シリアルキラーの婚約者

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第3章:真相への扉

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誠の日々は、不安と疑念に塗り固められていった。美咲との時間は、かつての甘美さを失い、代わりに重苦しい緊張感が漂うようになっていた。

ある日、誠は決意を固め、美咲が不在の時を狙って彼女のアパートに忍び込んだ。罪悪感に苛まれながらも、真相を知らずにはいられなかった。

リビングルームを探っていると、本棚の奥に隠された小さな扉を発見した。鍵がかかっているが、誠はエンジニアとしての技術を駆使してなんとか開けることに成功した。

扉の向こうには、小さな密室があった。壁には無数の写真が貼られており、そのほとんどが新聞で報じられていた失踪者たちだった。各写真の下には日付と奇妙な符号が書かれている。そして部屋の中央には、肉切り包丁や薬品類が整然と並べられていた。

誠は震える手で、机の上にあったノートを開いた。そこには美咲の几帳面な字で、詳細なレシピが記されていた。しかし、その材料欄に記された言葉に、誠は戦慄した。

「新鮮な男性の肉 500g」

吐き気を催しながらも、誠は必死にノートの内容を携帯で撮影した。証拠を押さえなければ。そう思った瞬間、玄関のドアが開く音がした。

「誠さん?どうしてここにいるの?」

振り返ると、そこには困惑した表情の美咲が立っていた。しかし、その目は冷たく、どこか非人間的な光を宿していた。

「美咲さん...これは...」誠は言葉につまった。

美咲はゆっくりと誠に近づいてきた。「あら、秘密の部屋を見つけちゃったのね。さすが、私の誠さん」

その声には、以前のような温かみがなかった。

「なぜだ...なぜこんなことを?」誠は震える声で尋ねた。

美咲は冷ややかに笑った。「なぜって...純粋な探究心よ。人間の肉がもたらす究極の美味しさを追求したかったの。そして、私はそれを見つけたわ」

誠は後ずさりながら言った。「美咲さん、僕は君を愛している。だからこそ、このままじゃいけない。自首しよう。一緒に更生の道を...」

美咲の表情が一瞬柔らかくなったが、すぐに硬い決意に満ちた顔つきに戻った。

「ごめんなさい、誠さん。あなたのことは本当に愛しているわ。でも、私の探究をやめるつもりはない」

そう言って、美咲はポケットから注射器を取り出した。

「さあ、誠さん。最後の晩餐の準備をしましょう」

誠は必死に逃げ出そうとしたが、美咲の動きの方が速かった。首筋に針が刺さる痛みを感じた瞬間、意識が遠のいていく。

最後に聞こえたのは、美咲の悲しげな囁きだった。

「ごめんね、誠さん。でも、あなたは私の最高傑作になるわ」

意識を失う直前、誠は携帯電話のボタンを必死に押した。送信される前の、警察への通報メッセージ。それが、彼の最後の希望だった。
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