無責任な飼い主

sae

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元カノ編

補足/芹沢視点①

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 殺す。
 人を殺して犯罪者にならんですむ方法ないんかな。ないよな、ないねん。だから、勝手に事故にでもあって即死しよったらいいのに。通り魔とかにぶつかるみたいな最悪なクジひいた死に方でもええ。とりあえず死ね。

 最近死ねしか思ってへんわ、俺。脳みそがここまで思うんやからそんな呪いでも発してほんまに殺せたらええのにな。人間の限界ってしょうもない。

「龍二~」

(まじ死ねこいつ)

「ねぇねぇ、この間の話考えてくれた?」
「……この間?なんも考えてへん」
「なんでぇ?!話したじゃん!ゼミの先生にもらった美術展のチケット!一緒に行こうよぉ」
「行かへん」

(そもそも行かへんって前に言うてるやろが。ホンマに話し聞きよらへん、なんなんこいつ。この耳マジでかざりやんか。ぶっ千切るぞ)

「行こうよ、行こうよ。龍二絶対好きだと思う!」
「あのさぁ」
 ジトッと見てもキョトンとした顔してクソ腹立つ。こいつほんまにこんなんやったかな、もう全然記憶ないけどなんで俺こいつと付き合ってたんや?自分がわからん、こわ。

「お前、茜に付きまとってるやろ。何話してんねん」
「別にぃ?茜ちゃんがどんな子なのかなぁて興味持ってるだけ」
「持つな」
「持つよ。龍二がそんなに大事にしてるなら知りたいじゃん!茜ちゃんにあって私にないもの知りたいじゃん」
「あるなしの問題ちゃう。そもそもちゃう」
「それぇ!そういうの!何で?めっちゃ普通じゃん、茜ちゃんって。すっごい頭いいとか?センスがいいの?龍二はなんでそこまで茜ちゃんを特別扱いするのぉ!」

(普通?普通の何が悪いん?普通でいるってめちゃくちゃすごいけどな)

 そんな気持ちを当然こいつに話すわけはない。

 茜は確かに普通かもしれん。めっちゃ顔が可愛い分類でもないし、体型も別に普通、背も普通、頭は悪いとは思わへんけどぶっ飛んで賢いわけでもない。要領そんなに良くないし家事とか細々した作業はどちらかというと苦手。でもできひんとかでもないから向き不向き問題だけで別に普通。求める相手基準なだけで茜はなんでも平均的な気がする。

 突起して秀でているものがあるかというと、ない。目につくほどの欠点もさほどない。
 普通、めっちゃ妥当な評価な気がする。そんで、茜はそれを自分でちゃんと自己評価している。自分は普通で飛びぬけたもんがなんにもないおもろない人間やって。

 それがめっちゃおもろいねんけどな、俺からしたら。

 普通ってなんやねん、平均的?全部平均的?それすごない?どんなことも平均的にやってこなせて大した欠点もないんやん。誰でも欠点あるねん、苦手なことややりたいないこともあってそんなんは出来るだけ避けて生きたいわけ。少なくとも俺はそう。やりたくないことしたくないはそうでも、本音は出来ない自分を見るんが嫌なだけ。欠点を突きつけるのがかなんの、俺自身に、俺が。

 でも茜は出来へんことでも受け入れてやろうとする。努力する系、それを普通にする。それがすごい。

 一緒にいるほど茜がすごいと思う。自己評価大して高くないのに、常になんか目指してる、無意識に。だから一緒にいて飽きへんし、手放したくないなと思うわけで。

 やっぱり飼われているのは俺の方。相変わらず、茜に飼われている、手放されたくなくて、捨てられたくなくて茜に手を焼いて構って、茜が俺に依存するように、俺にだけ頼るように大事に大事にしてんのに!

 このいらんことする女がなんかいらんこと茜に吹き込んで茜が無駄に悩みだした。

(腹立つ)

 茜はすぐ考えるたち。ぐるぐる悩んで悩みまくってふさぎ込むタイプ。出口を自分で見つけんと気がすまへんところがあるから悩みだすとあんまり人の意見が耳に入らへんなる。俺自身が昔から一人で物事考えて答えを出してくるタイプやったから気持ちはわかる。結局人に言われたところで自分で答えだして決めんと納得できひんし、結果に納得したいから自分で決めたい。だから茜の悩むことに口を出したいとは思わへんねん。

 でもな。

(常盤?)

 殺したいヤツがまた増えた。だれやねん、常盤。一瞬でこの世に生きる常盤いう人間に殺意持ったわ。

(就活?茜の未来の話?まだ見えへん、俺だって知らんこの先の話をどこの誰か知らん常盤とかいう人間に話す?)

 脳みそがほんまに煮えてきている。いっぺんに二人の人間殺せる方法を考える日々。俺の今一番欲しいもんは、デスノートや。茜はこそこそと講義後に姿を消すようになった。茜に対して浮気とかの心配は正直してない、茜がそんな器用なことするって思えへんし嘘つくのも下手。ただな、こそこそすると余計に気になんねん、目につくんじゃ、苛ついてくるんじゃ、俺に!隠そうとするその態度がなぁ!めちゃくそ腹立つんじゃ!

 ムカつくもうひとりの常盤、犬みたいやと茜から聞かされてたけどほんまに犬みたいな無邪気な感じ。誰にでも尻尾振りそうな愛嬌のある顔したこの駄犬め、舐めてんなよ。

「こいつお前のもんちゃうねんけど。誰のもんや思てる」
 問いかけたら「は?」とか抜かしよる。聞いてんのは俺や、一回で理解しろや。俺のもんやねん!お前の尻尾踏みつけて口輪はめ込んだろうか!そう思ってたらその口が言うてくる。

「なんか、すみません……距離感間違えました」

(はぁぁ?間違えたってなんや、間違えにして認めよる、余計腹立つ!)

 それに茜が必死に間に入ろうとするからまた腹立って。うるさいうるさいうるさい!
 あかん、無理や。殺したいな、思ってた相手目の前にいて、そいつのために茜が必死にあわあわしよって、そんで知ってしまった。

 茜が俺に言えへんこと、目の前のこいつにこぼしてたんやって。その事実。
 
 茜の頬つまむ指に力が入る、茜のほっぺたは柔らかい、だから余計摘まみやすくて、押さえつけやすくて……茜の顔が変形するけど止められへん。
 
「なんやこの口、全然黙らへんやん。俺さっきなんて言うた?あ?」
「ひたひ!ひたひっ!」
 痛い思いしろ、とか初めて思う。これ茜が受け止めへんとな、常盤死ぬぞ?俺かって思ってんねん、普通な茜、良くも悪くも目立たへんお前がな……犯罪者彼氏とか嫌やろ?めっちゃ悪目立ちするやん?お前も一気に変人扱いや、それは避けたいんやって。

 俺は茜が余計なことも考えんと自分の事だけ大事にして俺のそばでぬくぬく生きる暮らしを守りたいだけやのに!!!!
 
「あの!痛がってる!ちょ……やめてあげて?!」
「はぁ?外野が口挟んでくんなや、お前も黙れ」
 お前刺したい気持ち、茜が受け止めてんねんぞ?お前こそ黙れや、口出してくんな!こんのクソボケがぁっ!
 
 
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