4 / 32
本編
2
しおりを挟む
時計はもう21時を回った。思ったより早く終われた、そう思う時点でもう社畜化している気がするが。そんな私のうしろの羽鳥くんは相変わらず作業を続けている。
「まだ帰らないの?」
もう21時なのに。やっている仕事の納期はまだあるはずだ。
「ん~」
愛想がない、よりかは迷っているみたいな曖昧な返事。電車がなくなるような時間ではないけれど、いつまでも会社に残る時間でもない。
「……そういえば羽鳥くんってどの辺に住んでるの?近いの?」
「……まぁ、そこそこ近いかな」
「電車?バス?」
「歩き」
「え?歩き?」
徒歩圏内なら駅近?会社は駅に近い。そこそこ大きな駅で周辺は飲食街やショップ、カラオケなどの繁華街。マンションやアパートなどの住居よりかは娯楽的要素の方が多い。
「歩いて近いの?どれくらい?」
「駅こえて向こう」
駅向こうにアパートとかあったのかな。あんまり行かないってのもあるけど……。
「アパート?マンション?」
「なに?なんでそんな聞くの」
「気になっちゃって」
「……ネカフェ」
ネカフェ?
羽鳥くんの告げる言葉をバカみたいに繰り返す私。それに羽鳥くんもだんだん怪しんだ表情を見せてきた。
「……」
二人見つめ合って……沈黙。迷った末にもう一度聞いてみた。
「ネカフェって何?」
「え。漫喫」
「まんきつ?」
「うそだろ?マジで聞いてんの?漫画喫茶、ネットカフェ、駅前にあるだろ?」
「……そう、なんだ?行ったことないからわかんないや」
「……」
「漫画喫茶?漫画あるの?そこに住んでるの?住めるの?え?住所とかどうなってるの?会社に申請……」
「申請は実家で出してんだよ。だから家出てること言うなよ?」
それはなんだか秘密の共有……そういうのちょっとワクワクしてしまう。そしてそのワクワクがどんどん膨らんでくるんだ。なんだろう。
「そこ私でも泊まれるの?」
「は?」
「行ってみたい。ついて行っていい?」
「お前は帰れよ。家あんだろうが」
あるけど。
「彼氏とか来ねぇの?週末なのに」
「今日は祇園で接待ってウキウキで行っちゃったよ。いいよね、旅行気分で羨ましい。私なんかどこにも行ってないのに」
「……」
だから余計行きたくなったのかもしれない。
「ねぇ、だめ?一緒に行っちゃダメ?ネカフェ!」
「……」
「内緒にするかわりに、羽鳥くんの住まい見せて?」
こんなズルいこと生まれて初めて言った。人の弱みに付け込むようなこと。それに羽鳥くんも眉間に皺を寄せて躊躇っていたけれど……負けた。
そして私は初めてのインターネットカフェならぬネカフェにやってきた!
「まだ帰らないの?」
もう21時なのに。やっている仕事の納期はまだあるはずだ。
「ん~」
愛想がない、よりかは迷っているみたいな曖昧な返事。電車がなくなるような時間ではないけれど、いつまでも会社に残る時間でもない。
「……そういえば羽鳥くんってどの辺に住んでるの?近いの?」
「……まぁ、そこそこ近いかな」
「電車?バス?」
「歩き」
「え?歩き?」
徒歩圏内なら駅近?会社は駅に近い。そこそこ大きな駅で周辺は飲食街やショップ、カラオケなどの繁華街。マンションやアパートなどの住居よりかは娯楽的要素の方が多い。
「歩いて近いの?どれくらい?」
「駅こえて向こう」
駅向こうにアパートとかあったのかな。あんまり行かないってのもあるけど……。
「アパート?マンション?」
「なに?なんでそんな聞くの」
「気になっちゃって」
「……ネカフェ」
ネカフェ?
羽鳥くんの告げる言葉をバカみたいに繰り返す私。それに羽鳥くんもだんだん怪しんだ表情を見せてきた。
「……」
二人見つめ合って……沈黙。迷った末にもう一度聞いてみた。
「ネカフェって何?」
「え。漫喫」
「まんきつ?」
「うそだろ?マジで聞いてんの?漫画喫茶、ネットカフェ、駅前にあるだろ?」
「……そう、なんだ?行ったことないからわかんないや」
「……」
「漫画喫茶?漫画あるの?そこに住んでるの?住めるの?え?住所とかどうなってるの?会社に申請……」
「申請は実家で出してんだよ。だから家出てること言うなよ?」
それはなんだか秘密の共有……そういうのちょっとワクワクしてしまう。そしてそのワクワクがどんどん膨らんでくるんだ。なんだろう。
「そこ私でも泊まれるの?」
「は?」
「行ってみたい。ついて行っていい?」
「お前は帰れよ。家あんだろうが」
あるけど。
「彼氏とか来ねぇの?週末なのに」
「今日は祇園で接待ってウキウキで行っちゃったよ。いいよね、旅行気分で羨ましい。私なんかどこにも行ってないのに」
「……」
だから余計行きたくなったのかもしれない。
「ねぇ、だめ?一緒に行っちゃダメ?ネカフェ!」
「……」
「内緒にするかわりに、羽鳥くんの住まい見せて?」
こんなズルいこと生まれて初めて言った。人の弱みに付け込むようなこと。それに羽鳥くんも眉間に皺を寄せて躊躇っていたけれど……負けた。
そして私は初めてのインターネットカフェならぬネカフェにやってきた!
35
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる