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本章
Episode28/約束
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「わぁぁ!これ、食べていいんですか?」
運ばれてきた料理にあかりはまた目を輝かせている。部屋で取ろう、の意味は分かっているようでわかっていなかった。まさかインルームダイニングを取ってくれるとは。
「ここは親子丼が有名なんだって」
一度網焼きにして香ばしくした大きめの鶏肉と、こだわりの特選ハーブ卵を三個を贅沢に使用し、絶妙な火加減で仕上げたらしい親子丼はふわふわで濃厚だった。
「私、親子丼大好きなんです」
「そりゃよかったな」
美味しそうにほおばるあかりを見つめる不破の瞳は優しい、その瞳に見つめられてあかりは照れることしかできない。お腹が空いていたのと美味しさであっという間に平らげたあかりは不破にお礼を言った。
「ごちそうさまでした。部屋も……スイートルームなんか初めてです……ありがとうございます」
「最初で最後な」
不破はそう笑った。そのまま手を握ってくる。
「子供をつくる気は本気でまだある?」
「――え?」
いきなりの質問に一瞬面食らった。けれど心の奥にある気持ちに嘘はつけない、あかりは正直に頷いた。
「……は、い」
「あかりが欲しがってる血の繋がり、それを手に入れるなら子どもしかない。俺はその強い繋がりをあかりとは持てないよ、どうしたって」
少し悔しそうに不破が呟くからあかりは思わず掴まれた手を握り返した。
「私は――」
「でも俺があかりの家族になることはできるよ」
(――え)
「俺があかりの家族になる、それはダメ?」
「……えっと、それは……」
不破の言葉にまだ脳内が追い付いて行かない。言語の意味を理解する器官が少しボケている。うまくその言葉を意味に変換できない。
「結婚しないか?」
あかりは息を呑んだ。
不破がふざけて言っているとは思えない、とても真剣な瞳だった。だから余計衝撃を受けている。
「あかりと結婚したい。結婚して、お前に俺の子供を産んでほしい」
(そんな、こと……)
「結婚願望ないって言ってたけど、考えろ。子供が欲しいならなおさら。俺との子供を産むなら余計に。俺の子供が欲しいなら結婚を視野に入れろ」
「それは……樹さんは、困らないんですか?」
「俺が望んでる、あかりが頷いてくれたらそれで終わる話だよ」
(うそ――)
あかりは戸惑いを隠せない。
結婚、それは自分にとっては程遠くどこか夢物語のように現実味がない話だったからだ。
「結婚って……どういうものか今ひとつ理解できてません」
「そうだな、子供が生まれたら当然俺とあかりの嫡子として認められる、夫婦関係を認められれば社会的にいろんな制度も受けられる、お互いが病気になったりなにかあったとき誰よりもそばにいれるし同意書にサインも出来る、それが家族」
――家族。
あかりには縁が薄かった言葉だ。それに対して得られるものをあまり意識して暮らしたことがない。
「同意書……?」
「俺がもし病気になったり、手術するってなったときお前がサインする。死んだら遺体を引き取れる」
「やだ、死なないでください」
「例題の話だろ。いつかは死ぬよ、あかりが先に死ぬかも、その時は俺が引き取る。恋人や事実婚ではそれが出来ないよな」
繋がることの意味、それがきっと重荷になる人も多い。でも、それがあるだけで予期せぬ現実にぶつかったとき後悔しなくてすむのかもしれない。
目に見えない未来のために繋がる、子供も同じだ。
子どもの未来のために、不破と繋がっていたい、不破とずっと一緒にいたいから、不確かなものを確実にしたい。
「――樹さん、結婚考えてないって」
「前はな。考えた結果だよ。あかりとなら考えるし、考えられた」
真っ直ぐ言われて落ち着いていた胸がドクドクと踊り始めた。
「結婚したら……樹さんと一緒にいれる?」
「当然」
「子供が出来たら……一緒に育てられるの?」
「なんでも一緒に決めて、一緒に悩んで、大事に育てよう」
そんな言葉を甘い表情で言う。あかりの目に涙が滲み始める。目の前にいる不破がだんだん歪んでくる。
「結婚しよう、あかり」
繋いでいた手を不破がぎゅっと掴み直してあかりを見つめる。その目をあかりも見つめ返して涙が零れ落ちた。その零れ落ちる涙を不破の指がそっと拭いながら言うのだ。
「俺の家族になってよ」
不破のプロポーズはあかりの心に突き刺さる。
欲しかったもの。
誰かと繋がりたくて、欲しくてほしくてたまらなくて、何度も諦めようと思っていた。
「あかり?返事してよ」
「私――」
「望んでいいんですか?樹さんの傍にいたいって、樹さんの子供を産んでも離れなくてもいいって」
「むしろ離れるな」
そんな言葉はずるい、あかりの心を鷲掴む。
「私を――樹さんの家族にしてください……」
涙と一緒に返事した。
身体の底から湧いてくる気持ちと一緒にあかりは不破の手を握り返した。
運ばれてきた料理にあかりはまた目を輝かせている。部屋で取ろう、の意味は分かっているようでわかっていなかった。まさかインルームダイニングを取ってくれるとは。
「ここは親子丼が有名なんだって」
一度網焼きにして香ばしくした大きめの鶏肉と、こだわりの特選ハーブ卵を三個を贅沢に使用し、絶妙な火加減で仕上げたらしい親子丼はふわふわで濃厚だった。
「私、親子丼大好きなんです」
「そりゃよかったな」
美味しそうにほおばるあかりを見つめる不破の瞳は優しい、その瞳に見つめられてあかりは照れることしかできない。お腹が空いていたのと美味しさであっという間に平らげたあかりは不破にお礼を言った。
「ごちそうさまでした。部屋も……スイートルームなんか初めてです……ありがとうございます」
「最初で最後な」
不破はそう笑った。そのまま手を握ってくる。
「子供をつくる気は本気でまだある?」
「――え?」
いきなりの質問に一瞬面食らった。けれど心の奥にある気持ちに嘘はつけない、あかりは正直に頷いた。
「……は、い」
「あかりが欲しがってる血の繋がり、それを手に入れるなら子どもしかない。俺はその強い繋がりをあかりとは持てないよ、どうしたって」
少し悔しそうに不破が呟くからあかりは思わず掴まれた手を握り返した。
「私は――」
「でも俺があかりの家族になることはできるよ」
(――え)
「俺があかりの家族になる、それはダメ?」
「……えっと、それは……」
不破の言葉にまだ脳内が追い付いて行かない。言語の意味を理解する器官が少しボケている。うまくその言葉を意味に変換できない。
「結婚しないか?」
あかりは息を呑んだ。
不破がふざけて言っているとは思えない、とても真剣な瞳だった。だから余計衝撃を受けている。
「あかりと結婚したい。結婚して、お前に俺の子供を産んでほしい」
(そんな、こと……)
「結婚願望ないって言ってたけど、考えろ。子供が欲しいならなおさら。俺との子供を産むなら余計に。俺の子供が欲しいなら結婚を視野に入れろ」
「それは……樹さんは、困らないんですか?」
「俺が望んでる、あかりが頷いてくれたらそれで終わる話だよ」
(うそ――)
あかりは戸惑いを隠せない。
結婚、それは自分にとっては程遠くどこか夢物語のように現実味がない話だったからだ。
「結婚って……どういうものか今ひとつ理解できてません」
「そうだな、子供が生まれたら当然俺とあかりの嫡子として認められる、夫婦関係を認められれば社会的にいろんな制度も受けられる、お互いが病気になったりなにかあったとき誰よりもそばにいれるし同意書にサインも出来る、それが家族」
――家族。
あかりには縁が薄かった言葉だ。それに対して得られるものをあまり意識して暮らしたことがない。
「同意書……?」
「俺がもし病気になったり、手術するってなったときお前がサインする。死んだら遺体を引き取れる」
「やだ、死なないでください」
「例題の話だろ。いつかは死ぬよ、あかりが先に死ぬかも、その時は俺が引き取る。恋人や事実婚ではそれが出来ないよな」
繋がることの意味、それがきっと重荷になる人も多い。でも、それがあるだけで予期せぬ現実にぶつかったとき後悔しなくてすむのかもしれない。
目に見えない未来のために繋がる、子供も同じだ。
子どもの未来のために、不破と繋がっていたい、不破とずっと一緒にいたいから、不確かなものを確実にしたい。
「――樹さん、結婚考えてないって」
「前はな。考えた結果だよ。あかりとなら考えるし、考えられた」
真っ直ぐ言われて落ち着いていた胸がドクドクと踊り始めた。
「結婚したら……樹さんと一緒にいれる?」
「当然」
「子供が出来たら……一緒に育てられるの?」
「なんでも一緒に決めて、一緒に悩んで、大事に育てよう」
そんな言葉を甘い表情で言う。あかりの目に涙が滲み始める。目の前にいる不破がだんだん歪んでくる。
「結婚しよう、あかり」
繋いでいた手を不破がぎゅっと掴み直してあかりを見つめる。その目をあかりも見つめ返して涙が零れ落ちた。その零れ落ちる涙を不破の指がそっと拭いながら言うのだ。
「俺の家族になってよ」
不破のプロポーズはあかりの心に突き刺さる。
欲しかったもの。
誰かと繋がりたくて、欲しくてほしくてたまらなくて、何度も諦めようと思っていた。
「あかり?返事してよ」
「私――」
「望んでいいんですか?樹さんの傍にいたいって、樹さんの子供を産んでも離れなくてもいいって」
「むしろ離れるな」
そんな言葉はずるい、あかりの心を鷲掴む。
「私を――樹さんの家族にしてください……」
涙と一緒に返事した。
身体の底から湧いてくる気持ちと一緒にあかりは不破の手を握り返した。
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