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元カノ編
第十一話 荒れる黒猫に手を離してしまう飼い主
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足の長さが違うんだから付いていくので必死なんだぞ?は、全然気づいていないりゅうはグイグイ私を引っ張って校舎内を歩いて行く。
「りゅう……ちょ、待ってぇ」
「……」
「りゅうぅー、ちょ……本当に、待って……」
私は自慢じゃないがあまり体力がない。根本的に体育会系ではないんだ。そう思っていたらりゅうの足がようやく止まってくれた。
「あいつなんなん」
ピタッと足が止まってやっと息を整えられる……なんてホッと出来たのは一瞬だった。
「……えと、常盤くん。理工学部だって」
「名前聞いてんちゃうんやけど」
「でもそれしか知らないもん!生物専攻、あとは……食品関係も興味ある!」
「……そんなんもどうでもええんやけど」
「だから!なんにも知らないの!エントリーシートの話を少しして専攻聞いたらそこだけ話してくれて……下の名前も年齢も知らない、なんにも知らないの!」
「なんも知らん男にあんだけ近寄らせられるんやな、お前は」
冷たい瞳は変わらないまま。声は怒っているよりかは呆れているのが近い、うんざりしているみたいなそんな声だ。
「ご、ごめん」
「謝られると余計に腹立つんやけど」
「で、でもりゅう怒ってるから」
「謝ったら許されるとか思ってんのがムカつくんやけど」
そう言われたらもう何も言えない。
「俺が何に怒ってんのか全然わかってへんよな?」
「りゅう以外の男の人と……絡んでたから、でしょ?」
強い目力が私を刺してくる。目は口ほどに物を言う、ではないが何も言わないのにこの瞳……きつい。
「りゅう以外の男の人と、話ししたから?二人きりになったから?」
「俺以外のヤツに茜の気持ちを溢すからじゃ!」
殴られたかと思うくらいの衝撃があった。それくらい言葉だけで空気が響くみたいな感覚初めて受けた。
「なんであいつに言うねん」
「……」
「俺以外のヤツと絡んでんのも腹立つけどな、それ以上に俺以外のヤツに自分のことボヤくんが嫌すぎて耐えれん」
「だ、大事なことは全部りゅうに話してる!」
「どうでもいいことも話せや!俺に言えんことあるのが腹立つねん!なんで俺に言えへんねん!」
聞いたことのないような声をぶつけられた。そしてその内容により胸が痛くなった。りゅうがただの嫉妬で怒っているのではなかった、常盤くんに怒っているわけではなかった。
私に――怒っているのか。
言えない私に、悩んでいる気持ちを吐き出さない私に怒っているのか。
「……ちゃんと……したいの」
「ちゃんとしたいってなんなん?」
「ちゃんとはちゃんとだよ。自分の事、将来の事……ちゃんと自分で考えて決めて……」
「なんでちゃんとせなあかんの?」
なんで?どうしてそんなことを聞くんだ。
「当たり前の事でしょ?!みんなしてる!誰でもしてる、りゅうだって……自分の事ちゃんと考えて決めてるじゃん。春野さんだって……」
「優希?」
何気なく呟かれた名前呼びに胸がキュッとして、同時にムッときた。
「今……名前で呼んだ」
「はぁ?お前こそどんだけあのカスの名前呼んどってん、よう言うわ」
「全然意味違うし!」
「どこかじゃ。自分に非がない思てんのが余計質悪いわ、ボケ」
話がどんどんズレそうだ、お互い余計な火が付きかけている。ここは私が冷静にならねば、そう思っていたのに。
「ちゃんとせんでええわ、茜なんか」
「は?」
どういう意味だ。
「なんも出来んでええねん!お前なんか!」
「なんでそんなこと言うのぉ?!」
どうして、そんな風に言うんだ。どうして、自分をちゃんと見つめて変わりたいって思う私を否定するんだ。誰よりも否定されたくないのに……一番認めてほしい人にそんな風に言われるなんて。
「一緒になんか、いれないよ」
「……」
こんな私じゃ一緒にはいれない。りゅうのそばになんか……いれるわけない。
「りゅうのそばにいたら……どんどんわからなくなる」
甘やかされて大切にされて……愛されてたら何も見えなくなる。自分がなりたい自分を見つけるなんか出来ない。だって――。
「俺があかんのん?」
ちがう、そうじゃない。りゅうが悪いんじゃない、りゅうはなにも悪くない。
「俺がお前を追い詰めてんの?」
誰よりも傍にいたいのに。
「一緒にいたら……ダメになりそう」
その言葉がこぼれたのは無意識だった。こぼしてハッとした、でももう遅い。その言葉を聞いたりゅうの目が一瞬で冷めていたから。
「あ……」
「あっそー、じゃあ好きにせぇや」
行っちゃう……それがわかってる。行かないで……そう言わなきゃってわかってる。
「……っ」
背を向けたりゅうを見つめる視界がボヤけて滲んでいく。喉が苦しくて焼かれたみたいに苦しくて声にならない。
――自分の言いたい事がもっとはっきり言えるようになってからだね?茜ちゃん?
春野さんの声が脳内でこだまする。
大事にしたいの。りゅうのこと、誰よりも。
一緒に歩いて行きたいって、誰よりも思ってる。なのにどうしてなんだろう……。
時間を積み重ねるほど好きが増して、一緒にいるほど未来が見えなくなって今だけに閉じこもりたくなっている。閉じこもりたくなるほど、りゅうが私を抱きしめてくれるから……その腕の中で甘えて囲われる私。
それってりゅうのお荷物になるだけでしょう?
りゅうのお荷物になんか、なりたくないんだよ。
「りゅう……ちょ、待ってぇ」
「……」
「りゅうぅー、ちょ……本当に、待って……」
私は自慢じゃないがあまり体力がない。根本的に体育会系ではないんだ。そう思っていたらりゅうの足がようやく止まってくれた。
「あいつなんなん」
ピタッと足が止まってやっと息を整えられる……なんてホッと出来たのは一瞬だった。
「……えと、常盤くん。理工学部だって」
「名前聞いてんちゃうんやけど」
「でもそれしか知らないもん!生物専攻、あとは……食品関係も興味ある!」
「……そんなんもどうでもええんやけど」
「だから!なんにも知らないの!エントリーシートの話を少しして専攻聞いたらそこだけ話してくれて……下の名前も年齢も知らない、なんにも知らないの!」
「なんも知らん男にあんだけ近寄らせられるんやな、お前は」
冷たい瞳は変わらないまま。声は怒っているよりかは呆れているのが近い、うんざりしているみたいなそんな声だ。
「ご、ごめん」
「謝られると余計に腹立つんやけど」
「で、でもりゅう怒ってるから」
「謝ったら許されるとか思ってんのがムカつくんやけど」
そう言われたらもう何も言えない。
「俺が何に怒ってんのか全然わかってへんよな?」
「りゅう以外の男の人と……絡んでたから、でしょ?」
強い目力が私を刺してくる。目は口ほどに物を言う、ではないが何も言わないのにこの瞳……きつい。
「りゅう以外の男の人と、話ししたから?二人きりになったから?」
「俺以外のヤツに茜の気持ちを溢すからじゃ!」
殴られたかと思うくらいの衝撃があった。それくらい言葉だけで空気が響くみたいな感覚初めて受けた。
「なんであいつに言うねん」
「……」
「俺以外のヤツと絡んでんのも腹立つけどな、それ以上に俺以外のヤツに自分のことボヤくんが嫌すぎて耐えれん」
「だ、大事なことは全部りゅうに話してる!」
「どうでもいいことも話せや!俺に言えんことあるのが腹立つねん!なんで俺に言えへんねん!」
聞いたことのないような声をぶつけられた。そしてその内容により胸が痛くなった。りゅうがただの嫉妬で怒っているのではなかった、常盤くんに怒っているわけではなかった。
私に――怒っているのか。
言えない私に、悩んでいる気持ちを吐き出さない私に怒っているのか。
「……ちゃんと……したいの」
「ちゃんとしたいってなんなん?」
「ちゃんとはちゃんとだよ。自分の事、将来の事……ちゃんと自分で考えて決めて……」
「なんでちゃんとせなあかんの?」
なんで?どうしてそんなことを聞くんだ。
「当たり前の事でしょ?!みんなしてる!誰でもしてる、りゅうだって……自分の事ちゃんと考えて決めてるじゃん。春野さんだって……」
「優希?」
何気なく呟かれた名前呼びに胸がキュッとして、同時にムッときた。
「今……名前で呼んだ」
「はぁ?お前こそどんだけあのカスの名前呼んどってん、よう言うわ」
「全然意味違うし!」
「どこかじゃ。自分に非がない思てんのが余計質悪いわ、ボケ」
話がどんどんズレそうだ、お互い余計な火が付きかけている。ここは私が冷静にならねば、そう思っていたのに。
「ちゃんとせんでええわ、茜なんか」
「は?」
どういう意味だ。
「なんも出来んでええねん!お前なんか!」
「なんでそんなこと言うのぉ?!」
どうして、そんな風に言うんだ。どうして、自分をちゃんと見つめて変わりたいって思う私を否定するんだ。誰よりも否定されたくないのに……一番認めてほしい人にそんな風に言われるなんて。
「一緒になんか、いれないよ」
「……」
こんな私じゃ一緒にはいれない。りゅうのそばになんか……いれるわけない。
「りゅうのそばにいたら……どんどんわからなくなる」
甘やかされて大切にされて……愛されてたら何も見えなくなる。自分がなりたい自分を見つけるなんか出来ない。だって――。
「俺があかんのん?」
ちがう、そうじゃない。りゅうが悪いんじゃない、りゅうはなにも悪くない。
「俺がお前を追い詰めてんの?」
誰よりも傍にいたいのに。
「一緒にいたら……ダメになりそう」
その言葉がこぼれたのは無意識だった。こぼしてハッとした、でももう遅い。その言葉を聞いたりゅうの目が一瞬で冷めていたから。
「あ……」
「あっそー、じゃあ好きにせぇや」
行っちゃう……それがわかってる。行かないで……そう言わなきゃってわかってる。
「……っ」
背を向けたりゅうを見つめる視界がボヤけて滲んでいく。喉が苦しくて焼かれたみたいに苦しくて声にならない。
――自分の言いたい事がもっとはっきり言えるようになってからだね?茜ちゃん?
春野さんの声が脳内でこだまする。
大事にしたいの。りゅうのこと、誰よりも。
一緒に歩いて行きたいって、誰よりも思ってる。なのにどうしてなんだろう……。
時間を積み重ねるほど好きが増して、一緒にいるほど未来が見えなくなって今だけに閉じこもりたくなっている。閉じこもりたくなるほど、りゅうが私を抱きしめてくれるから……その腕の中で甘えて囲われる私。
それってりゅうのお荷物になるだけでしょう?
りゅうのお荷物になんか、なりたくないんだよ。
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