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本章

地獄の三者面談

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【店着いたから先に入って待ってるね】



 須賀さんからのラインに急ぎ足で待ち合わせ場所まで向かった。



 結局あの日、いつもより混雑してバタバタとバイトが終わってろくな話が出来なかった。その夜須賀さんからラインが入って一度ゆっくりお茶しようと誘われた。

 翌日二人ともバイトが入ってなかったため講義が終わったら駅前のカフェで待ち合わせした。



「遅くなってすみません」

「全然、言うほど待ってないよ。走ってきたの?いいのに、なんかごめんね、急かせて」

 走ってきたことで逆に気を遣わせてしまって失敗した。なんだか須賀さんの前ではいつもいいところを見せれていない気がする。



(なんかどんくさいっていうか、まぬけっていうか……)



 須賀さんは私なんかの何がいいんだろう、好きになってもらう要素を全く感じないんだけどな、私。



「早速だけど。芙美ちゃんが俺とのことに躊躇ってる理由を教えてくれる?」

 注文をすましたらいきなり本題に入られて身構えた。その話をするつもりだけれどいざ口にするとなると緊張が半端なかった。



(えっと、えっと……どう言えばいいんだろう)



「す、須賀さんに付き合おうなんて言われて正直驚いてます、驚きが勝って信じられなくて。今でもやっぱり信じられないくらいで……ごめんなさい」

「うん、それはもういい、わかった。信じられないなら信じてもらうしかないからそこは俺の問題かな。芙美ちゃんの悩みの元はなにかな」

「……須賀さんのこと……す、き……だなって思ってました」

 緊張で顔が見れない、俯いたまま胸の中にある気持ちをゆっくりと吐き出したがだんだん頭が真っ白になるのを自分自身で感じる。



「かっこいいな、から一緒にバイトして素敵だな、優しいなって憧れがだんだん好きかもしれないって……会えたら嬉しいし、一緒のシフトだと舞い上がります。でもやっぱり須賀さんみたいな素敵な人好きなんて言うのも気が引けて……憧れて近くで見てるだけで満足してた、だから付き合おうなんて言われてビックリしたけど嬉しかったのは本当です、まさかって思ったけど……嬉しかった」



(でも――)



「須賀さんにそんな言葉を言ってもらったすぐ後に、その……告白されたんです。昔……好きだった人、中学の時の憧れてた人から」

「へぇ」

 須賀さんの発した声色では感情がいまいち読めない。

 本当に淡々とした「へぇ」で、思わず視線をあげると、須賀さん自身の表情も淡々としている。



「卒業するときに告白しようって思ってたけど叶わなくて告白する前に振られたんです……その人と偶然再会して、その時に告白してもらえました。振られたんだと、思ってた。でも、すれ違ってたんだってわかって……あの頃の気持ちが舞い戻ってきちゃって……終わった恋なのに、考えちゃうんです、その人のことも」

 ここまで言葉にして自分がなんて女なんだと血の気が引き始めた。



(おいおい、明け透けに言いすぎたしなに!?めちゃくちゃかっこいい美男子に告白されといて別の男の子に好きって言われてそっちにもときめいてるみたいな……何様なんだ、わたしは!!)



「すみません!!自分でドン引きです、もう、でもこんなこと人生で初めてで、どう考えて何を思えばいいのか全く分からなくて……」

 私なんかが悩むにはおこがまし過ぎる理由だ。



 イケメン二人に言い寄られてどっちが好きかわからないとか!舐めている!!舐めまくっている、むしろ喧嘩売ってる!世の女子を敵に回した!今私は!!!!



「こんな女です、やっぱり私なんか……「なるほど」

 須賀さんがニコッと微笑んでいる、その笑顔はいたって朗らかで楽しそうな表情だ。



「な、なるほど、とは」

「その相手、ここに呼べない?」

「――は?」

「いや、だから。その芙美ちゃんを好きって言ってる中学?かの憧れの君だよ」





(ななな、なぜそんな地獄絵図がみたいのか)





「なぜ……呼ぶのですか?」

「男同士が話せば解決するかもしれないよね」

 そうだろうか。そうなのか?そんなことあるのだろうか、そもそも何をお話になるのだろうか。そこに解決させるとか言うのがなんだかもう意味不明で……解決?解決って何?これって誰の問題?私じゃないっけ?いや、私の問題だよね?私だよ!私の問題じゃないかなぁ?!!

 なのに、初見の男性二人が、一応好きだと告げた女をめぐって話し合い?



(どんな話し合い!!一体なんの話し合い?!)



「りゅ……流血事件とかになりませんか?」

「相手ってそんな喧嘩っ早い系なの?」

「そんな人ではありません」

「じゃあ問題ないね。俺も人殴るのも殴られるのも嫌、暴力反対~」

 ニコニコした顔と言葉がいまいち合っていない。



「いいから。連絡してよ」

 須賀さんの声がもう凛として一切の言い分も聞いてくれそうになかったから説得しようにも言葉が出てこなかった。





 そして、ダメもとで送った小鳥遊くんへの誘いのライン。

 予定があるから行けない、みたいな返事を期待したのにすんなり了承されて行くと返事が来てしまった。



(やさしい~こんな突然の誘いになんの文句もなく即レス、いいよ返事っていい人すぎる~でも今日だけは無理って言ってほしかったぁぁ~~)



 心の中で数ミリくらいの感謝しか持てない自分が嫌な奴だと思ってまた泣きそうになる。





 ただいま絶賛地獄の待機時間。



「芙美ちゃん、顔色悪いよ?大丈夫?」

 冷静な須賀さんが逆に怖い。時間が経つほど胃がキリキリ痛み出してだんだんパニック状態になってきた。想像するほどにいいイメージがつけられなくて想像するほどなんかとんでもない現実が訪れそうでもうぶっちゃけ吐きそうになっている私。



「あの、やっぱりお二人が会うことが良い状況とは思えなくてですね……もとはといえばハッキリしない私が悪いわけで……」

「うん、だから冷静に話せる男同士で答えを出してあげるから心配しなくていいよ。パフェでも頼む?」

「いえ、お気持ちだけで……」

 とてもじゃないが痛む胃に刺激を与えられる気がしなかった。



 今から須賀さんと小鳥遊くんが会う?本当に?

 そんなカオスな状況、いつ想定できただろう。ここにイケメン二人が並ぶ!?見惚れるな、その光景――じゃなくて。

 しかもなに、私をその、す、す、好きとかおっしゃってくれている。



 もはや奇跡的現象、これはもう夢のような話だ、いや夢であってほしい、いっそ夢であれ。



【着いた】

 携帯が震えて液晶画面に通知が表示される。それに須賀さんも気づいた。



「来たっぽい?」

「はい……分かるかな……」

 そっと腰をあげて入り口付近を覗いたらキョロキョロしている小鳥遊くんがいた。今日も安定にかっこいい、なんならこの間よりもかっこいい気がする。どうしよう、脳みそがイカレ始めている。



「あ、芙美ー」

 気づいた彼がタタッと席まで駆け寄ってきて私の隣に座ろうとした時だ。



「なんでそっちなんだよ、こっち座れ」



(え)



「えー、ダメっすか?」

「ダメだろ、お前が座るなら俺が座るよ、どけ」

「それはダメ、じゃあしゃーないっすね」

 そう言って須賀さんの横にスルッと座る小鳥遊くん。



「あ、の……」

 意味がよくわからない。初対面の男子はこんなナチュラルに会話ができるものなんだろうか。



「ビックリした?」

 須賀さんがニヤッと笑って言う。その笑顔はとてもとても楽しそうな微笑みでした。

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