35歳刑事、乙女と天才の目覚め

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第10章:新たな朝

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佐藤元警部の再逮捕から半年が経過した。尚子の日常は、少しずつ安定を取り戻していった。

朝、いつものように鏡の前に立つ尚子。髪をとかしながら、彼女は過ぎ去った日々を振り返っていた。

「随分と長い道のりだったわね...」

警察署に到着すると、レイナが明るい表情で迎えてくれた。

「おはようございます、尚子さん。今日は特別な日ですね」

尚子は微笑んだ。「ええ、そうね」

この日、警察内にLGBTQ支援窓口が正式に開設される日だった。尚子の提案が、ようやく実現したのだ。

署内で行われた小さな式典。尚子が挨拶に立った。

「この窓口は、多様性を認め合い、互いを理解し合うための第一歩です。私たち警察は、すべての人々の安全と幸せを守る使命がある。そのためには、まず私たち自身が変わらなければなりません」

会場から温かい拍手が起こった。

式典後、尚子は一人で屋上に立っていた。東京の街並みを見下ろしながら、彼女は深く息を吐いた。

「尚子さん」
振り返ると、そこにはレイナの姿があった。

「どうしたの?」

「ちょっと心配で...」レイナは少し躊躇いがちに言った。「最近、能力の使い過ぎで体調を崩すことが多いですよね」

尚子は優しく微笑んだ。「心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ。私、分かったの」

「何をですか?」

「この能力は、決して呪いじゃない。でも、万能でもない。大切なのは、この力を正しく使うこと。そして、時には力を抑えることも必要だってね」

レイナは安心したように頷いた。

その時、二人の携帯が同時に鳴った。新たな事件の第一報だ。

「行きましょう」尚子が言った。

現場に向かう車の中、尚子は窓の外を見つめていた。街の景色が流れていく。

「私の人生も、こんな風に流れ続けているのかもしれないわね」

レイナが運転しながら尋ねた。「後悔はありませんか?あの時、全てを明らかにして」

尚子は少し考え、そして答えた。「ないわ。確かに大変なこともあったけど、今の私がいるのは、あの決断があったから。そして...」

彼女はレイナを見つめ、微笑んだ。「大切な仲間に出会えたから」

レイナも笑顔を返した。

車は朝日に照らされた街を走り続ける。新たな事件、新たな挑戦。しかし、もはや尚子は恐れていなかった。

彼女の中には、強い意志と、仲間との絆があった。そして何より、自分自身を受け入れる勇気があった。

35歳。刑事であり、一人の女性であり、そして特別な才能を持つ存在として。尚子の新たな人生の幕開けは、まだ始まったばかりだった。

車は、輝く未来へと走り続けていった。
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