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元カノ編
第一話 無邪気で可愛いウサギさん
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それは突然の事だった。
「龍二!」
りゅうの名前を親し気に呼んで手を振って近づいてきたその人はまったく私が視界に入っていないようだった。
「久しぶり!元気だった?」
振っていた手がそのまま伸びてなんならもう片方の腕も伸びてきて、りゅうの腰回りに躊躇いなく回された。ぴょんっと飛び跳ねる軽そうな体、バネのあるその動きがまるでウサギのようで。
(きょ、距離感!)
いや、距離感どうこうじゃない。なに抱きついてくれてんだ。
「……」
何も言えずに固まった私の横でりゅうも一瞬呆気に取られていたけれど、こぼされた声は普段ではなかなか聞かないような冷たい声だった。
「触んな」
「え、なんで?」
触るな、からの、なんで。無敵なのか、この女性は。
「なんでちゃうねん、離れろ」
おでこを押し出すような剥がし方がなんだかおかしくて思わず笑ってしまって初めてその人と目が合った。笑った私、かなり感じが悪い、とその時気づいたけど後の祭りだ。
「だれ?」
それは私のセリフだ。
「彼女」
代わりにりゅうが答えてくれて胸が簡単にきゅんとする。
「彼女?!どれくらい付き合ってるの?」
「なんでお前に関係あんねん、うざ」
「あ、待ってよぉ!」
心底うざそうにツンッと背中を向けたりゅうに強気に声をかけるけど完全無視するりゅう。彼女は相手を私にシフトした。
「どれくらい付き合ってるの?!長いの?」
「え……」
長いは一般的にどれくらいで長いのだろう。初彼には二カ月ほどで浮気された私は世のカップルの平均付き合い期間がわからない。二カ月はおそらく短いだろう、りゅうとは付き合いだして半年は過ぎたがまだ一年未満。
(出会った時間をカウントしたらもう少し長いけど……彼氏彼女になったらもっと短いよな)
そんなことを悶々考えていたら腕を引かれた。
「茜、もう来いや。ほっとけ、そんなん」
「そんなんってなに!元カノ相手にぃ!」
「元カノ……」
声になっていたのは無意識だった。
「そう、私元カノでぇす、今カノさん?」
「なんこいつ、めっちゃうざいやん。はよどっか行け」
「なによぉ!龍二の彼女の中では長いほうでしょ~?三カ月持った女だもん!」
やった、勝った。は、胸の中でのガッツポーズ。言葉にはとても出来ない。
「もうええて。構う必要なし。茜、来い」
手を繋がれて小走りで逃げるみたいなりゅうに連れられてその場を去ろうとした時だ。背後からその元カノさんは大きな声で叫んできた。
「龍二といっぱい話したいことあるよー!帰ってきたら話しようねって約束したじゃんー!」
(話したいこと?約束……?)
後ろ髪引かれながらも、繋がれた手は離せるわけがなくって。それでもどうしても彼女の言葉が耳についていた。
「良かったの?」
二人になって歩く道筋でりゅうにぽそっと問いかけたら黒い瞳がじっと見つめ返してきた。
「なにが?」
「話したいこと……ありそうだったなって」
「俺はないけど」
「帰ってきたって……どういう意味?」
「留学やない?」
サラッと言われて目をぱちぱちさせてしまった。
「知りたいん?昔の女の事とか」
「……昔の彼女が、じゃなくて、その……」
あの彼女のことが知りたい、はどう言えばいいんだろう。
「付き合ってたいうか……ほんまセフレみたいな感じやったけど」
「でも三カ月だって」
「……」
「りゅうにしたら長いよね?前言ってたもん、いろんな子と関係もってても持って数カ月だったって。三カ月ならやっぱり長いの?」
「月数と絡む日数ってイコールちゃうよな?三カ月経ってても中身が薄かったら一カ月ヤリまくった相手の方が濃くない?」
言うことが最低だ。
「茜、待って。ちゃうやん、怒らんといて」
「知ってたけどさ。最低だよ?」
「ごめんやん、ちゃうの、言いたいのはそいうことちゃうて」
指先絡めて甘い声で囁かれても膨れた頬はなかなか萎んでくれない。
「頬っぺた膨らますん、なに?めっちゃかわいいやん、食っていい?」
「いいわけあるかい!」
またどこぞのコテコテな漫才師みたいに突っ込んだらりゅうがくしゃっと笑った。りゅうのこのくだけたくしゃっとした笑顔はなんともいえない、可愛い。
この笑顔が向けられるのは私にだけだってうぬぼれじゃなく思っていてもいいかな。
「最低ついでに言うけどな。元カノとかセフレとかと過ごしてた時間って俺の中ではもうたいした時間とちゃうんやわ。腹空いたらなんか食うやん、眠なったら寝たいやん、そういうこと」
「……どういうことよ」
「人間の三大欲求に素直に従って過ごしてただけ。そこに深い意味ないやろ?」
「……おう」
「茜がBL本を読むのは自分から欲求満たしたくて時間を費やしてるわけやんな?」
「お、おう?」
なんか話がおかしくなっていないか?
「自分がその時間のために向き合うのと自然と求めて受け入れるのは全然違う話や言うてんねん」
「……」
「つまり、昔の絡んだ女に費やした時間と茜に費やしてる時間は意味が全然違う」
「……」
「茜と過去の女は違う、それだけ」
だめだ、言いくるめられた。もうなんと言い返していいかわからない。
「ほやけどな」
「え?」
真面目な声で思わず顔をあげたら真っ直ぐ見降ろされた。
「あいつは結構しつこい。無視が一番、気ぃつけや」
そんな風に忠告を受けると構えてしまうではないか。そしてやはりりゅうの読み通りその元カノさんはしつこかったのである。
「龍二!」
りゅうの名前を親し気に呼んで手を振って近づいてきたその人はまったく私が視界に入っていないようだった。
「久しぶり!元気だった?」
振っていた手がそのまま伸びてなんならもう片方の腕も伸びてきて、りゅうの腰回りに躊躇いなく回された。ぴょんっと飛び跳ねる軽そうな体、バネのあるその動きがまるでウサギのようで。
(きょ、距離感!)
いや、距離感どうこうじゃない。なに抱きついてくれてんだ。
「……」
何も言えずに固まった私の横でりゅうも一瞬呆気に取られていたけれど、こぼされた声は普段ではなかなか聞かないような冷たい声だった。
「触んな」
「え、なんで?」
触るな、からの、なんで。無敵なのか、この女性は。
「なんでちゃうねん、離れろ」
おでこを押し出すような剥がし方がなんだかおかしくて思わず笑ってしまって初めてその人と目が合った。笑った私、かなり感じが悪い、とその時気づいたけど後の祭りだ。
「だれ?」
それは私のセリフだ。
「彼女」
代わりにりゅうが答えてくれて胸が簡単にきゅんとする。
「彼女?!どれくらい付き合ってるの?」
「なんでお前に関係あんねん、うざ」
「あ、待ってよぉ!」
心底うざそうにツンッと背中を向けたりゅうに強気に声をかけるけど完全無視するりゅう。彼女は相手を私にシフトした。
「どれくらい付き合ってるの?!長いの?」
「え……」
長いは一般的にどれくらいで長いのだろう。初彼には二カ月ほどで浮気された私は世のカップルの平均付き合い期間がわからない。二カ月はおそらく短いだろう、りゅうとは付き合いだして半年は過ぎたがまだ一年未満。
(出会った時間をカウントしたらもう少し長いけど……彼氏彼女になったらもっと短いよな)
そんなことを悶々考えていたら腕を引かれた。
「茜、もう来いや。ほっとけ、そんなん」
「そんなんってなに!元カノ相手にぃ!」
「元カノ……」
声になっていたのは無意識だった。
「そう、私元カノでぇす、今カノさん?」
「なんこいつ、めっちゃうざいやん。はよどっか行け」
「なによぉ!龍二の彼女の中では長いほうでしょ~?三カ月持った女だもん!」
やった、勝った。は、胸の中でのガッツポーズ。言葉にはとても出来ない。
「もうええて。構う必要なし。茜、来い」
手を繋がれて小走りで逃げるみたいなりゅうに連れられてその場を去ろうとした時だ。背後からその元カノさんは大きな声で叫んできた。
「龍二といっぱい話したいことあるよー!帰ってきたら話しようねって約束したじゃんー!」
(話したいこと?約束……?)
後ろ髪引かれながらも、繋がれた手は離せるわけがなくって。それでもどうしても彼女の言葉が耳についていた。
「良かったの?」
二人になって歩く道筋でりゅうにぽそっと問いかけたら黒い瞳がじっと見つめ返してきた。
「なにが?」
「話したいこと……ありそうだったなって」
「俺はないけど」
「帰ってきたって……どういう意味?」
「留学やない?」
サラッと言われて目をぱちぱちさせてしまった。
「知りたいん?昔の女の事とか」
「……昔の彼女が、じゃなくて、その……」
あの彼女のことが知りたい、はどう言えばいいんだろう。
「付き合ってたいうか……ほんまセフレみたいな感じやったけど」
「でも三カ月だって」
「……」
「りゅうにしたら長いよね?前言ってたもん、いろんな子と関係もってても持って数カ月だったって。三カ月ならやっぱり長いの?」
「月数と絡む日数ってイコールちゃうよな?三カ月経ってても中身が薄かったら一カ月ヤリまくった相手の方が濃くない?」
言うことが最低だ。
「茜、待って。ちゃうやん、怒らんといて」
「知ってたけどさ。最低だよ?」
「ごめんやん、ちゃうの、言いたいのはそいうことちゃうて」
指先絡めて甘い声で囁かれても膨れた頬はなかなか萎んでくれない。
「頬っぺた膨らますん、なに?めっちゃかわいいやん、食っていい?」
「いいわけあるかい!」
またどこぞのコテコテな漫才師みたいに突っ込んだらりゅうがくしゃっと笑った。りゅうのこのくだけたくしゃっとした笑顔はなんともいえない、可愛い。
この笑顔が向けられるのは私にだけだってうぬぼれじゃなく思っていてもいいかな。
「最低ついでに言うけどな。元カノとかセフレとかと過ごしてた時間って俺の中ではもうたいした時間とちゃうんやわ。腹空いたらなんか食うやん、眠なったら寝たいやん、そういうこと」
「……どういうことよ」
「人間の三大欲求に素直に従って過ごしてただけ。そこに深い意味ないやろ?」
「……おう」
「茜がBL本を読むのは自分から欲求満たしたくて時間を費やしてるわけやんな?」
「お、おう?」
なんか話がおかしくなっていないか?
「自分がその時間のために向き合うのと自然と求めて受け入れるのは全然違う話や言うてんねん」
「……」
「つまり、昔の絡んだ女に費やした時間と茜に費やしてる時間は意味が全然違う」
「……」
「茜と過去の女は違う、それだけ」
だめだ、言いくるめられた。もうなんと言い返していいかわからない。
「ほやけどな」
「え?」
真面目な声で思わず顔をあげたら真っ直ぐ見降ろされた。
「あいつは結構しつこい。無視が一番、気ぃつけや」
そんな風に忠告を受けると構えてしまうではないか。そしてやはりりゅうの読み通りその元カノさんはしつこかったのである。
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