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目標のある幸せ ー卒業ー 第十四話
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三期生の子たちはライブでもパフォーマンスができるように振り付けを覚えたりしていたが、一向に披露する予定が聞こえてこない。
自分は自分で仕事があるのだが、仕事で一緒になったさなえに訊いてみた。
「三期生はそのうちチームベータライブで初めての正式なライブをするんですよね」
情報通のさなえに私が訊くと、さなえはまだ決まってないらしいと言った。
「私たちの時は村雨部長が勢いですぐに話しを進めたらしいけど、今回はそういう無理やりなことをしてないらしくて。私たちの時よりも大事にされているみたい」
「無理やりとか、大事にって、私たちはなんだったの?」
「大事かどうかはさておき、これは私の勝手な想像だけど、私たちの時は紗良がいたからじゃないかな。今は紗良がチームアルファーでしょ」
「私基準でライブをするしないを決めてるわけ無いじゃないですか。変な噂を流さないようにしてくれますか? 本当にお願いですから」
さなえの情報網は恐ろしいので、さなえがそう思っているということになると、かなりの確率で同じように思っているメンバーとかがいるのではないかと思われた。
「さすがに、それは冗談だけど、村雨さんは今回あまり口出しをしていないそうよ」
「私たちの時は箱を変えたとか言って、めちゃくちゃだった気がします」
二期生が入った時は周りの人たちが五百人くらいでって言うのを三千人にしたりとか、メンバーで考えてスタッフと話し合って決めろとか言ってきたのを思い出した。
「結局、みんな持っている力があるから、最後は何とかなるもんだって思ったのですけどね」
私だけなのかもしれないが、人前に出てパフォーマンスをするというのはいつになっても緊張する。
同じ人が来るのであればそのうち慣れるのかもしれないが、来てくれるファンの人は一部の人を除いていつも顔ぶれが違うから、喜んでもらえるのかどうか不安で仕方がない。
それでも場数を踏めば、自分の納得のいくパフォーマンスを出していけるようになる気がしているが、そういう機会がすぐにもらえていない三期生は、私たちの時よりも不安に感じるんじゃないのかなと思っていた。
「村雨部長ちょっと良ろしいですか?」
「相羽か、なんか久しぶりな気がするな。なんだ?」
「差支えなければ教えていただきたいのですが、三期生の入ったチームベータライブとかは予定されていないですか?」
「今のところ無いな」
ものすごくあっさりと返答をされて逆に拍子抜けした。
「あ、そうですか」
「なんだ? 鳩が豆鉄砲を喰らった顔というのはそういう顔をいうのかな。チームアルファーの相羽がどうしてそんなことを訊くんだ」
「いえ、この前華さんと三期生のレッスンに付き合いまして、みんな頑張っているから、どこか披露する場があるのかなーって思いまして」
「こちらにもいろいろ都合があってな。先走って勝手な行動を起こすなよ」
「滅相もありません。何もしないです」
「あやしいな。相羽の何もしないはこっちが不安になるから先に言っておく、絶対に誰にも言うなよ」
「言うなと言われれば言いません。何ですか?」
「本当はこんなこと他のメンバーにも話してはいけないんだが、相羽はサブリーダーだし中途半端に行動力があるからな。三期生は三期生の週一のテレビ番組が予定されているから、そっちで先に頑張ってもらうことになると思う。だから変な心配はしなくてもいいし、何もするなよ」
どういった番組かわからないが、彼女たちの活動の場が得られるのであれば、それはそれでいいかと思った。
「そうですか、ありがとうございます」
お礼を言われることでもないような気がするが、サブリーダーがなんか保護者みたいな感じになってるなぁと言いながら村雨部長が去っていくのを見て、どんな番組なのか早く見てみたいと思った。
「紗良、紗良、情報を入手したよ」
「さぁちゃんどうしたのですか? 何の情報?」
グループの冠番組の楽屋に入ったときにさなえが興奮気味に話しかけてきた。
「三期生が入ったチームベータのライブがすぐに予定されない理由」
「へぇ、何なのです?」
すでに知ってしまっているので、できるだけ平静を装って答える。
「あの子たち、自分の番組があるんですって」
「そうなんですか。それならよかった」
村雨部長に言うなよと言われたことが頭によぎる。
私は普通に答えられているだろうか? できれば鏡の前で自分の顔を確認しながら会話したい。
「もしかして知ってた?」
「いや全然」
ごめんさなえ、嘘ついた。もう、ばれそう。話を変えなくては。
「それで、何でそんなことをさぁちゃんが知っているのですか?」
「興味があるのそこ? 別に正式に聞いたわけじゃないし、大したことじゃなくて制作の人たちの雑談の中からそんな感じのニュアンスを聞いたのよね。それらしい話題を振ったらぽろって。大丈夫、安心してよ。話した人もそのことに気が付いていないと思うし気が付かないふりして違う話題に変えたから」
「へぇそうなのですか。それでどんな番組なのかな」
「そこまでは……。もしもわかったらまた教える」
それじゃあねと歩いていくさなえを見送りながら、私は一人怖い怖すぎると思っていた。
平静を装って話しをしていたけど、内心ドキドキしている。
以前も絵里奈が私の家に泊まったことをそれとなく突き止めていたが、さっきのようなシチュエーションで人のいい絵里奈は誘導されたんだろうなと、今更ながらにさなえの情報収集能力には感心するしかない。
「さぁちゃんは繊細で自分でエゴサをしてへこむ割に、会話とかからの情報収集能力が異常に高いんですね。だから情報過多になって逆に余計へこむということですか」
いやぁすごいなぁと妙なところに感心をしながら、三期生の子たちがどんな番組をするのかと思っていた。
そうこうしているとお母さんがグループの番組をチェックしてくれていて、意外に早く番組のことが分かった。
「お母さんいつもありがとう。これ見たかったの」
アイドルとしてどう振舞うかなどのシミュレーションを面白おかしくやるバラエティ番組をお茶を飲みながら一緒に見ていた。
「今度の子たちは初めからいろいろやらされるのねぇ」
「私たちの時はライブが先にあったから。三期生の子たちは方向性が違うだけで一緒だとは思うけど」
私たちは最初のころテレビに出ると言えば昔からの冠番組だけみたいな感じで、先輩もいて緊張した感じがあったが、三期生の子たちは先輩もいないので伸び伸びしている感じがする。
「愛華ちゃんって、テレビで見たら前見た時と全然違う感じだけど、このかわいい子でしょ?紗良も大変だったけど、今思えばこんなかわいい子がひどい事故に合わなくてよかったわね」
そう言われて「本当に」といいながら番組をみていると外にロケに出るというところで夜の八時になったから愛華が帰りますとなった。
「あら? 愛華ちゃんは帰っちゃうのね。中学生だから?」
「そうみたい。海外の映画でも子役がいるシーンでは夜遅くの撮影はしないようにされているって言うし、きちんとそういうことを守っていますよっていうことだと思うけど、愛華がものすごい悔しそう」
「紗良さん今の感じでわかるの? あんなにニコニコしてお先に失礼しますって言っていたのに?」
「この前近くでずっと見ていたからわかるようになったの。愛華はやっぱりすごい子なんだと思う。全然気持ちを表に出さずに挨拶して帰っていった」
すごい子というのは間違いないけど、そういう子は中に溜めこんでしまうので、何らかのはけ口が無いと精神衛生上よくないだろうと思う。大人になれば誰かを見つけて、美咲さんじゃないが大泣きするとかその辺もバランスをとっていくのだろうけど、中学生の愛華はそういう人がいるのだろうかと心配になった。
「紗良先輩、紗良先輩」
「年も変わらないし先輩はいらないと思うけど。樹里ちゃんどうしたの?」
サブリーダーとはいえ一期生や同期でも私に話しかけるのは勇気がいると聞いたことがあるのに三期生が話しかけてくれるとは、この前一緒にレッスンしたからかなと思った。
「愛華に話しかけてあげてもらいたいんですけど」
「はっ? えっと、何を?」
「何でもいいんです。おねがいします」
何でも良いって、とりあえず落ち着いて話しをしてほしいから深呼吸してと言うと、一度深く息をしてから事の顛末を話してくれた。
テレビの撮影は遅くになることがよくあり中学生の愛華は途中で切り上げることが度々で、本人がひどく気にしているので、三期生を始めとしてマネージャーさんも気にしないようにとみんなで言うのだが、本人的にどうにもならないのが分かっているのに落ち込むらしい。
「みんなに置いて行かれるような気がするのかな?」
自分が仕事をしていないときに他の子が仕事をしていると自分も何かをしてないといけないと思って焦ることがあると相談されたことを思い出した。
「そうかもしれないです。愛華は紗良先輩が目標でダンスも歌もすべて完璧でないといけないと思っていて、仕事もみんなと同じかそれ以上できないといけないって思っているんです。誰もそんなことは思っていないんですが、途中で抜けて迷惑をかけているんじゃないかって、勝手に落ち込んで。申し訳ないから収録とかが楽しくなくなってきたとか言うし」
「そうかぁ。私も別に完璧なわけではないけどね。そんなものは存在しないし。ところで樹里ちゃんは愛華とは仲が良いの?」
「私だけじゃなくて愛華はみんなと仲がいいです。私は一人っ子だからすごいかわいい妹ができたみたいでうれしくて。たまに生意気なことを言いますが、それも中学生の子が一生懸命にやっていると思ったら、そうだねぇって受け入れられるんですよね」
「樹里ちゃんは優しいんだね。同じグループのメンバーとしてすごくうれしい」
そう言って自分なりに優しく微笑んで、近いうちに話してみると答えた。
「あっ、あの、いえ、良いんです。とりあえず言いたいことは言いましたので、それじゃあお願いします」
優しく微笑んだつもりなのに、後ずさりしてから、すごい勢いで走って逃げていくのを見るとやっぱり怖がられているのかと思いながら、愛華に直接会うにはどうしたらいいのかと考えていた。
「美香は、グループに入った頃に活動時間で悩んだことがありますか? ほら、中学生とかは遅くまで仕事できないじゃないですか」
「紗良ちゃんはいまさら何言ってるの? そんなことで悩んだことないよ。逆に仕事の関係が忙しくて学校の勉強についていけないってことはあったけど」
紗良ちゃんに勉強を教えてもらったじゃないと言うので、確かにそういうこともあったなと思いだしていた。
「私の記憶にもあまり美香が帰らされたとかって特にないんですよね」
「ああ、あれでしょ愛華ちゃんのこと? 私もテレビで見た」
「するどいですね。美香がああいうことになったのを見たことがなかったけど、私が知らないだけでどうだったかなと思いまして」
「全然なかった。中学の時にそういう途中で帰らないといけないような番組に出たこともなかったし、紗良ちゃんが近くに居たらそれだけでうれしかったから。参考にならなくてごめんね。でも本人に直接聞いてあげた方が良いと思う。きっと喜ぶよ」
「そうですか? うん、そうですね、ありがとう。話しをしてみます」
やっぱり美香の時は、あまりそんなことを気にした記憶がなかったが、その時によっていろいろと変わるものだと思った。
マネージャーの真帆ちゃんに訊いて、私の仕事が重ならない愛華のスケジュールを確認してから収録スタジオにこっそり様子を見に行くことにした。
愛華は樹里ちゃんが心配したような感じもなく、普通にニコニコと収録をしていたけど、みんなにわからない程度に時間を気にしている様子だった。
私は「愛華、集中して頑張れ」と心の中で念じて収録が終わるのを待っていた。
しばらくすると「OKでーす」の声とともに収録が終了してみんなが戻ってきたので、みんなに「お疲れ様」とそっと声をかけると、何でこんなところにと驚いていた。
「一緒に楽屋に行ってもいい?」
そう言うとみんながうんうんとうなずくので一緒について行った。
「さっ、紗良先輩は今日はどうしたんですか?」
「すごい楽しそうだから、どんな現場か見せてもらいたくて。美鈴ちゃんはどうだった? 楽しかった?」
「覚えていてくれているんですか? うれしい。楽しかったです」
「もちろん覚えてるよ。収録楽しそうだったね。声も出てたし」
「ありがとうございます。一緒に写真を撮ってもらっても良いですか?」
「私とで良いの? いいよ、一緒に撮ろう」
みんながもじもじしながら、私もいいですかと言って写真を一緒に撮っていたが、愛華はニコニコしてみんなの写真を撮るところを見ているものの、結局遠巻きにしているだけで寄ってこなかった。
「よし、それじゃあ私も帰るね。そうだ、愛華、もう帰るんでしょ?」
「はい、これから迎えに来てもらいます」
「同じ方向だから、もしよかったら一緒に帰ろうか? 一緒に帰るなら準備できるまで待ってるから」
「えっ? 一緒に?」
本当ですか? と言いながら家に電話しますと言って、愛華のお母さんに私に送ってもらうけど良いかと訊いている。
美鈴ちゃんが私も一緒に帰りたいと言っているのを樹里ちゃんがまあまあと言って止めていた。
「紗良先輩となら一緒に帰ってもいいそうです」
「そう、良かった。それじゃあ準備して。みんなも今度ご飯とか行こうね」
そういうと、みんなが「はーい」といって帰り支度を始めていた。
「紗良先輩、支度できました」
「よし、帰ろう」
そう言って、スタジオの建屋を出てから手でもつなぐ? と訊いてみた。
「お願い……します」
二人で手をつないで駅までゆっくり歩いていく途中で訊いてみる。
「愛華は収録楽しい?」
つなぐ手の力が少しきゅっとなった。
「楽しいです……」
「楽しいならいいけど、何か焦っていたりするの?」
「焦っていませんよ。なんでそんなことを訊くんですか?」
「今日の収録を見ていたから。ずっと時間を気にしてたでしょ」
ちょうど信号が赤になり横断歩道で止まったところで愛華の顔を見てみた。
少し悔しそうな顔を見せて私を見返してくる。
「誰かに言われたんですか? 私のこと」
「みんな愛華のことが好きなんだと思うよ。心配だから愛華と話しをしてほしいって。もちろんそれだけじゃなくて、私もテレビの放送を見たから」
「私は大丈夫です」
「この私に強がりを言っても駄目だよ、わかるから。でも愛華はすごいよね、放送でも気持ちを一切表に出さずにニコニコしていたし」
愛華が驚いた顔でこちらを見ているので、青になったよと言って横断歩道を渡り始めた。
それからは二人とも何も話しをせずに電車に乗り、車窓に映る二人の姿をじっと見ていた。
最寄りの駅について見慣れた街の風景を見ながら話しをした。
「愛華は私が目標だって言っていたよね」
「そうです」
「私はね、完璧でもないし、本当は仏頂面が基本だし、感情もあまり出さないし、ずっとみんなの方がすごいと思ってる」
「そんなことないと思います」
「ありがとう。みんなそうやって言ってくれるけど、私はそう思っているの。それは私の中のことだから簡単には変えられないし誰でもそういうことってあるんじゃないかな」
やさしく愛華の目をのぞき込む。
「でもね、私はどうにもならないことをどうにもならないって嘆いたりはしない。すごいと思ったらそれに近づきたいという努力はする。だけど、その人になりたいわけじゃない」
「どういうことですか?」
「私は、私ができることで最大限の努力をする。愛華は年齢制限で時間切れになったときに悔しい思いをするんでしょ?」
そうですと素直に頷いた。
「でも、年齢制限の時間になった後なんてどうしようもない。気にするのはそこじゃないよ。時間制限いっぱいまで全力で頑張ったかどうか、全力で楽しんだかどうかだと私は思う。途中の時間を気にしているようだとそんなことはできていないんじゃない?」
「でも、でも」
「悔しい気持ちを持つことは悪いことじゃないよ、今度は頑張ろうっていうモチベーションにつながるし。だから、自分でどうにもできないことを悔やむんじゃなくて、できなかったことを悔やんで。今度はもっと積極的にしてみようとか考えないとだめだよ。今日はどうだった?」
「時間を気にしてました」
「愛華はへんな言い訳しないし、素直でいい子だよね。それなら今度は時間なんかを気にせず、全力で楽しむ愛華を見せて、放送を楽しみにしてる」
「頑張ります」
「もしも、自分の気持ちの整理がつかないときがあったら、電話してくれてもいいから」
そう言ってスマホを取り出しで電話番号を交換した。
「忙しいかもって気になるかもしれないから合図を決めておこうか」
「合図?」
「そう、愛華がどうしても自分でどうにもできなくて、私と直接話しをしたい時の二人だけの合図。一回だけワンギリしてからもう一回かけて。そうしたら出られるときは必ず出る。出られなかったら、後から何があっても連絡を取る」
「何かスパイみたいですね」
「そうでしょ、そういう風にしたらいいかなと思って。私が仕事以外で必ず電話にでる人なんてそうそういないんだから、すごくレアよ。あっ、でも愛華は仕事仲間だから普通でも出ちゃうかな」
美香の時も同じようなことを言っていたなと思いながら、ちょっと涙目で嬉しそうに笑っている愛華を見ていた。
「愛華が頑張っている限り、私は愛華を助ける。だから安心して」
愛華の家の前についたときに瞳をみながらそう言ってから、それじゃあねと言うと、寄って行ってくれないんですか? と訊かれたので、今日は遅いから今度ちゃんと招待してくれたらねと言って手を振って別れた。
しばらくして、私が見学した収録の後の放送をお母さんと観ていた。
「あらら、また愛華ちゃんは途中で帰っちゃうのね。でも、この前より雰囲気が明るくなった感じがするわね」
「そうだね。いつもみたいにニコニコしているのは一緒だけど、今日はできることをやり切ったって顔してる」
テレビに映った愛華は、時間など全く気にせず、全力で楽しそうにしていることが分かる。
結局、愛華からは、自分の気持ちの整理がつかないときにと言ったからか、教えた方法で電話がかかってくることは無かったが、普段から現場で会ったときにあーだこーだと私に話しかけて来るようになっていた。
自分は自分で仕事があるのだが、仕事で一緒になったさなえに訊いてみた。
「三期生はそのうちチームベータライブで初めての正式なライブをするんですよね」
情報通のさなえに私が訊くと、さなえはまだ決まってないらしいと言った。
「私たちの時は村雨部長が勢いですぐに話しを進めたらしいけど、今回はそういう無理やりなことをしてないらしくて。私たちの時よりも大事にされているみたい」
「無理やりとか、大事にって、私たちはなんだったの?」
「大事かどうかはさておき、これは私の勝手な想像だけど、私たちの時は紗良がいたからじゃないかな。今は紗良がチームアルファーでしょ」
「私基準でライブをするしないを決めてるわけ無いじゃないですか。変な噂を流さないようにしてくれますか? 本当にお願いですから」
さなえの情報網は恐ろしいので、さなえがそう思っているということになると、かなりの確率で同じように思っているメンバーとかがいるのではないかと思われた。
「さすがに、それは冗談だけど、村雨さんは今回あまり口出しをしていないそうよ」
「私たちの時は箱を変えたとか言って、めちゃくちゃだった気がします」
二期生が入った時は周りの人たちが五百人くらいでって言うのを三千人にしたりとか、メンバーで考えてスタッフと話し合って決めろとか言ってきたのを思い出した。
「結局、みんな持っている力があるから、最後は何とかなるもんだって思ったのですけどね」
私だけなのかもしれないが、人前に出てパフォーマンスをするというのはいつになっても緊張する。
同じ人が来るのであればそのうち慣れるのかもしれないが、来てくれるファンの人は一部の人を除いていつも顔ぶれが違うから、喜んでもらえるのかどうか不安で仕方がない。
それでも場数を踏めば、自分の納得のいくパフォーマンスを出していけるようになる気がしているが、そういう機会がすぐにもらえていない三期生は、私たちの時よりも不安に感じるんじゃないのかなと思っていた。
「村雨部長ちょっと良ろしいですか?」
「相羽か、なんか久しぶりな気がするな。なんだ?」
「差支えなければ教えていただきたいのですが、三期生の入ったチームベータライブとかは予定されていないですか?」
「今のところ無いな」
ものすごくあっさりと返答をされて逆に拍子抜けした。
「あ、そうですか」
「なんだ? 鳩が豆鉄砲を喰らった顔というのはそういう顔をいうのかな。チームアルファーの相羽がどうしてそんなことを訊くんだ」
「いえ、この前華さんと三期生のレッスンに付き合いまして、みんな頑張っているから、どこか披露する場があるのかなーって思いまして」
「こちらにもいろいろ都合があってな。先走って勝手な行動を起こすなよ」
「滅相もありません。何もしないです」
「あやしいな。相羽の何もしないはこっちが不安になるから先に言っておく、絶対に誰にも言うなよ」
「言うなと言われれば言いません。何ですか?」
「本当はこんなこと他のメンバーにも話してはいけないんだが、相羽はサブリーダーだし中途半端に行動力があるからな。三期生は三期生の週一のテレビ番組が予定されているから、そっちで先に頑張ってもらうことになると思う。だから変な心配はしなくてもいいし、何もするなよ」
どういった番組かわからないが、彼女たちの活動の場が得られるのであれば、それはそれでいいかと思った。
「そうですか、ありがとうございます」
お礼を言われることでもないような気がするが、サブリーダーがなんか保護者みたいな感じになってるなぁと言いながら村雨部長が去っていくのを見て、どんな番組なのか早く見てみたいと思った。
「紗良、紗良、情報を入手したよ」
「さぁちゃんどうしたのですか? 何の情報?」
グループの冠番組の楽屋に入ったときにさなえが興奮気味に話しかけてきた。
「三期生が入ったチームベータのライブがすぐに予定されない理由」
「へぇ、何なのです?」
すでに知ってしまっているので、できるだけ平静を装って答える。
「あの子たち、自分の番組があるんですって」
「そうなんですか。それならよかった」
村雨部長に言うなよと言われたことが頭によぎる。
私は普通に答えられているだろうか? できれば鏡の前で自分の顔を確認しながら会話したい。
「もしかして知ってた?」
「いや全然」
ごめんさなえ、嘘ついた。もう、ばれそう。話を変えなくては。
「それで、何でそんなことをさぁちゃんが知っているのですか?」
「興味があるのそこ? 別に正式に聞いたわけじゃないし、大したことじゃなくて制作の人たちの雑談の中からそんな感じのニュアンスを聞いたのよね。それらしい話題を振ったらぽろって。大丈夫、安心してよ。話した人もそのことに気が付いていないと思うし気が付かないふりして違う話題に変えたから」
「へぇそうなのですか。それでどんな番組なのかな」
「そこまでは……。もしもわかったらまた教える」
それじゃあねと歩いていくさなえを見送りながら、私は一人怖い怖すぎると思っていた。
平静を装って話しをしていたけど、内心ドキドキしている。
以前も絵里奈が私の家に泊まったことをそれとなく突き止めていたが、さっきのようなシチュエーションで人のいい絵里奈は誘導されたんだろうなと、今更ながらにさなえの情報収集能力には感心するしかない。
「さぁちゃんは繊細で自分でエゴサをしてへこむ割に、会話とかからの情報収集能力が異常に高いんですね。だから情報過多になって逆に余計へこむということですか」
いやぁすごいなぁと妙なところに感心をしながら、三期生の子たちがどんな番組をするのかと思っていた。
そうこうしているとお母さんがグループの番組をチェックしてくれていて、意外に早く番組のことが分かった。
「お母さんいつもありがとう。これ見たかったの」
アイドルとしてどう振舞うかなどのシミュレーションを面白おかしくやるバラエティ番組をお茶を飲みながら一緒に見ていた。
「今度の子たちは初めからいろいろやらされるのねぇ」
「私たちの時はライブが先にあったから。三期生の子たちは方向性が違うだけで一緒だとは思うけど」
私たちは最初のころテレビに出ると言えば昔からの冠番組だけみたいな感じで、先輩もいて緊張した感じがあったが、三期生の子たちは先輩もいないので伸び伸びしている感じがする。
「愛華ちゃんって、テレビで見たら前見た時と全然違う感じだけど、このかわいい子でしょ?紗良も大変だったけど、今思えばこんなかわいい子がひどい事故に合わなくてよかったわね」
そう言われて「本当に」といいながら番組をみていると外にロケに出るというところで夜の八時になったから愛華が帰りますとなった。
「あら? 愛華ちゃんは帰っちゃうのね。中学生だから?」
「そうみたい。海外の映画でも子役がいるシーンでは夜遅くの撮影はしないようにされているって言うし、きちんとそういうことを守っていますよっていうことだと思うけど、愛華がものすごい悔しそう」
「紗良さん今の感じでわかるの? あんなにニコニコしてお先に失礼しますって言っていたのに?」
「この前近くでずっと見ていたからわかるようになったの。愛華はやっぱりすごい子なんだと思う。全然気持ちを表に出さずに挨拶して帰っていった」
すごい子というのは間違いないけど、そういう子は中に溜めこんでしまうので、何らかのはけ口が無いと精神衛生上よくないだろうと思う。大人になれば誰かを見つけて、美咲さんじゃないが大泣きするとかその辺もバランスをとっていくのだろうけど、中学生の愛華はそういう人がいるのだろうかと心配になった。
「紗良先輩、紗良先輩」
「年も変わらないし先輩はいらないと思うけど。樹里ちゃんどうしたの?」
サブリーダーとはいえ一期生や同期でも私に話しかけるのは勇気がいると聞いたことがあるのに三期生が話しかけてくれるとは、この前一緒にレッスンしたからかなと思った。
「愛華に話しかけてあげてもらいたいんですけど」
「はっ? えっと、何を?」
「何でもいいんです。おねがいします」
何でも良いって、とりあえず落ち着いて話しをしてほしいから深呼吸してと言うと、一度深く息をしてから事の顛末を話してくれた。
テレビの撮影は遅くになることがよくあり中学生の愛華は途中で切り上げることが度々で、本人がひどく気にしているので、三期生を始めとしてマネージャーさんも気にしないようにとみんなで言うのだが、本人的にどうにもならないのが分かっているのに落ち込むらしい。
「みんなに置いて行かれるような気がするのかな?」
自分が仕事をしていないときに他の子が仕事をしていると自分も何かをしてないといけないと思って焦ることがあると相談されたことを思い出した。
「そうかもしれないです。愛華は紗良先輩が目標でダンスも歌もすべて完璧でないといけないと思っていて、仕事もみんなと同じかそれ以上できないといけないって思っているんです。誰もそんなことは思っていないんですが、途中で抜けて迷惑をかけているんじゃないかって、勝手に落ち込んで。申し訳ないから収録とかが楽しくなくなってきたとか言うし」
「そうかぁ。私も別に完璧なわけではないけどね。そんなものは存在しないし。ところで樹里ちゃんは愛華とは仲が良いの?」
「私だけじゃなくて愛華はみんなと仲がいいです。私は一人っ子だからすごいかわいい妹ができたみたいでうれしくて。たまに生意気なことを言いますが、それも中学生の子が一生懸命にやっていると思ったら、そうだねぇって受け入れられるんですよね」
「樹里ちゃんは優しいんだね。同じグループのメンバーとしてすごくうれしい」
そう言って自分なりに優しく微笑んで、近いうちに話してみると答えた。
「あっ、あの、いえ、良いんです。とりあえず言いたいことは言いましたので、それじゃあお願いします」
優しく微笑んだつもりなのに、後ずさりしてから、すごい勢いで走って逃げていくのを見るとやっぱり怖がられているのかと思いながら、愛華に直接会うにはどうしたらいいのかと考えていた。
「美香は、グループに入った頃に活動時間で悩んだことがありますか? ほら、中学生とかは遅くまで仕事できないじゃないですか」
「紗良ちゃんはいまさら何言ってるの? そんなことで悩んだことないよ。逆に仕事の関係が忙しくて学校の勉強についていけないってことはあったけど」
紗良ちゃんに勉強を教えてもらったじゃないと言うので、確かにそういうこともあったなと思いだしていた。
「私の記憶にもあまり美香が帰らされたとかって特にないんですよね」
「ああ、あれでしょ愛華ちゃんのこと? 私もテレビで見た」
「するどいですね。美香がああいうことになったのを見たことがなかったけど、私が知らないだけでどうだったかなと思いまして」
「全然なかった。中学の時にそういう途中で帰らないといけないような番組に出たこともなかったし、紗良ちゃんが近くに居たらそれだけでうれしかったから。参考にならなくてごめんね。でも本人に直接聞いてあげた方が良いと思う。きっと喜ぶよ」
「そうですか? うん、そうですね、ありがとう。話しをしてみます」
やっぱり美香の時は、あまりそんなことを気にした記憶がなかったが、その時によっていろいろと変わるものだと思った。
マネージャーの真帆ちゃんに訊いて、私の仕事が重ならない愛華のスケジュールを確認してから収録スタジオにこっそり様子を見に行くことにした。
愛華は樹里ちゃんが心配したような感じもなく、普通にニコニコと収録をしていたけど、みんなにわからない程度に時間を気にしている様子だった。
私は「愛華、集中して頑張れ」と心の中で念じて収録が終わるのを待っていた。
しばらくすると「OKでーす」の声とともに収録が終了してみんなが戻ってきたので、みんなに「お疲れ様」とそっと声をかけると、何でこんなところにと驚いていた。
「一緒に楽屋に行ってもいい?」
そう言うとみんながうんうんとうなずくので一緒について行った。
「さっ、紗良先輩は今日はどうしたんですか?」
「すごい楽しそうだから、どんな現場か見せてもらいたくて。美鈴ちゃんはどうだった? 楽しかった?」
「覚えていてくれているんですか? うれしい。楽しかったです」
「もちろん覚えてるよ。収録楽しそうだったね。声も出てたし」
「ありがとうございます。一緒に写真を撮ってもらっても良いですか?」
「私とで良いの? いいよ、一緒に撮ろう」
みんながもじもじしながら、私もいいですかと言って写真を一緒に撮っていたが、愛華はニコニコしてみんなの写真を撮るところを見ているものの、結局遠巻きにしているだけで寄ってこなかった。
「よし、それじゃあ私も帰るね。そうだ、愛華、もう帰るんでしょ?」
「はい、これから迎えに来てもらいます」
「同じ方向だから、もしよかったら一緒に帰ろうか? 一緒に帰るなら準備できるまで待ってるから」
「えっ? 一緒に?」
本当ですか? と言いながら家に電話しますと言って、愛華のお母さんに私に送ってもらうけど良いかと訊いている。
美鈴ちゃんが私も一緒に帰りたいと言っているのを樹里ちゃんがまあまあと言って止めていた。
「紗良先輩となら一緒に帰ってもいいそうです」
「そう、良かった。それじゃあ準備して。みんなも今度ご飯とか行こうね」
そういうと、みんなが「はーい」といって帰り支度を始めていた。
「紗良先輩、支度できました」
「よし、帰ろう」
そう言って、スタジオの建屋を出てから手でもつなぐ? と訊いてみた。
「お願い……します」
二人で手をつないで駅までゆっくり歩いていく途中で訊いてみる。
「愛華は収録楽しい?」
つなぐ手の力が少しきゅっとなった。
「楽しいです……」
「楽しいならいいけど、何か焦っていたりするの?」
「焦っていませんよ。なんでそんなことを訊くんですか?」
「今日の収録を見ていたから。ずっと時間を気にしてたでしょ」
ちょうど信号が赤になり横断歩道で止まったところで愛華の顔を見てみた。
少し悔しそうな顔を見せて私を見返してくる。
「誰かに言われたんですか? 私のこと」
「みんな愛華のことが好きなんだと思うよ。心配だから愛華と話しをしてほしいって。もちろんそれだけじゃなくて、私もテレビの放送を見たから」
「私は大丈夫です」
「この私に強がりを言っても駄目だよ、わかるから。でも愛華はすごいよね、放送でも気持ちを一切表に出さずにニコニコしていたし」
愛華が驚いた顔でこちらを見ているので、青になったよと言って横断歩道を渡り始めた。
それからは二人とも何も話しをせずに電車に乗り、車窓に映る二人の姿をじっと見ていた。
最寄りの駅について見慣れた街の風景を見ながら話しをした。
「愛華は私が目標だって言っていたよね」
「そうです」
「私はね、完璧でもないし、本当は仏頂面が基本だし、感情もあまり出さないし、ずっとみんなの方がすごいと思ってる」
「そんなことないと思います」
「ありがとう。みんなそうやって言ってくれるけど、私はそう思っているの。それは私の中のことだから簡単には変えられないし誰でもそういうことってあるんじゃないかな」
やさしく愛華の目をのぞき込む。
「でもね、私はどうにもならないことをどうにもならないって嘆いたりはしない。すごいと思ったらそれに近づきたいという努力はする。だけど、その人になりたいわけじゃない」
「どういうことですか?」
「私は、私ができることで最大限の努力をする。愛華は年齢制限で時間切れになったときに悔しい思いをするんでしょ?」
そうですと素直に頷いた。
「でも、年齢制限の時間になった後なんてどうしようもない。気にするのはそこじゃないよ。時間制限いっぱいまで全力で頑張ったかどうか、全力で楽しんだかどうかだと私は思う。途中の時間を気にしているようだとそんなことはできていないんじゃない?」
「でも、でも」
「悔しい気持ちを持つことは悪いことじゃないよ、今度は頑張ろうっていうモチベーションにつながるし。だから、自分でどうにもできないことを悔やむんじゃなくて、できなかったことを悔やんで。今度はもっと積極的にしてみようとか考えないとだめだよ。今日はどうだった?」
「時間を気にしてました」
「愛華はへんな言い訳しないし、素直でいい子だよね。それなら今度は時間なんかを気にせず、全力で楽しむ愛華を見せて、放送を楽しみにしてる」
「頑張ります」
「もしも、自分の気持ちの整理がつかないときがあったら、電話してくれてもいいから」
そう言ってスマホを取り出しで電話番号を交換した。
「忙しいかもって気になるかもしれないから合図を決めておこうか」
「合図?」
「そう、愛華がどうしても自分でどうにもできなくて、私と直接話しをしたい時の二人だけの合図。一回だけワンギリしてからもう一回かけて。そうしたら出られるときは必ず出る。出られなかったら、後から何があっても連絡を取る」
「何かスパイみたいですね」
「そうでしょ、そういう風にしたらいいかなと思って。私が仕事以外で必ず電話にでる人なんてそうそういないんだから、すごくレアよ。あっ、でも愛華は仕事仲間だから普通でも出ちゃうかな」
美香の時も同じようなことを言っていたなと思いながら、ちょっと涙目で嬉しそうに笑っている愛華を見ていた。
「愛華が頑張っている限り、私は愛華を助ける。だから安心して」
愛華の家の前についたときに瞳をみながらそう言ってから、それじゃあねと言うと、寄って行ってくれないんですか? と訊かれたので、今日は遅いから今度ちゃんと招待してくれたらねと言って手を振って別れた。
しばらくして、私が見学した収録の後の放送をお母さんと観ていた。
「あらら、また愛華ちゃんは途中で帰っちゃうのね。でも、この前より雰囲気が明るくなった感じがするわね」
「そうだね。いつもみたいにニコニコしているのは一緒だけど、今日はできることをやり切ったって顔してる」
テレビに映った愛華は、時間など全く気にせず、全力で楽しそうにしていることが分かる。
結局、愛華からは、自分の気持ちの整理がつかないときにと言ったからか、教えた方法で電話がかかってくることは無かったが、普段から現場で会ったときにあーだこーだと私に話しかけて来るようになっていた。
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