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友達編
芹沢の友達
しおりを挟む私の今日の講義は午前で終わった。
りゅうだけ昼からの講義が一限入っていて一緒に帰ろうと約束していたが、授業前にどうしたんだろうと思いながら携帯に目を落とした。
「おった」
「あ、どしたの?これから講義じゃないの?」
「講義やからや。茜に前貸したノート、あれ返してくれ。その授業」
「あ!」
忘れてた、私が取っていない講義だから興味があってノートだけ見せてもらっていた。それをそのまま持ったままだ。
「ごめん!返した気になってた!待ってね」
がさがさと鞄を探っているとメッセージアプリが連打されて私よりりゅうの方が気になったのか携帯を勝手に見る。
「穂香ちゃん?」
「ねぇ、いつも言うけど普通に見るのやめて」
「俺の勝手に見てええで」
「見ないよ」
「俺は見る」
「いや、聞いて?」
「穂香ってだれ?」
干渉嫌いと言い張るくせに人のことはめちゃくちゃ干渉してくるのに矛盾は感じないのか。
「ふふふ……聞いてよ、私はもうぼっちじゃないのよ」
「ほぉ」
「友達出来た!嬉しい!」
「それほんまにリアルにおるん?茜の妄想やなくて?」
「妄想ちゃうわ!」
「フッ、下手くそ。まぁ後で聞くわ、どっかで待ってて」
くしゃっと頭を撫でられてりゅうはひらひらと手を振って講義に行ってしまった。その後ろ姿を見送りながら胸がほわほわした気持ちになる。
干渉気味だけど優しくて甘い彼氏がいて、ボッチ生活だったところに趣味が合う友達が出来た。
(幸せ)
私は今、一番充実した日々を過ごしているのかもしれない。そして、相変わらず整った綺麗な部屋でりゅうがパスタを作ってくれた。
「わぁぁ、うんまそぉー」
「火傷しんときや」
いつもながら面倒見がよすぎてハマるともう抜け出せない、すっかり私はりゅうに飼われた生き物になっている。
「いつも思うけど器用だねぇ、ぱぱっと作れるのすごくない?一人暮らし長いって言っても大学からでしょ?」
「んー、料理はなんか昔からしてたのはあるねんなぁ」
「へぇー」
実家暮らしの学生で料理をする機会って本人の意識がないとすることないよなぁ、とぼんやり思いながらまだまだ謎に包まれるりゅうのことを思いつつ安定のナポリタンを頬張っていた。
「おいしかったぁ、ごちそうさまぁー」
「……あかねぇ、こっち向いてみ?」
「え?ぅむっ!」
ほっぺを押しつぶすように片手で挟み込まれて顔がおそろしく可愛くない顔になっているだろうに、その尖らされたくちびるにりゅうが食べる様にキスをしてきた。
「んんん!!」
ちゅぱっとくちびるが離されると色気のある瞳で見つめながら自身のくちびるを舐めて言う。
「ケチャップつけすぎや」
(いいい、色気――――!!)
「ほんで?その穂香ちゃんはなんで知り合ったん?」
「あ、えっと、偶然。でも同じクラスだよ。松本ゼミの子」
「松本?あー、俺もあんまり知らんなその辺」
「りゅうはぼっちでしょ」
「お前、一人友達出来たくらいでえらい調子こいてんな」
「羨ましい?」
「はぁ?前も言ゆうたやろ、俺は作ってへんねん。わざわざ作らんでええ。友達ってそもそも数ちゃうし」
(え?)
「そや。今度の休みなんやけどさぁ……お前と出かける用事言ゆうてたけど、ちょっと予定変えてくれへん?」
「いいけど……どうしたの?」
「ツレがこっち来るって言ゆうねん。断っても聞かへんねんなぁ、あいつは。スーパー自己中なんや」
「……りゅう、友達いるの?」
「おるよ?地元にな」
「えええ?!圧倒的ぼっちって自慢気に言ってたじゃん!!」
「大学での話やろ?高校とか普通におるし」
(な、なんと……)
「穂香チャン友達なって浮かれすぎやな。そんな俺に自慢したいか、アホが」
「そ、そういうわけじゃないけどっ~~友達いないって言ったじゃん~!」
「おらんやん、実際。大学では特別仲良い奴はいてへん、嘘はついてへんし。茜が勝手に俺の人生にツレがおらんって思ってただけや」
「そうなのぉ?なんだ……そうなんだ、ふぅん、友達、いるの……ふうん」
なんだろう、このどうしようもない焦燥感は。
りゅうの知らない顔をまた見つけてなんだか胸が痛い。しかも私より優先したい友達……この敗北感……。
(って、私より?!敗北感?!なんか私、いつのまにこんなに厚かましい女になった?!)
「いいよ!休み!そのお友達と会ってきなよ!私のことは気にしないで!」
「うん?お前も来たらええやん、来こぉーへんか、って聞いたつもりやってんけど」
(まさかのりゅうのお友達に紹介されるパターン!?)
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