女子高生 薫の時代

いしかわさん

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第8章

助けて

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 薫はバタンと音を立てて本を閉じた。間違いないこれは私の物語だった。目の前にいる小山に
「小山さん、ここ出ましょう」
 そう言って小山の袖を揺すったが反応がなかった。薫は
「すいません、すいませーん」
 マスターを呼んだ。もうどうしていいのかわからない。
「はい。お呼びですか?どうかされましたか?」
「この本、読みました。これって私の事が書いてあるようで」
「そうですか」
 男はそっけなく言った。男を問い詰めてもしょうがないのだが、薫の母の死因は乳がんと聞いていた。けれど、本に書かれていたことは自分の知らない母の最期だった。家庭を持った者同士?つまり母は他の男とダブル不倫をしたあげくその男と死んだということか。しかし、そうであればこれまで薫に向ける親戚達のよそよそしさや後ろめたさが納得いく。母の事を父に聞いても癌で死んでしまった。それはそれはシンプルなものだった。
「あの、この本を読んで続きを書かなかったらどうなるんですか?」
「そうでした。そうでした。大切な事を説明しておかなきゃいけませんね」
「どうなるんです?」
 薫は声を荒げた。
「続きを書くも書かないも自由と言いました。ただ読んでしまってからだと話が違ってきます。もしあなたがこのままここを去ればあなたの記憶も消えることになります」
「えっじゃあこの目の前にいる小山さんのことも」
「はい。そうなります」
「どうして彼は人が変わったように、こんな風になってしまっているのです?」
「だって、さっきまで私と普通に会話をして普通に話していたんですよ」
「うーん。それは私にもよく分かりませんが、私から言えるのはこの方もあなたと同じように来て私が渡した本を読んでいましたよ」
「それで小山さんは本の続きを書いたんですか?」
「どうだったかな。けど、あなたとこうして来ていて、言い方は悪いですが石のようになってしまった彼をみると本は読んだけれど続きは書かなかったということではないでしょうか」
 ああそうか。そのほうが辻褄が合う。小山はこの店のことも薫の話も知らなかった。それならば、薫も同じようにここを出てしまえばいいのだろうか。慌てて閉じてしまった本の続きがあったはずだ。母ことも何もわからないままだ。薫は小山の石のよう指に触れた。石のような指はちゃんと暖かかった。小山は石なんかじゃない。人間だ。本を開いてしまえば知らなくていいことも知ってしまうのかもしれない。薫の指が震える。その時だ薫の指に小山の指が触れた。小山はちゃんと生きている。私も生きよう。あるがまま受け入れよう。そう決心し薫は本を再び開いた。
    
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