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afterstory

それから…~不破side~

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 あかりに好意を持ちだして意識するようになってからそれに恋だ愛だと名前をつけれない状態が長く続いていて。それでもやっぱりあかりに対して特別な感情を持っているのは自覚していた。

 可愛くて。

 オフィスで過ごすたび、部下のくせに可愛い顔して話しかけてきて、上司としての俺を全面的に信用している。それが嬉しい反面複雑だったが、この信頼を自分で蹴落とす気にはなれなかった。

 上司と部下、言葉にしたらそれだけの関係だけど、それだけの名前にはいろんな意味が込められている。

 縛り、境界線、絶対的な壁……踏み越えちゃいけないものがありすぎて恋愛になんか発展できるわけがない。

 俺から近づけばパワハラ?
 私情で声をかけたらセクハラ?

 簡単にコンプライアンスに引っかかってしまう恐ろしい社会だ。この役職がなければあかりとの距離はまた変わったのかもしれないな、そんなどうでもいいことを考えてしまったのは部下の本田のせいだ。

 後輩としてあかりの下に付かせたけれど本音はあかりに面倒なんか見させたくなかった。井原がもっとキャパ広くて手が空いてたら絶対あいつに指導役をやらせていたのに。

「部長ぉ~無理です~!これ以上仕事抱えたら私パンクしますからぁ!」
 甘え上手で声のデカい井原は周りの様子とタイミングを上手に見てそんな声を簡単に上げてくる。嘘をついているわけじゃないが、やってみます精神が低い。

(仕事を振ってないわけじゃないから仕方ないけどさぁ……タイミングな)

 本田の指導係が誰になるか、その空気をいち早く察知した井原は聞く前に手を挙げて離脱宣言。それを見かねたあかりも自ら手を挙げて志願してきた。

「私はまだ余裕がありますから指導係引き受けてもいいですよ?育ってくれたら私の仕事ちょっと上手に振ろうかな」
 そんな風に茶目っ気含んで言ってくるから心中では面白くないもののやっぱり可愛くて。

 部下としてもあかりは可愛いヤツだった。

 育ててやりたい気持ちもあったし、俺のそばで育てばいいな、そんな気持ちで見守っていたのもある。

「じゃあ天野に任せる、またなんかあったら相談して?仕事の割振り方を見直してもいいし」
「現状は大丈夫です、やれる範囲やってみて無理そうだったら遠慮なく相談します」
 笑顔で返してきたあかりが当然相談なんかしてくるわけがなくて。しっかりと本田の先輩として指導役を引き受けていた。

 本田も要領の良い方で、悪く言えば人を見て仕事の態度を変えるヤツ。そういう意味では抜け目がないというか、腹黒い。だから本田を見るようになってからよりあかりを指導係に充てたのは後悔していた。

(近いんだよな、あいつ)

 物理的距離が軽くて近い。そんな距離感で俺はあかりと話なんかしたことねぇぞ。そんなガキみたいな愚痴を胸の中でこぼしたりして。

 上司として部下たちのそんな無防備な姿を見せられるのは正直しんどかった。自分には越えられない壁をあっさりと越える本田が羨ましかった。


「いつからすか」
 定時後のカフェブースでコーヒーを淹れていたら本田が寄ってきて声をかけてきた。ノー残デイのせいか人ももうまばらだ。あかりももう帰っている。そんな日に本田が残っているのも珍しいがこの声かけからしてわざとか、と思う。

 先日公表したあかりとの交際よりかは結婚宣言。オフィスのみんなはかなり驚いていた。本田の顔は静かに固まっていたな。

「そんな前じゃないよ」
「は?それでもう結婚なんすか?なにそれ」
 直球で逆に気持ちいい。

「やりにくい?」
「まぁ……やりにくいっつーか。おもしろくないすね」
 やっぱり直球で気持ちいい。

「散々天野に近づいてただろ、俺だっておもしろくなかったよ」
「……不破部長の方が先に好きってことですか?」
「そうだね」
 あかりが実は気づかないうちに前から自分を好きだったんだろうとつぶやいていたけれどまぁ俺の方が先だろう。あきらかに俺の方がしつこい。

「まじかー。部長相手じゃちょっと太刀打ちできないなぁ」
「なんだよ、太刀打ちって」
「まともに行って勝てそうにないのに時間さえ負けてるなら完敗っつーか……まぁ諦めてますけどね」
「振られてんだろ、しっかり諦めろよ」
 追加で釘まで刺しておく。

「感じ悪いっすね……」
「お前にいい顔する気ないよ」
「泣かしてたくせに」
「……」
「やった、黙らせられた~」

(腹立つ)

「泣いてる顔……不謹慎だけど可愛かったっす。あれは不破部長だからさせれた顔ってことですよね」
 あかりが本田の前で泣いたことは知らない。

「もう泣かせないでくださいよ。あれ見るのはいろんな意味でごめんです」
「ご忠告どうも」
「お幸せに」
「どうも」
「か~余裕な感じ、むかつく~」
 どこがだよ。全然余裕じゃない。
 その夜俺はあかりの部屋までおしかけて問い詰めていたんだからな。


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