ネカフェに住むチャラそうな男について行ったら抱きしめられてプロポーズされました。

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本編

お隣失礼します・1

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 隣なんだから大して中の配置に代わり映えはないけれど、不思議とやはり生活感がある。大きなバックパックが無造作に転がっていて、会社のリュックはドア前に置かれている。ブランケットが雑に広げられていた。

「お、お邪魔します」
 マットレスに膝をついてよじよじパソコンに近づく。ゲームをしていたという通り、キーボード横にコントローラーが置かれていたからそれを手に取った。

「こ、これがゲーム……」
「ゲームもやったことないとか言う?」
 背中から声がして振り向くと案外近くに羽鳥くんがいる。そりゃこれだけの空間で大人二人なら圧迫感があるか、そう思いながらも心の中は実は焦っていた。

(あれ?なんか私、無防備過ぎた?)

「やる?」
「い、いいの?」
 そう言うや否や頭にヘッドフォンをかぶせられて耳に音楽が流れ込んでくる。コントローラーを持つ私の手を羽鳥くんが掴む。熱い手で驚いた。一瞬放しそうになったのを怒られる。

「ちゃんと持って」
「は、はい」
「ここで動くから、歩かせて……進んで?」
「え、待って。そんなすぐ出来ない」
「習うより慣れろだよ」
 言われるがままやってみるけれど全然使いこなせる気がしない。音にドキドキして、操作にアワアワして展開にも全くついていけない。

「きゃあ!」
 思わず大きな声を出して羽鳥くんが吹き出した。

「うるせぇわ」
「も、もういい、もう無理!満足、ありがとう!」
「これで満足?たいしてやってねぇじゃん」
「無理、私にゲームなんか無理。やっぱり無理だった!」
 瑛太の言う通りだった。私なんかに無理だ。自分の時間を満喫できるほど慣れていないし、経験もない。

「はぁ、センスないね。言われた通り……」
「……誰に?」
「え、あ……」
「前園に?」
「……」
「やりたいことやりゃぁいいじゃん。なんで我慢してんの?」
「……」
「なんであいつはお前に我慢させんの?」
 なにを?羽鳥くんは、なんの話をしてるんだろう。

「お前さ、今の状況わかってる?」
「え?」
「俺が手ぇ出してきたらとか思わねぇ?俺がそういうことしない男に見えてんの?」
 どちらかというと、見た目はすぐに手を出してきそうな男だ。噂でもそんな感じだ。でも出してこないし出さないじゃないか。

「出さない、でしょ?私に彼氏いるの知ってるし、人のこと傷つけたりする人じゃ……ない」
 優しいひと。
 愛想ないしたまにこぼす口調も悪いし喋らなかったら最高なのにね、なんて揶揄られてるけど、節々であるの、優しさが。

「彼氏いるのも知ってるし、傷つけてやりたいって思う事もあるよ」
「……」
「彼氏に言えない秘密……作ってやろうか?」
 そう言ってキスしてきた。言えない秘密、キス……。


 (え?私今……羽鳥くんとキスしちゃった?)


 別に彼氏もいたしキスが初めてなわけじゃない。でも、羽鳥くんとキスは初めてする……って当たり前だ。冷静になにを考えているんだ自分は。

 そう思ってもなにから考えればいいのか……ただ私は目の前の羽鳥くんを見つめて固まってしまった。

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