シリアルキラーの婚約者

プロローグ：最後の晩餐

霧雨が静かに降る夜、街の喧騒から少し離れた場所にある小さなレストラン「美咲亭」の灯りが、暗闇に温かな光を投げかけていた。

店内では、一組のカップルがテーブルを挟んで向かい合っていた。ろうそくの柔らかな明かりに照らされた彼らの表情は、幸せに満ちているようでいて、どこか影を宿していた。

「美咲、この料理、本当に最高だよ。君の腕には毎回驚かされるよ」

男性、田中誠が口元を拭いながら言った。その声には僅かな震えが混じっていた。

「ありがとう、誠。あなたに喜んでもらえて嬉しいわ」

女性、佐藤美咲が微笑んだ。その瞳の奥には、何か計り知れないものが潜んでいるようだった。

「でも、どうしてこんな夜遅くに、急に私を呼び出したの？」

誠は箸を置き、深呼吸をした。彼の表情が一瞬こわばる。

「美咲、実は大事な話があるんだ。僕たちの関係について、そして...君のレストランについて」

美咲の笑顔が一瞬凍りついた。

「どういうこと？」

「君のレシピの秘密、わかってしまったんだ」

沈黙が二人を包み込む。外では霧雨がいつしか本降りとなり、窓を叩く音が店内に響き始めた。

美咲はゆっくりとナイフを手に取った。その刃が、ろうそくの灯りに不吉な輝きを放つ。

「そう...」彼女の声が囁くように漏れる。「それじゃあ、あなたにも秘密のレシピを教えてあげないといけないわね」

ナイフを持つ美咲の手が、ゆっくりと持ち上がる。

誠の瞳に恐怖の色が広がった瞬間、レストランの灯りが消え、暗闇が二人を飲み込んだ。

外では、サイレンの音が遠くから近づいてくるのが聞こえ始めていた。