果たしただけです」

二人の間に、沈黙が流れる。

そして、アレクが口を開いた。

「セラ、君がいない間、私はずっと考えていた」

セラの心臓が、早鐘を打ち始める。

「君は、私にとってただの護衛ではない。君は...」

その時、急なノックの音が二人を驚かせた。

「王子様、緊急の報告です!」

アレクは歯がゆそうな表情を浮かべたが、「入れ」と答えた。

侍従が慌ただしく入ってきた。

「リリアナ様が...リリアナ様が脱獄しました!」

セラとアレクは、驚愕の表情を浮かべた。

「なんだって!?」

事態は急転直下、新たな局面を迎えようとしていた。

セラの心に、再び緊張が走る。彼女は、自分の左腕の傷跡に触れた。

まだ、戦いは終わっていない。

アレクは、セラの方を見た。彼の目には、決意の色が宿っていた。

「セラ、もう一度力を貸してくれ」

セラは静かに頷いた。「はい、王子様。どこまでもお供いたします」

二人は互いを見つめ合った。そこには、信頼と、そしてそれ以上の何かが、確かに存在していた。

新たな危機が訪れようとしている。しかし、二人の心は一つになっていた。

どんな困難が待ち受けていようとも、共に立ち向かう。

それが、二人の選んだ道だった。

セラは、窓の外を見た。夕暮れの空が、赤く染まっていく。

明日からの戦いに向けて、彼女の心は静かに、しかし力強く準備を始めていた。

アレクの存在が、彼女に勇気を与える。

そして、彼女の存在もまた、アレクの支えとなっている。

二人の絆は、これからの試練の中で、さらに強くなっていくだろう。

セラは、深く息を吐いた。

そして、静かに呟いた。

「さあ、行きましょう。私たちの戦いは、まだ終わっていません」

アレクは頷き、二人は部屋を出た。

宮殿の廊下を歩きながら、セラは決意を新たにした。

彼女は、アレクを守る。

そして、この国を守る。

たとえ、それが自分の命と引き換えになったとしても。

新たな戦いの幕が、今まさに上がろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

そういう時代でございますから

Ruhuna
恋愛
私の婚約者が言ったのです 「これは真実の愛だ」ーーと。 そうでございますか。と返答した私は周りの皆さんに相談したのです。 その結果が、こうなってしまったのは、そうですね。 そういう時代でございますからーー *誤字脱字すみません *ゆるふわ設定です *辻褄合わない部分があるかもしれませんが暇つぶし程度で見ていただけると嬉しいです

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平
恋愛
 アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。  が、二人の心の内はそうでもなく……。 ※他サイトでも掲載しています

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

処理中です...