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元カノ編
第十二話 落ち込む飼い主
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重い気持ちがずぅんと胸にのしかかっている。それが軽くなることはなく、気づくと溜息をこぼしてまた重くなる。自分の溜息に重量があったのだと初めて知った。吐くたび心にのしかかる。気持ちが晴れることはない。
「はぁ……」
あれからもうずっとりゅうとちゃんと顔を合わせていない。同じ講義で見かけても近づいてこないから当然近寄れない。連絡だってなにも来ない。なにもないんだ、りゅうから私への接触が。
(終わったのかもしれない……)
別れようだってない。そもそもりゅうは女の子と「別れよう」とか言って別れたりするんだろうか。
――あっそー、じゃあ好きにせぇや。
あれがりゅうにとっての別れの言葉なのかもしれない。一緒にいれない、そうこぼしてしまった私に投げられた言葉。別れたいなんて意味じゃもちろんなかった、そんな意味で言ったんじゃない。でも、私のこぼした言葉はりゅうにしたら「別れたい」になったのかもしれない。
(バカみたいだ……)
不用意にこぼした自分の言葉に後悔しても遅い。言葉は独り歩きするのに、自分の思うまま感じ取ってくれなどと虫が良すぎる話だ。
言葉の責任は取らないといけない。
せめてちゃんと伝えないと。りゅうがぶつけてくれた想いには私なりに返したい、そんな思いはある。
りゅうにだから言えなかった意味がある。内緒にしたかったんじゃない、相談したくないとかじゃない。
本当は誰よりも相談したい、聞いて欲しい、一緒に……悩んで欲しかった。
「三間さん」
ざわつく食堂内で声をかけられてハッと顔をあげたら常盤くんがいた。
「ひとり?」
それに頷く。
「……この間ごめん。あれ、彼氏?めっちゃ怒ってたね、大丈夫だった?」
「ライン……くれてたのに返せなくてごめんね」
あの後心配してくれた常盤くんは何通かラインで様子を伺うメッセージをくれていた。それに私は何も返さずスルーしたままだ。
「ううん、そんなのいいんだけど。大丈夫かなって……変な風になってないといいなって思って……」
「……」
「……なった?もしかして揉めたまま?」
「私が悪いんだ」
ちゃんと出来ない私が悪い。頭でばっかり考えて中身のない私、考えていても目先のことに目が行ったらそっちに飛びついていろんなことを疎かにしてしまう。そういう性格なんだ。
「心配かけてごめんね?常盤くんが気にすること何にもないから。むしろ嫌な思いさせてごめん。めっちゃ感じ悪かったよね」
ははっ、と笑って謝ると常盤くんが頷く。
「いや、嫌な思いとかじゃなくって。単純にビックリした、ビビった」
素直な感想に吹き出した。
「だよね?あの日はとくに威圧感やばかった。全身黒はダメだよね?口開くと関西弁だしね?普段はもっと普通っていうか、もっと落ち着いてどっちかっていうと冷静だし静かな人なんだけど」
「いろんな意味で迫力はあった、三間さんに対しても本気で怒ってたもんね」
「あー、ねぇ?」
「嫌われない自信があるんだろうなぁ」
「え?」
「え?」
常盤くんが私の言葉を繰り返す。
「だってそうでしょ?普段は静かで冷静って言ってたし。カッとなるとDVタイプ?」
「まさか!」
「良かった、それだったらヤバい」
常盤くんがおかしそうに笑って言う。
「どんな自分見せても受け止めてもらえる自信あるんでしょ?それだけ信頼されてるって自覚してのあの態度なんでしょ?すげぇじゃん、俺あんな露骨に嫉妬したり彼女怒ったり出来ないなぁ」
「性格かもしれんけど……」と、ぼやきながら笑っている。
信頼?りゅうが私を?
「何でそんな驚いた顔してんの?」
「いや……」
「また彼氏怒っちゃうよ?」
常盤くんにそんな風に言われて笑われた。
「エントリーする?俺はしたいんだけど……また三間さんと絡んでると思われたらまずいのかなぁとかちょっと考えちゃって……「する」
「だ、大丈夫?俺もしていい?」
「もちろん、常盤くんがしたいことちゃんとして?私を気にするなんか理由にならない、私だってする」
自分のやりたいことなんかまだ見つからない。見つけたいから動く、チャレンジする。
形にしたいものが見えたらそこを目指したい。そのために、自分で扉を開けたいんだ。
そして私はESを書き上げられた。
(りゅうと話がしたいな……)
そんなことを思って携帯をいじっては文字を消しての繰り返しだ。どんな言葉もなんだか空回りそうでうまく投げられそうにない。
(会いたい、が一番いいのかな)
【あいたい】打ち込んだその文字を見つめながら思う。それが一番言いたいことだと。一緒にいれないと投げつけてどう言うつもりだと言われるだろうか。投げた後のことを想像するといいイメージが浮かばない。そもそも返事さえくれないかもしれない。
りゅうにとってはもう、私は終わった相手かもしれないのに……。
「あーかねちゃん」
「わ!」
背中を押されて声を上げてしまった。声の主がぴょこんと前に回ってきてあどけなく笑うその顔はてへぺろ的な顔。
(あざとい……)
「びっくりしたぁ?」
「……やめてください」
相変わらず無邪気な感じの春野さんが横に並ぶと言ってきた。
「ちょっと今いい?いいよね?話そ?」
聞いているようで私に拒否権はなさそうな言い回し。相変わらず押しの強い元カノさんがやってきた。
「はぁ……」
あれからもうずっとりゅうとちゃんと顔を合わせていない。同じ講義で見かけても近づいてこないから当然近寄れない。連絡だってなにも来ない。なにもないんだ、りゅうから私への接触が。
(終わったのかもしれない……)
別れようだってない。そもそもりゅうは女の子と「別れよう」とか言って別れたりするんだろうか。
――あっそー、じゃあ好きにせぇや。
あれがりゅうにとっての別れの言葉なのかもしれない。一緒にいれない、そうこぼしてしまった私に投げられた言葉。別れたいなんて意味じゃもちろんなかった、そんな意味で言ったんじゃない。でも、私のこぼした言葉はりゅうにしたら「別れたい」になったのかもしれない。
(バカみたいだ……)
不用意にこぼした自分の言葉に後悔しても遅い。言葉は独り歩きするのに、自分の思うまま感じ取ってくれなどと虫が良すぎる話だ。
言葉の責任は取らないといけない。
せめてちゃんと伝えないと。りゅうがぶつけてくれた想いには私なりに返したい、そんな思いはある。
りゅうにだから言えなかった意味がある。内緒にしたかったんじゃない、相談したくないとかじゃない。
本当は誰よりも相談したい、聞いて欲しい、一緒に……悩んで欲しかった。
「三間さん」
ざわつく食堂内で声をかけられてハッと顔をあげたら常盤くんがいた。
「ひとり?」
それに頷く。
「……この間ごめん。あれ、彼氏?めっちゃ怒ってたね、大丈夫だった?」
「ライン……くれてたのに返せなくてごめんね」
あの後心配してくれた常盤くんは何通かラインで様子を伺うメッセージをくれていた。それに私は何も返さずスルーしたままだ。
「ううん、そんなのいいんだけど。大丈夫かなって……変な風になってないといいなって思って……」
「……」
「……なった?もしかして揉めたまま?」
「私が悪いんだ」
ちゃんと出来ない私が悪い。頭でばっかり考えて中身のない私、考えていても目先のことに目が行ったらそっちに飛びついていろんなことを疎かにしてしまう。そういう性格なんだ。
「心配かけてごめんね?常盤くんが気にすること何にもないから。むしろ嫌な思いさせてごめん。めっちゃ感じ悪かったよね」
ははっ、と笑って謝ると常盤くんが頷く。
「いや、嫌な思いとかじゃなくって。単純にビックリした、ビビった」
素直な感想に吹き出した。
「だよね?あの日はとくに威圧感やばかった。全身黒はダメだよね?口開くと関西弁だしね?普段はもっと普通っていうか、もっと落ち着いてどっちかっていうと冷静だし静かな人なんだけど」
「いろんな意味で迫力はあった、三間さんに対しても本気で怒ってたもんね」
「あー、ねぇ?」
「嫌われない自信があるんだろうなぁ」
「え?」
「え?」
常盤くんが私の言葉を繰り返す。
「だってそうでしょ?普段は静かで冷静って言ってたし。カッとなるとDVタイプ?」
「まさか!」
「良かった、それだったらヤバい」
常盤くんがおかしそうに笑って言う。
「どんな自分見せても受け止めてもらえる自信あるんでしょ?それだけ信頼されてるって自覚してのあの態度なんでしょ?すげぇじゃん、俺あんな露骨に嫉妬したり彼女怒ったり出来ないなぁ」
「性格かもしれんけど……」と、ぼやきながら笑っている。
信頼?りゅうが私を?
「何でそんな驚いた顔してんの?」
「いや……」
「また彼氏怒っちゃうよ?」
常盤くんにそんな風に言われて笑われた。
「エントリーする?俺はしたいんだけど……また三間さんと絡んでると思われたらまずいのかなぁとかちょっと考えちゃって……「する」
「だ、大丈夫?俺もしていい?」
「もちろん、常盤くんがしたいことちゃんとして?私を気にするなんか理由にならない、私だってする」
自分のやりたいことなんかまだ見つからない。見つけたいから動く、チャレンジする。
形にしたいものが見えたらそこを目指したい。そのために、自分で扉を開けたいんだ。
そして私はESを書き上げられた。
(りゅうと話がしたいな……)
そんなことを思って携帯をいじっては文字を消しての繰り返しだ。どんな言葉もなんだか空回りそうでうまく投げられそうにない。
(会いたい、が一番いいのかな)
【あいたい】打ち込んだその文字を見つめながら思う。それが一番言いたいことだと。一緒にいれないと投げつけてどう言うつもりだと言われるだろうか。投げた後のことを想像するといいイメージが浮かばない。そもそも返事さえくれないかもしれない。
りゅうにとってはもう、私は終わった相手かもしれないのに……。
「あーかねちゃん」
「わ!」
背中を押されて声を上げてしまった。声の主がぴょこんと前に回ってきてあどけなく笑うその顔はてへぺろ的な顔。
(あざとい……)
「びっくりしたぁ?」
「……やめてください」
相変わらず無邪気な感じの春野さんが横に並ぶと言ってきた。
「ちょっと今いい?いいよね?話そ?」
聞いているようで私に拒否権はなさそうな言い回し。相変わらず押しの強い元カノさんがやってきた。
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