35歳刑事、乙女と天才の目覚め

第3章：影との対峙

深夜の路地裏。尚樹とレイナは、新たな事件現場に到着した。

「ここか...」

尚樹の鋭い目が周囲を素早く捉える。その瞬間、彼女の脳裏に閃きが走った。

「レイナ、この現場...何か違和感ない？」

レイナは首を傾げる。「特には...どういうことですか？」

尚樹は現場を指さしながら説明を始めた。「これまでの事件と比べて、あまりにも整然としすぎている。まるで...」

「まるで？」

「まるで、私たちに見せるために作られた舞台のようよ」

その言葉に、レイナは息を呑んだ。確かに、これまでの乱雑な現場とは違い、今回の現場は不自然なほど整頓されていた。

尚樹は被害者の遺体に近づいた。そこには、やはり例の暗号めいた傷跡が刻まれていた。

「これは...」

尚樹の目が見開かれる。傷跡の暗号が、瞬時に彼女の脳内で解読されていく。

「まさか...」

「どうしたんですか、高橋さん？」

尚樹は震える声で答えた。「これは...私へのメッセージよ」

「え？」

「『目覚めた乙女よ、私に会いに来い』...そう書かれているわ」

レイナは困惑の表情を浮かべた。「高橋さん、それはどういう...」

その時、尚樹の携帯が鳴った。見知らぬ番号からだ。

躊躇いながらも電話に出る尚樹。そこから聞こえてきたのは、歪んだ声だった。

「よく解読できましたね、高橋刑事。あなたの才能には感服します」

尚樹は身構えた。「あなたが...犯人ね」

「ご名答。でも、『犯人』というのは少々乱暴な呼び方です。私はむしろ...あなたの目覚めを助けた恩人、とでも言いましょうか」

「何を言っているの？」

「あなたの中で起きている変化。それは偶然ではありません。私が...仕掛けたのです」

尚樹は息を呑んだ。「あなたが...私を...」

「そうです。あなたの潜在能力を引き出し、眠っていた本当の自分を目覚めさせた。それが私です」

「なぜ...なぜそんなことを？」

「あなたに気づいてほしかった。この世界の真実に。そして、あなた自身の真実に」

尚樹は混乱していた。自分の変化が、この犯人によって引き起こされたものだとは。

「私に何を望んでいるの？」

「それは、直接会ってからのお楽しみです。次の現場で、あなたを待っています」

電話が切れた。尚樹は、動揺を隠しきれない表情でレイナを見た。

「高橋さん、一体何が...」

「説明している時間はないわ。次の現場を予測できる。急ぎましょう」

二人は急いで車に乗り込んだ。

車を走らせながら、尚樹の頭の中では様々な思いが交錯していた。
自分の変化の理由。犯人の目的。そして、これから向かう場所で待ち受けているものは...。

街灯が車窓を過ぎていく。尚樹は決意の表情を浮かべた。
「どんな真実が待っていようと、必ず事件を解決してみせる」

レイナは、運転する尚樹の横顔を見つめていた。そこには、これまでにない強さと、同時に繊細さが感じられた。

二人を乗せた車は、未知の対決の場へと向かっていった。
夜の闇の中、新たな展開が待ち受けていた。