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本編
第一章 見つめ合ったら…
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「彼女いるんでしょ?」
講義室の奥からそんな甘い声が聞こえて思わず足が動かず固まった。
誰かがこの中でナニかをしている、それが見えなくてもわかって気まずさと羞恥で動けなくなった。
クスクス笑いながら時折こぼれる吐息が体の中を自然と疼かせてしまう。
大学に来て初めて彼氏が出来て、その彼氏とした初めての経験。それらを瞬時に思い出して余計鼓動が速まった。
「……いるけど……あいつ、やりにくいんだよ……」
男の声がそこで初めて聞こえて耳を疑った。
「だから……リカちゃんが慰めてよ、俺のこと」
「やだぁ、ひどい彼氏ぃー、ぁん」
――やりにくい?
それは、付き合いが?エッチが?
冷や汗が流れて身動きできずにいる私の体は、貧血のような症状が急に起きてクラッとしかけた。そこを背後から支えてくれる熱にハッとする。
肩を掴まれて、背中越しに感じる気配に見上げると冷めた目をした芹沢がいた。
「お前の男、クズやな」
「……ぁ」
「あんなんにフラれる前に自分から切れよ」
「……」
なにも言えない私を冷たい目が見つめる。
その目が少しイラついたように見えたのは、きっと私のその弱くて情けない姿にムカついているんだろう。
芹沢は私みたいな女は好みじゃない。
いつも芹沢に近づいていく子はガツガツした自信のあるタイプの子。浮気なんかされない、なんなら奪えるような強気な子が多いから。
芹沢に見つめれること数秒。
視線を外したのは芹沢が先だった。フッと視界から消えて足が室内へ向いたから思わずシャツを掴もうとしたけれど間に合わなかった。
芹沢は部屋の中に堂々と入って行ってしまった。
(なに、なにする気?!)
呼び止めようと瞬間テンパったけど、芹沢の行動なんか読めるわけもなく、考えたくてもなにも考えが浮かばない。
躊躇いなく部屋の中に入って物音を普通に出すから先客たちは慌てて身構えたようだった。
「なん、え、なに?!」
見られて動揺した男がそんな間抜けな声を出していた。
「え、龍二?!」
リカという女は芹沢の知り合いだったのか。名前呼びするくらいなら関係があったのかもしれない。
顔は見れない、扉の横、廊下から聞き耳だけ立てているから中の様子は耳からの想像になる。胸だけがだんだんドキドキしてくる、浮気男と、遊んでいる女と、その女と遊んだことのありそうな男が絡む現場はなんとなくシュールだ。
「やりにくいってなんなん」
「は?」
「いや、今言うてたやん、やりにくい女ってなにかなって」
「それ、は……」
「リカぁ、お前どこでもヤるんやな、まじで尻軽ー」
「違う!この人が誘ってきただけで私は……」
「はぁ?!お前から誘ってきたんだろ!」
二人が言い合いだして、芹沢はバカにしたように笑って言った。
「しょーもな。どーでもええわ、お前らのやり取り。好きにやっとけや」
芹沢の声がだんだん近づいてきて部屋を出ようとするのがわかる。
「龍二、待ってよぉ!違うってばー!」
誤解をされたくないのか女は必死に芹沢に声をかけてる様子だったが、芹沢は見向きもしない。声をかけてくる女ではなく、廊下に隠れたまま動けない私を見つめた。
「……」
泣きそうなくらい惨めだった。
好きと囁かれた言葉を素直に信じて、好きだと伝えた自分が遠い日に思えて、胸が痛い。
浮気に気づいたのも辛い。
でも気づかずにこのまま関係を続けていたらきっともっと辛かった。
「龍二!」
女の声は切実に聞こえた。振り向いてほしい、そんな声色だった。
それに芹沢は振り向いた、でも向けられた視線は女ではなく男の方にだった。
「やりにくい女なぁ、俺がもらったるわ」
その言葉を吐き捨てて、芹沢は教室から出てきて私の前に立ちはだかる。見つめられて見つめかえした。
その場から動けなくなった私。芹沢に見つめられてるその時間は一瞬だけど永遠のようで……。
芹沢は私の手を掴んで廊下をあとにした。
講義室の奥からそんな甘い声が聞こえて思わず足が動かず固まった。
誰かがこの中でナニかをしている、それが見えなくてもわかって気まずさと羞恥で動けなくなった。
クスクス笑いながら時折こぼれる吐息が体の中を自然と疼かせてしまう。
大学に来て初めて彼氏が出来て、その彼氏とした初めての経験。それらを瞬時に思い出して余計鼓動が速まった。
「……いるけど……あいつ、やりにくいんだよ……」
男の声がそこで初めて聞こえて耳を疑った。
「だから……リカちゃんが慰めてよ、俺のこと」
「やだぁ、ひどい彼氏ぃー、ぁん」
――やりにくい?
それは、付き合いが?エッチが?
冷や汗が流れて身動きできずにいる私の体は、貧血のような症状が急に起きてクラッとしかけた。そこを背後から支えてくれる熱にハッとする。
肩を掴まれて、背中越しに感じる気配に見上げると冷めた目をした芹沢がいた。
「お前の男、クズやな」
「……ぁ」
「あんなんにフラれる前に自分から切れよ」
「……」
なにも言えない私を冷たい目が見つめる。
その目が少しイラついたように見えたのは、きっと私のその弱くて情けない姿にムカついているんだろう。
芹沢は私みたいな女は好みじゃない。
いつも芹沢に近づいていく子はガツガツした自信のあるタイプの子。浮気なんかされない、なんなら奪えるような強気な子が多いから。
芹沢に見つめれること数秒。
視線を外したのは芹沢が先だった。フッと視界から消えて足が室内へ向いたから思わずシャツを掴もうとしたけれど間に合わなかった。
芹沢は部屋の中に堂々と入って行ってしまった。
(なに、なにする気?!)
呼び止めようと瞬間テンパったけど、芹沢の行動なんか読めるわけもなく、考えたくてもなにも考えが浮かばない。
躊躇いなく部屋の中に入って物音を普通に出すから先客たちは慌てて身構えたようだった。
「なん、え、なに?!」
見られて動揺した男がそんな間抜けな声を出していた。
「え、龍二?!」
リカという女は芹沢の知り合いだったのか。名前呼びするくらいなら関係があったのかもしれない。
顔は見れない、扉の横、廊下から聞き耳だけ立てているから中の様子は耳からの想像になる。胸だけがだんだんドキドキしてくる、浮気男と、遊んでいる女と、その女と遊んだことのありそうな男が絡む現場はなんとなくシュールだ。
「やりにくいってなんなん」
「は?」
「いや、今言うてたやん、やりにくい女ってなにかなって」
「それ、は……」
「リカぁ、お前どこでもヤるんやな、まじで尻軽ー」
「違う!この人が誘ってきただけで私は……」
「はぁ?!お前から誘ってきたんだろ!」
二人が言い合いだして、芹沢はバカにしたように笑って言った。
「しょーもな。どーでもええわ、お前らのやり取り。好きにやっとけや」
芹沢の声がだんだん近づいてきて部屋を出ようとするのがわかる。
「龍二、待ってよぉ!違うってばー!」
誤解をされたくないのか女は必死に芹沢に声をかけてる様子だったが、芹沢は見向きもしない。声をかけてくる女ではなく、廊下に隠れたまま動けない私を見つめた。
「……」
泣きそうなくらい惨めだった。
好きと囁かれた言葉を素直に信じて、好きだと伝えた自分が遠い日に思えて、胸が痛い。
浮気に気づいたのも辛い。
でも気づかずにこのまま関係を続けていたらきっともっと辛かった。
「龍二!」
女の声は切実に聞こえた。振り向いてほしい、そんな声色だった。
それに芹沢は振り向いた、でも向けられた視線は女ではなく男の方にだった。
「やりにくい女なぁ、俺がもらったるわ」
その言葉を吐き捨てて、芹沢は教室から出てきて私の前に立ちはだかる。見つめられて見つめかえした。
その場から動けなくなった私。芹沢に見つめられてるその時間は一瞬だけど永遠のようで……。
芹沢は私の手を掴んで廊下をあとにした。
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