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本章
Episode10/慢心
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「新藤は年上派らしいっす」
聞いてもいない情報を前触れもなく話し始めた。しかも午後からの天気を告げるみたいに本田の口調はとても軽い。
「へぇ……そう」
他に言いようがない、あかりはとりあえず愛想のように返答した。それに本田はニヤッと笑ってあかりの顔を覗き込んでくる。
「天野さんは?」
「なにが?」
「天野さんも年上好きかな?って」
「好き、かなぁ……落ち着いてるよね、年上は」
「ガキみたいなおっさん、山ほどいますけど」
「落ち着いた年下もいるしね。年齢はどこまでいっても表示だよね」
ただその表示こそ現実だ。だからこそあかりは自分自身と未来を見つめる羽目になっている。
「若い時間って取り戻せないもんね。羨ましい」
あかりは思わずこぼしてしまった。自分があと五年ほど若ければ今とは違う未来があったかもしれない。
自分が選んできた人生なのに後悔するのはおかしな話だけれど。
それでも今だからある時間もある、と心の中で呟く。
今の年齢だからこそ、不破との関係が始まった。今だから、不破と過ごす時間があるのだと……自分の中で納得させたいところがあった。
「俺も年上派かなぁ」
「……へぇ、そうだったんだ」
スルーしようと思ったが思わずあかりは返してしまった。本田は若いキャピキャピした感じの子が好みなのだと思い込んでいたからだ。
「なんでそんな意外そうなんですか」
「意外だよ。若い子が好きそうだもん」
「若い子嫌いじゃないですよ?もちろん。刺激的っていえばそうかな」
「刺激……」
「振り回されるみたいな?」
それこそ年齢ではなくタイプではないのか、と思うがとりあえず黙って聞いてみる。
「ワガママも、若い子だと可愛いって聞けたりするもんじゃないですか?甘えてんだなぁ、みたいな」
「……まぁね」
歳そこそこの女のワガママは可愛いとは言いにくいかもしれない。自分が男性にワガママを言う姿を想像してあかりはゾッとした。
(いや、待って。私のこれって不破さんにしたらとんでもないワガママじゃない?可愛いとはとても思えない重いワガママ……)
今さらのことなのにあかりは冷静に考えてしまう。
付き合っていたって重いと感じるワガママがあるのに、付き合いもなにもない、ただの上司と部下の関係、そこから子供を産みたいので精子を下さい、ぶっ飛んでいる。
「新藤はわかりやすいっすよね」
「――え?」
思わず本田を振り返った、それで驚いた。思っていたより本田の距離が近かったからだ。
「……前から思っててね。言おうと思いながら黙ってたけど……近いよ」
「俺も分かりやすくないですかね?」
「……」
「今度二人で飯行きません?」
「……二人では、行かない」
「……チェッ」
どこまで本気で言っているのか。あかりは半ば呆れ気味にため息をこぼして拗ねた風な本田の肩を叩いた。
「本田くん、あんまり歳上からかわないように」
独身のアラサーにふざけた冗談は夜道刺されても文句は言えない。
「歳上なんだからからかわないでしょ。天野さんこそ、年下舐めてたらダメですよ?」
「……」
「最近の天野さん……なんかやたら可愛いんですよね?意識しちゃう感じ?自覚してくださいね」
本田にそんな事を言われて不覚にもあかりは頬を染めてしまった。
異性に意識されるようになった理由はやはりセックスが原因かもしれない、あかりはそんなことを考えては何度か体の奥を火照らせた。
そんなことを思って自分に勘違いしかけているところに携帯が震えた。携帯を見て身体がとたんに疼く。今も頭の中にいた相手が夜の誘いの連絡を入れてきた。
====
「はぁ、ん、あ……そんな、されたらイッちゃうっ」
「イっていいよ?」
「あ、あ、い、樹さんはっ?」
「んー……俺はもう少しあかりの中にいたいかな」
まだ余裕そうな不破をあかりは狂いかけている思考をなんとか保ちながら見つめ、なけなしの理性と闘っている。
自分だって不破を自分くらい感じさせたい、もっとと求めさせられるほど夢中にさせられたら、そう思いだしている。
「ぁ…い、つきさん」
「……ん?」
声が甘い、熱を孕む声はオフィスでは聞けない甘さを含んでいる、それにまたあかりの膣内は震えて不破を無意識に締め付けていた。
「……っ、急にしめんなよ」
「気持ち、よかった?」
「……いいよ?はぁ……イきそうになる」
「ぇ……」
「なんで?動いてないのにこんな気持ちいいってヤバいでしょ。気持ちいい、すごく。だから必死で耐えてる」
「……」
「はぁ……なに?なんでそんな驚いた顔すんの?」
「だって……」
あかりは自分の身体が不破を感じさせれていたとあまり思っていなかった。何回か重ねた身体、初めての時からそうだ。いつも不破は落ち着いて余裕に見えた。自分を気持ちよく感じさせてくれる、胸をときめかせるほど優しく包んでくれる、そして……錯覚させるほど酔わされている、そう思っていた。
「私が……樹さんを気持ちよくさせれてるなんて……思わなくて」
「なんでだよ。初めてした時から余裕ないよ、俺」
「え?ん、あっ!」
「どこに余裕感じたのか教えてほしいわっ」
「んあっ!待っ、ゃあっ!そんな、奥っ……」
動かずにいた不破がいきなり奥を押し付ける様に腰を動かし出した。こんな風に強く少しだけ乱暴な不破は初めてかもしれない。あかりは色んな意味で戸惑って身体だけじゃない、気持ちも追いつけられずにいる。
「ん、あっ、ぁ……はぁ、んんっ、待って、ぶちょ……」
「あれ?部長って呼ぶの?今、仕事じゃないよな?なにしてる時?」
「ん、んっ、ぁっ……や、あっそれっ、待ってっ……」
「あかりー、二人の時は名前で呼べって言った」
責めるみたいに不破が腰を押し付けてくる。口調は優しい、不破の声は色気は含むものの優しさは感じる、それでも言う言葉はやっぱり責めた様に言ってくる。
そんな不破を見るのも初めてかもしれない、それにあかりは無駄にドキドキした。
好意にも、初めて見る少し興奮したような不破にも。
「あ、ん……い、いつきさんっ……」
「ん……ちゃんと、名前で呼んで?」
唇が触れそうな距離だ。
囁かれた声から熱い吐息がこぼれてそれが絡み合う。お互いの呼吸が重なり合って混ざり合ったら余計に熱さが増した。
「あーっ!や、ぁっ……!」
「……っ、あかり……そんな、締められたらさ……イッちゃうよ」
そう言って不破が抵抗しようとする、間違いなく気持ちよさそうにしているのに、そうなることを拒む様に。
「だ…ダメ、なの?」
自分ばかり感じている、さっきから何度もイかされて震えている。不破にだって感じて欲しい、達して欲しい、自分を……求める姿を受け止めさせてくれと思う。
「樹さんもっ……イってよぉっ」
思わず抱きついた。
足を上げて絡める様に腰を自分から押し付けた。そうすることで不破ともっと奥で繋がれた気がする。その歓喜にまた震えた。
「ぁ、んっ!奥っ……気持ち、いっ……」
「……あかり……エロいわ」
「んあぁっ!」
「こんなこと……されたら……っ」
「いいの……」
欲しいと、言っている。
ずっと、それこそ初めての時からそうじゃないか。不破に頼んでる、ワガママを押し付けてる。
「欲しいの……子供……欲しいっ」
欲しいのは……子供だ。
繋がりあえる子供が欲しい。自分とだけこの世界で繋がりあえる唯一の人が欲しい、そう思って願って不破にワガママを押し付けている。
なのにどうしてなのか。
今、誰よりも繋がり合っている不破と、その不破を求めている自分がまるで世界に二人だけのような錯覚に襲われる。この繋がりは特別ではないのか、この繋がりこそ求めているものにはならないのか。
この瞬間をもっと永遠にしたい――そう思っても……これは言葉には出来ないのだと。あかりは胸の奥底に押し込める様にその想いに蓋をしようとした。
聞いてもいない情報を前触れもなく話し始めた。しかも午後からの天気を告げるみたいに本田の口調はとても軽い。
「へぇ……そう」
他に言いようがない、あかりはとりあえず愛想のように返答した。それに本田はニヤッと笑ってあかりの顔を覗き込んでくる。
「天野さんは?」
「なにが?」
「天野さんも年上好きかな?って」
「好き、かなぁ……落ち着いてるよね、年上は」
「ガキみたいなおっさん、山ほどいますけど」
「落ち着いた年下もいるしね。年齢はどこまでいっても表示だよね」
ただその表示こそ現実だ。だからこそあかりは自分自身と未来を見つめる羽目になっている。
「若い時間って取り戻せないもんね。羨ましい」
あかりは思わずこぼしてしまった。自分があと五年ほど若ければ今とは違う未来があったかもしれない。
自分が選んできた人生なのに後悔するのはおかしな話だけれど。
それでも今だからある時間もある、と心の中で呟く。
今の年齢だからこそ、不破との関係が始まった。今だから、不破と過ごす時間があるのだと……自分の中で納得させたいところがあった。
「俺も年上派かなぁ」
「……へぇ、そうだったんだ」
スルーしようと思ったが思わずあかりは返してしまった。本田は若いキャピキャピした感じの子が好みなのだと思い込んでいたからだ。
「なんでそんな意外そうなんですか」
「意外だよ。若い子が好きそうだもん」
「若い子嫌いじゃないですよ?もちろん。刺激的っていえばそうかな」
「刺激……」
「振り回されるみたいな?」
それこそ年齢ではなくタイプではないのか、と思うがとりあえず黙って聞いてみる。
「ワガママも、若い子だと可愛いって聞けたりするもんじゃないですか?甘えてんだなぁ、みたいな」
「……まぁね」
歳そこそこの女のワガママは可愛いとは言いにくいかもしれない。自分が男性にワガママを言う姿を想像してあかりはゾッとした。
(いや、待って。私のこれって不破さんにしたらとんでもないワガママじゃない?可愛いとはとても思えない重いワガママ……)
今さらのことなのにあかりは冷静に考えてしまう。
付き合っていたって重いと感じるワガママがあるのに、付き合いもなにもない、ただの上司と部下の関係、そこから子供を産みたいので精子を下さい、ぶっ飛んでいる。
「新藤はわかりやすいっすよね」
「――え?」
思わず本田を振り返った、それで驚いた。思っていたより本田の距離が近かったからだ。
「……前から思っててね。言おうと思いながら黙ってたけど……近いよ」
「俺も分かりやすくないですかね?」
「……」
「今度二人で飯行きません?」
「……二人では、行かない」
「……チェッ」
どこまで本気で言っているのか。あかりは半ば呆れ気味にため息をこぼして拗ねた風な本田の肩を叩いた。
「本田くん、あんまり歳上からかわないように」
独身のアラサーにふざけた冗談は夜道刺されても文句は言えない。
「歳上なんだからからかわないでしょ。天野さんこそ、年下舐めてたらダメですよ?」
「……」
「最近の天野さん……なんかやたら可愛いんですよね?意識しちゃう感じ?自覚してくださいね」
本田にそんな事を言われて不覚にもあかりは頬を染めてしまった。
異性に意識されるようになった理由はやはりセックスが原因かもしれない、あかりはそんなことを考えては何度か体の奥を火照らせた。
そんなことを思って自分に勘違いしかけているところに携帯が震えた。携帯を見て身体がとたんに疼く。今も頭の中にいた相手が夜の誘いの連絡を入れてきた。
====
「はぁ、ん、あ……そんな、されたらイッちゃうっ」
「イっていいよ?」
「あ、あ、い、樹さんはっ?」
「んー……俺はもう少しあかりの中にいたいかな」
まだ余裕そうな不破をあかりは狂いかけている思考をなんとか保ちながら見つめ、なけなしの理性と闘っている。
自分だって不破を自分くらい感じさせたい、もっとと求めさせられるほど夢中にさせられたら、そう思いだしている。
「ぁ…い、つきさん」
「……ん?」
声が甘い、熱を孕む声はオフィスでは聞けない甘さを含んでいる、それにまたあかりの膣内は震えて不破を無意識に締め付けていた。
「……っ、急にしめんなよ」
「気持ち、よかった?」
「……いいよ?はぁ……イきそうになる」
「ぇ……」
「なんで?動いてないのにこんな気持ちいいってヤバいでしょ。気持ちいい、すごく。だから必死で耐えてる」
「……」
「はぁ……なに?なんでそんな驚いた顔すんの?」
「だって……」
あかりは自分の身体が不破を感じさせれていたとあまり思っていなかった。何回か重ねた身体、初めての時からそうだ。いつも不破は落ち着いて余裕に見えた。自分を気持ちよく感じさせてくれる、胸をときめかせるほど優しく包んでくれる、そして……錯覚させるほど酔わされている、そう思っていた。
「私が……樹さんを気持ちよくさせれてるなんて……思わなくて」
「なんでだよ。初めてした時から余裕ないよ、俺」
「え?ん、あっ!」
「どこに余裕感じたのか教えてほしいわっ」
「んあっ!待っ、ゃあっ!そんな、奥っ……」
動かずにいた不破がいきなり奥を押し付ける様に腰を動かし出した。こんな風に強く少しだけ乱暴な不破は初めてかもしれない。あかりは色んな意味で戸惑って身体だけじゃない、気持ちも追いつけられずにいる。
「ん、あっ、ぁ……はぁ、んんっ、待って、ぶちょ……」
「あれ?部長って呼ぶの?今、仕事じゃないよな?なにしてる時?」
「ん、んっ、ぁっ……や、あっそれっ、待ってっ……」
「あかりー、二人の時は名前で呼べって言った」
責めるみたいに不破が腰を押し付けてくる。口調は優しい、不破の声は色気は含むものの優しさは感じる、それでも言う言葉はやっぱり責めた様に言ってくる。
そんな不破を見るのも初めてかもしれない、それにあかりは無駄にドキドキした。
好意にも、初めて見る少し興奮したような不破にも。
「あ、ん……い、いつきさんっ……」
「ん……ちゃんと、名前で呼んで?」
唇が触れそうな距離だ。
囁かれた声から熱い吐息がこぼれてそれが絡み合う。お互いの呼吸が重なり合って混ざり合ったら余計に熱さが増した。
「あーっ!や、ぁっ……!」
「……っ、あかり……そんな、締められたらさ……イッちゃうよ」
そう言って不破が抵抗しようとする、間違いなく気持ちよさそうにしているのに、そうなることを拒む様に。
「だ…ダメ、なの?」
自分ばかり感じている、さっきから何度もイかされて震えている。不破にだって感じて欲しい、達して欲しい、自分を……求める姿を受け止めさせてくれと思う。
「樹さんもっ……イってよぉっ」
思わず抱きついた。
足を上げて絡める様に腰を自分から押し付けた。そうすることで不破ともっと奥で繋がれた気がする。その歓喜にまた震えた。
「ぁ、んっ!奥っ……気持ち、いっ……」
「……あかり……エロいわ」
「んあぁっ!」
「こんなこと……されたら……っ」
「いいの……」
欲しいと、言っている。
ずっと、それこそ初めての時からそうじゃないか。不破に頼んでる、ワガママを押し付けてる。
「欲しいの……子供……欲しいっ」
欲しいのは……子供だ。
繋がりあえる子供が欲しい。自分とだけこの世界で繋がりあえる唯一の人が欲しい、そう思って願って不破にワガママを押し付けている。
なのにどうしてなのか。
今、誰よりも繋がり合っている不破と、その不破を求めている自分がまるで世界に二人だけのような錯覚に襲われる。この繋がりは特別ではないのか、この繋がりこそ求めているものにはならないのか。
この瞬間をもっと永遠にしたい――そう思っても……これは言葉には出来ないのだと。あかりは胸の奥底に押し込める様にその想いに蓋をしようとした。
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