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本章
好きって何だっけ?
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泣き出した私に声をかけてきたのは須賀さんだった。
「芙美ちゃん」
須賀さんの声が静かに私の名前を呼ぶ。
「ごめんなさい」
「謝るなよ、芙美が悪いこと一個もしてないぞ」
「……ごめんなさ……」
「昨日言ったよね?自分を馬鹿にするのはダメだって。それは俺たちを馬鹿にしてるんだってどうしてわからないの?」
穏やかな口調だけれど怒気を含んだ声、須賀さんのこんな声も初めて聞いた。いつも優しい須賀さんの声とは全然違う。優しい甘い顔が一体どんな声を出しているんだろう、そう思って顔をあげたら私を見つめる須賀さんの瞳は切なげに揺れていた。その隣に座る小鳥遊くんは困った風に眉を寄せて微笑んでいた。
「芙美ぃ、必死で考えてる気持ち、恥ずかしいとか言わないでよ。俺らめっちゃ嬉しいよ?真剣に悩んでくれてるって……それってこの数日俺たちのことで頭いっぱいにしてたってことだろ?それたまんないんだけど」
「小鳥遊くんはっ……何で、今になって……」
「うん?そだよな、今さらって思うよな、ごめん。でも芙美のこと好きだったのはホントだし、高校入学してもどこかで会うチャンス作ろうって思ってた。でもさぁ……俺、親父の仕事の都合で高一の夏前に引っ越しちゃったんだよね。北海道でさぁ~十六だし置いていけないって言われて……まぁしゃーないよね。だから俺三年間こっちに住んでないんだよ」
それは知らなかった。小鳥遊くんは私立の男子校を受験したと聞いていた。男友達なんか一人もいないし、密かな恋心を抱いていた私の本当の気持ちを知っていた友達なんか一人もいない。離れた小鳥遊くんの情報なんか私の耳に入ってくるわけがなかった。
「し、らなかった……です」
「ごめんな、なんか何も言えないまま離れちゃって」
優しい瞳で見つめられて自然と胸が締め付けられると須賀さんが冷たい声で遮ってくる。
「ウザいな、お前。両想い感だすな、気持ち悪い」
「ひどい!両思いだし!」
「ならすれ違わねぇんだよ。縁がねぇの、諦めろよさっさと」
「臣くんひどいわ!ねぇ、芙美聞いた?臣くんほんっと口悪いからさ、やめた方がいいって!」
「あん?お前と同じ扱いするわけねぇだろ、マジ黙れ」
「……」
確かにこんなに口の悪い須賀さんは初めて見て少しびっくりしている。でもそういう小鳥遊くんも昔ともこの間とも全然空気感が違う。私の知っている小鳥遊くんももっと落ち着いて、周りのみんなに合わせてなだめたりフォローしたりするようなどちらかというと大人っぽい人だった。
(須賀さんは大人びた優しいお兄さんって感じだったのに、口の悪い冷めたちょっと悪そうな感じの人になるし、小鳥遊くんは可愛い弟みたいでどちらかというとテキトーな感じの軽そうな人に見える)
今まで知っていた人なはずなのに、私こそがはじめまして状態な気がしてしまう。
あれ?私って、二人をどれだけ知ってなにを好きって思っていたのかな。
(好きって……なんだっけ)
「さて、芙美ちゃん」
須賀さんがドリンクを飲み切って肘をついて私の顔を覗き込むように見つめてくると口を開いた。
「頭で考えてても同じ。習うより慣れろ、だよ。デートしよっか」
「はい?」
「どこ行きます?」
「まずはメシかな、そのあと映画見よっか、今週終わっちゃうレイトショー。見たがってたでしょ?見れた?」
「い、え……結局まだ見れてなくて……」
「じゃあ見とこ。せっかくだし、ね?明日の講義は早い?」
「……いいえ、明日は昼前からの講義なんです」
「ラッキー、じゃあ決まりっすね」
小鳥遊くんも嬉しそうに賛同してもうやはり非現実としか思えない。二人が楽しそうに話して何を食べに行こうか話し合っている。ただ目の前にいるイケメンたちがカッコよすぎるのと、その二人がこれから私と食べに行くのであろう晩ご飯のメニューに言い合っている。
(て、展開にもはやつ、ついていけない……)
晩ご飯を三人で食べてその足で通いなれた映画館まで行く。火曜のレイトショーなんかハッキリ言ってお客さんなんか入らない。しかももう今週終わりの作品、人が入ってもせいぜい金曜か。どちらにしても火曜はいつも全体的に空いた暇な日だ。
「俺だけチケット買うってなんか損した気分」
小鳥遊くんがつまらなさそうにぼやくからその顔が可愛くて思わず吹き出してしまった。
「じゃあ私がドリンク奢ってあげる」
「うそ、優しい芙美~」
「じゃあ俺が芙美ちゃんのドリンク買ってあげる」
「ちょっとぉ、臣くんはそういうことするのズルいんだって」
「洸は売り上げに貢献しろ」
「ひでぇ」
須賀さんと小鳥遊くんの会話はこの数時間で聞いているだけで本当に仲がいいのがよくわかって自然と二人を見ていると笑みが浮かんでしまう。イケメン二人が仲良く戯れている姿……眼福。拝んでしまうくらい目の保養、明日からも頑張れそう、そうこれはもう夢の時間なんだよ。
小鳥遊くんはコーラ、須賀さんはアイスコーヒー、私はレモンティーを買って劇場内へ足を運んだ。案の定、お客さんは一人いるだけでガラガラ。座席指定もない自由席だからどこに座っても平気。先客は前よりの真ん中に陣取っているからわざわざ近寄る必要もない。小鳥遊くんが軽快に階段を昇って結構上まできた。
「この辺?」
「いいね」
須賀さんが同意して小鳥遊くんが先に座ると私にその横に座るように促された。
まだ始まるまで時間もあるから入ってくるかもしれないが多分期待できない。空いているレベルではない、もはや貸切状態。レイトショー見るの久しぶりだな、そんなことを思っていたら小鳥遊くんが言ってきた。
「レイトショーってさ、ワクワクしない?」
言葉通りワクワクした感じの小鳥遊くん、素直な言葉と態度が可愛いなと思いつつその気持ちはわからないでもないから私も頷いた。
「初めて見に来た時は、大人になった気分になったし、なんかいけない事しているみたいな気持ちになった」
フフッとその時のことを思いだして笑ってしまったら須賀さんに笑われた。
「ドキドキしてる?」
薄暗くなっている劇場内で妖艶に微笑む須賀さんの顔に見つめられてその言葉通りの胸の動き。「え……」と、思わず身を引いてしまったら背中に当たる熱、振り向いたら小鳥遊くんがニコッと微笑み返してくる。
「百聞は一見にしかず、だよな?頭で考えてもわかんないよ。ね?芙美」
右に小鳥遊くん、左に須賀さん、私は今イケメンに挟まれて座っていることを改めて実感した。しかもここは後部座席、ほぼ私たち三人だけの特別な空間に感じてしまう。
お客さんは結局一人だけであれから誰も入ってこない、もうこの作品本当にピーク過ぎたんだな……って、今そんなことどーでもいーー!!なんだか急に今の現状にドギマギしてきた。だってなんか二人の様子が距離が、妙に近いから。
「あ、あの……」
「芙美ちゃんはちょっと考えすぎだし、なんでも型に嵌めようとしてるからさ。そんなん俺たちの前ではしなくていいよ」
見つめられてそんなことを言われて言葉を失った。どうして?考えるのが当たり前、考えないとダメじゃない?そう思うのに答えが出せない自分が本当に情けないし説得力もないんだけど。
私は……何に納得したいんだろう。
「ねぇ、芙美ちゃん。俺たちだってさ、いろいろ考えて話したうえで決めたんだよ?こうすることに」
(こうすること?の意味がよくわからない)
劇場の照明がもう一段階暗く落ちた、それは予告が流れ出すタイミングだ。
「芙美ちゃん」
須賀さんの声が静かに私の名前を呼ぶ。
「ごめんなさい」
「謝るなよ、芙美が悪いこと一個もしてないぞ」
「……ごめんなさ……」
「昨日言ったよね?自分を馬鹿にするのはダメだって。それは俺たちを馬鹿にしてるんだってどうしてわからないの?」
穏やかな口調だけれど怒気を含んだ声、須賀さんのこんな声も初めて聞いた。いつも優しい須賀さんの声とは全然違う。優しい甘い顔が一体どんな声を出しているんだろう、そう思って顔をあげたら私を見つめる須賀さんの瞳は切なげに揺れていた。その隣に座る小鳥遊くんは困った風に眉を寄せて微笑んでいた。
「芙美ぃ、必死で考えてる気持ち、恥ずかしいとか言わないでよ。俺らめっちゃ嬉しいよ?真剣に悩んでくれてるって……それってこの数日俺たちのことで頭いっぱいにしてたってことだろ?それたまんないんだけど」
「小鳥遊くんはっ……何で、今になって……」
「うん?そだよな、今さらって思うよな、ごめん。でも芙美のこと好きだったのはホントだし、高校入学してもどこかで会うチャンス作ろうって思ってた。でもさぁ……俺、親父の仕事の都合で高一の夏前に引っ越しちゃったんだよね。北海道でさぁ~十六だし置いていけないって言われて……まぁしゃーないよね。だから俺三年間こっちに住んでないんだよ」
それは知らなかった。小鳥遊くんは私立の男子校を受験したと聞いていた。男友達なんか一人もいないし、密かな恋心を抱いていた私の本当の気持ちを知っていた友達なんか一人もいない。離れた小鳥遊くんの情報なんか私の耳に入ってくるわけがなかった。
「し、らなかった……です」
「ごめんな、なんか何も言えないまま離れちゃって」
優しい瞳で見つめられて自然と胸が締め付けられると須賀さんが冷たい声で遮ってくる。
「ウザいな、お前。両想い感だすな、気持ち悪い」
「ひどい!両思いだし!」
「ならすれ違わねぇんだよ。縁がねぇの、諦めろよさっさと」
「臣くんひどいわ!ねぇ、芙美聞いた?臣くんほんっと口悪いからさ、やめた方がいいって!」
「あん?お前と同じ扱いするわけねぇだろ、マジ黙れ」
「……」
確かにこんなに口の悪い須賀さんは初めて見て少しびっくりしている。でもそういう小鳥遊くんも昔ともこの間とも全然空気感が違う。私の知っている小鳥遊くんももっと落ち着いて、周りのみんなに合わせてなだめたりフォローしたりするようなどちらかというと大人っぽい人だった。
(須賀さんは大人びた優しいお兄さんって感じだったのに、口の悪い冷めたちょっと悪そうな感じの人になるし、小鳥遊くんは可愛い弟みたいでどちらかというとテキトーな感じの軽そうな人に見える)
今まで知っていた人なはずなのに、私こそがはじめまして状態な気がしてしまう。
あれ?私って、二人をどれだけ知ってなにを好きって思っていたのかな。
(好きって……なんだっけ)
「さて、芙美ちゃん」
須賀さんがドリンクを飲み切って肘をついて私の顔を覗き込むように見つめてくると口を開いた。
「頭で考えてても同じ。習うより慣れろ、だよ。デートしよっか」
「はい?」
「どこ行きます?」
「まずはメシかな、そのあと映画見よっか、今週終わっちゃうレイトショー。見たがってたでしょ?見れた?」
「い、え……結局まだ見れてなくて……」
「じゃあ見とこ。せっかくだし、ね?明日の講義は早い?」
「……いいえ、明日は昼前からの講義なんです」
「ラッキー、じゃあ決まりっすね」
小鳥遊くんも嬉しそうに賛同してもうやはり非現実としか思えない。二人が楽しそうに話して何を食べに行こうか話し合っている。ただ目の前にいるイケメンたちがカッコよすぎるのと、その二人がこれから私と食べに行くのであろう晩ご飯のメニューに言い合っている。
(て、展開にもはやつ、ついていけない……)
晩ご飯を三人で食べてその足で通いなれた映画館まで行く。火曜のレイトショーなんかハッキリ言ってお客さんなんか入らない。しかももう今週終わりの作品、人が入ってもせいぜい金曜か。どちらにしても火曜はいつも全体的に空いた暇な日だ。
「俺だけチケット買うってなんか損した気分」
小鳥遊くんがつまらなさそうにぼやくからその顔が可愛くて思わず吹き出してしまった。
「じゃあ私がドリンク奢ってあげる」
「うそ、優しい芙美~」
「じゃあ俺が芙美ちゃんのドリンク買ってあげる」
「ちょっとぉ、臣くんはそういうことするのズルいんだって」
「洸は売り上げに貢献しろ」
「ひでぇ」
須賀さんと小鳥遊くんの会話はこの数時間で聞いているだけで本当に仲がいいのがよくわかって自然と二人を見ていると笑みが浮かんでしまう。イケメン二人が仲良く戯れている姿……眼福。拝んでしまうくらい目の保養、明日からも頑張れそう、そうこれはもう夢の時間なんだよ。
小鳥遊くんはコーラ、須賀さんはアイスコーヒー、私はレモンティーを買って劇場内へ足を運んだ。案の定、お客さんは一人いるだけでガラガラ。座席指定もない自由席だからどこに座っても平気。先客は前よりの真ん中に陣取っているからわざわざ近寄る必要もない。小鳥遊くんが軽快に階段を昇って結構上まできた。
「この辺?」
「いいね」
須賀さんが同意して小鳥遊くんが先に座ると私にその横に座るように促された。
まだ始まるまで時間もあるから入ってくるかもしれないが多分期待できない。空いているレベルではない、もはや貸切状態。レイトショー見るの久しぶりだな、そんなことを思っていたら小鳥遊くんが言ってきた。
「レイトショーってさ、ワクワクしない?」
言葉通りワクワクした感じの小鳥遊くん、素直な言葉と態度が可愛いなと思いつつその気持ちはわからないでもないから私も頷いた。
「初めて見に来た時は、大人になった気分になったし、なんかいけない事しているみたいな気持ちになった」
フフッとその時のことを思いだして笑ってしまったら須賀さんに笑われた。
「ドキドキしてる?」
薄暗くなっている劇場内で妖艶に微笑む須賀さんの顔に見つめられてその言葉通りの胸の動き。「え……」と、思わず身を引いてしまったら背中に当たる熱、振り向いたら小鳥遊くんがニコッと微笑み返してくる。
「百聞は一見にしかず、だよな?頭で考えてもわかんないよ。ね?芙美」
右に小鳥遊くん、左に須賀さん、私は今イケメンに挟まれて座っていることを改めて実感した。しかもここは後部座席、ほぼ私たち三人だけの特別な空間に感じてしまう。
お客さんは結局一人だけであれから誰も入ってこない、もうこの作品本当にピーク過ぎたんだな……って、今そんなことどーでもいーー!!なんだか急に今の現状にドギマギしてきた。だってなんか二人の様子が距離が、妙に近いから。
「あ、あの……」
「芙美ちゃんはちょっと考えすぎだし、なんでも型に嵌めようとしてるからさ。そんなん俺たちの前ではしなくていいよ」
見つめられてそんなことを言われて言葉を失った。どうして?考えるのが当たり前、考えないとダメじゃない?そう思うのに答えが出せない自分が本当に情けないし説得力もないんだけど。
私は……何に納得したいんだろう。
「ねぇ、芙美ちゃん。俺たちだってさ、いろいろ考えて話したうえで決めたんだよ?こうすることに」
(こうすること?の意味がよくわからない)
劇場の照明がもう一段階暗く落ちた、それは予告が流れ出すタイミングだ。
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