イケメン幼馴染に処女喪失お願いしたら実は私にベタ惚れでした

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周りの友達がみんな経験を済ませはじめていて内心は焦っています。



 ***



「焦る前に彼氏が先でしょ」

 中学からの親友の樹里に言われて返す言葉がない。



「そもそも彼氏がいるからそういうことができるんでしょ。処女だけ捨てたいんなら方法はいろいろあるけどさ」

「え、いろいろって……?」

「うーん、アプリで出会ったりとか?合コンで出会った軽そうな人誘ってみるとか?」

 眉間に皺を寄せる私の表情を見て面白そうに笑いながら樹里が言う。



「だから、そういうことするなら普通は彼氏でしょー。てか、本気で処女捨てたいんだ、そっちがメインなのね。好きな人とじゃなきゃ出来なくない?エッチなんか」

 去年彼氏ができた樹里は当然経験済みで、さすがな先輩風をふかしてくる。



 瀬戸せと環奈かんな、二十歳。

 彼氏いない歴=年齢、もちろん処女。片思いの常連でそれも憧ればかりの淡い恋、告白さえしたこともないしもちろんされたこともない。

 そもそもモテない。見た目はいたって平凡、平均、なんなら平均以下かも。

 髪の毛だけは真っすぐの直毛でサラサラツルツル、天使の輪っかができるほどなぜか綺麗でそれだけが自慢。その髪は胸元くらいまでをキープしてずっと伸ばしている。

 私が自慢できるのはその髪くらい。

 足が細いとか、胸があるとか体の部分で誇れるものも特にない平凡な女子大生だ。



 恋愛経験は頭の中ばかり、実際そんな憧れや妄想を実現できたことなんかない。



「そんな自分から声かけてなんか無理だよ、それに応えてもらえるとも思えないし」

「それなら真田さなだに教えてもらえばぁ?」

 にやりと笑われて、え?っと思う。



「隣に慣れまくったヤリチンいるじゃん、ちょうど良くない?」

「ちょうどいいの意味がよくわからないけど」

「モテて女に慣れてる、経験も多い、見た目も良い、知った人間だし安心、なにより環奈のことをよく理解している、最適じゃん」

 急に樹里が乗り気になるから余計に冷めてくる。最適の意味とは?



南朋なおなんか無理だよ、彼女切れたことないよ?」

「じゃあ彼女切れたタイミングだ、そこ狙お」

「いや、そもそも私となんか無理だよ、南朋が私を女として見てないもん」

「だからいいんじゃん、割り切って教えてもらえてさ、環奈は経験値を上げられて一石二鳥!処女捨てたいんならそれもありじゃん」

 そんな話をして樹里を玄関先で見送っていたら噂の人物がちょうど帰ってきた。



「あ、真田~久しぶり~」

「また来てんの?相変わらずツルんでんのな、お前ら」

「真田も相変わらずイケメンだね、今の彼女はどんな人?」

「今いねー」

「「え!」」

 思わず樹里と二人で声を荒げてしまった。



「なに?」

「なんでもない!」

 そう言った私の横で「なんでもなくないじゃん!今だよ!」とさらに声を荒げる樹里の口を塞ぐ。余計なことは言わないでほしい、その気持ちで南朋をさっさと家に入るよう促せた。



「なんでもないから!もう、南朋はやく家入って!!早く!!」

「……なんだよ、変な奴ら」

 首を傾げながら玄関の扉を開けて南朋は姿を消したのでホッと全身で息を吐いたらニヤニヤした樹里と目があった。



「チャンスきたんじゃない~?真田が彼女いないとかレアでしょ。頼むなら今だね、報告待ってる」

 勝手に背中を押されて帰っていった。玄関先で一人取り残されてなんとなくその場に佇んでいると頭の上から声が降ってきた。



「環奈ぁ、おふくろがパウンドケーキ焼いたから持って帰れってぇー」

「うそ!おばさんのパウンドケーキ大好き!」

 南朋のその言葉に迷いなく玄関の扉を開け、私はリビングまでお邪魔した。



 ――コンコン。



「――なんだよ」

「おばさんが南朋の洗濯物持って行ってくれって」

「――なんでお前にそんな用事頼むんだよ、あのババア……そんでお前も素直に持ってくんなよ」

「ケーキただでもらうんだもん、これくらいのお手伝い安いものだし」

 はぁ、とため息を吐く南朋の背中から見えた部屋の違和感に思わず身を乗り出してしまった。



「あれ?」

「なに?」

「ちょ、ちょっと入っちゃダメ?」

「あ?なんで?」

「あれ、ねぇ、南朋の部屋って今こんななの?」

 南朋の部屋に入るのは何年ぶりになるのだろう。飛行機柄のカーテンや星柄の布団、サッカーボールが何個か転がっていて、ガチャガチャ好きの南朋はいつもそれをコレクションに飾っていた。

 今私が目にしているのはグレーで統一されているとてもシックでシンプルな部屋。ウッド調の机にMacが置いていてなんだか電子機器も多い。



「ガンダムある……」

 唯一昔から見慣れていたガンプラだけが並んでいてどこかホッとした。



「お前ガンダムそんな好きだったっけ?」

「ううん、南朋が好きだったから見てただけ……なんか知らない人の部屋みたいだったから私が知ってる南朋の好きなものがあって安心したって言うか……」

「……」

「よかった、私の知ってる南朋がちゃんといて……」

 そんなことを言っていたのは無意識だった。そしてハッとした。



「ごめ――、私、勝手に部屋の中まで……ああ!洗濯物!!」

 ぎゅっと抱きしめる様に抱えていてせっかく綺麗にたたまれていたものが台無しだ。



「っご、ごめ……たたみ直す!」

「いいし、そんなん」

「でも……」

 取り合いみたいになって結局手元からボロボロと落ちだしてひどい状態が悪化した。



「ご、ごめんー!」

 慌てて落ちた服を手に取って広げたものに絶句した。



(ぱ――)



「人のパンツ見て固まんのやめてくれる?」

 固まった私の手からシャッとパンツを引っこ抜かれて視界がパンツから南朋にシフトした。

 いきなり南朋の顔が目の前に来て息を呑む。

 至近距離の南朋の顔、久々に見たけどなんだかそこにいるのも知らない人みたいだ。



(あれ、南朋ってこんな感じの男の子だった?男の子っていうより――)



 男の人。

 私の知らない男の人がいる、そう思った。



「南朋……?」

「なに?」

「あ、ううん。ごめん、なんでもない」

 見つめ合って思わず目を逸らす。なんだか目を見つめていられなかった。



「さっきのなに?」

「え?さっきって?」

「森下となんかごちゃごちゃ言ってたじゃん」

「え!あれは――っ、な、何でもない、南朋にはその……」

「チャンスってなに?」

「き!聞いてたの?!ど、どこまで?!」

「その辺まで?てか、人んちの玄関前でデカい声で話してて聞いてたのとかおかしいからな。んで?チャンスってなに?俺が彼女いないこととなんか関係あんの?誰か紹介してくれるとか?」



(もうなんかほとんど聞かれてる!!)



「か、彼女……ほしいの?」

「――まぁ?」

「ど、どんな子がタイプなの?」

「――可愛い子?」

「なんか直球すぎて嫌、その言い方」

「男なんかそんなもんだわ。基本顔から入るし、あとは体か?」

「――最低」



 やっぱり南朋は最低だ。ヤリチンの称号を得ているだけはある。モテてさぞ経験豊富なのだろう。より取り見取り、来るもの拒まず、据え膳食わぬは……あとはどんな言葉があるだろう。とにかく南朋はそんな感じなのだ。

 顔が好みで性欲が湧く体型ならとりあえずオッケーに違いない。



 ――男なんかそんなもんだわ。



 いまさっき聞かされた言葉が頭の中でガンガン鳴っている。

 そんなものなのか、男の人の思考なんか。

 出会いにときめきを求めても早々なくて、好きだなと思ってもいつも相手は自分よりかわいい子を見つめていた。気づいたらろくな恋もしたこともないまま二十歳になって未だに処女。

 興味はもちろんあったけど、それよりも寂しさが勝っていた。

 私だって、誰かに求めてもらいたい。このまま寂しく時間を過ごすのはいやだ。



 処女でいることが……私の恋をすることへの足枷になっている。



「南朋~、お母さん今から愛美まなみのところにケーキ届けてくるから~ごはん先に食べといてね~」

 下からおばさんの声が聞こえて玄関を開ける音がしたら鍵が閉められて家の中がとたんにシンッとした。



「お前はいつまでここにいんだ」

 背後から聞こえた声にへたりこんで座っていた私は南朋を見た。

 ベッドに腰かけて肘をつきながら私を呆れたように見つめている。



「……帰るし」

 そう言ってその場を立ってドアノブに手をかけたのにその手が止まる。



「私は?」

「あ?」

「顔と身体、南朋の好みに合う?」

「……」

「彼女今いないなら……南朋の時間今だけ私にくれない?」





 ***





 おいおいおいおいおいおい、ちょっと待てよ。

 なんっつった、こいつ。今こいつ俺に何て言ったぁぁ!?



(まてまてまて、ここめっちゃ大事だぞ、おかしなこと言ったら絶対一瞬でパァだぞ、俺マジでミスんなよ、えっと、えっと、えっとぉぉぉ!!)



「彼女、いないんでしょ?付き合いたい子とかいたりする?」



(お前だわぁぁぁぁ!!!)



「急に変なこと言ってごめん、でも南朋に彼女いないときって滅多にないから……その……」



 真っ赤な顔をして何かを言おうと言い淀む環奈の言葉を待つその時間、永遠のように感じる数秒。

 ――ゴクリ。

 喉元がそう鳴るほど唾を飲んで待ち構えた。



「――処女、もらって?」

「お――え?」



(今一瞬で俺も好きって言いかけた、え?何て言った?なんか思ってた言葉と違う言葉聞こえたけど)



「なんて?」

「だから~~……処女を……※※※※」

「え?え?なに、なんて?全然聞こえん」

 環奈、真っ赤になった顔を両手で隠してしゃがみこんでなにやらぼそぼそと呟きだす。

 待ってられなくて思わず環奈のそばににじり寄って覆い隠す手を掴んで顔を覗き込んだら真っ赤な顔のままなんだか目まで潤ませて恥ずかしさで震えているから――。



(くっそ可愛いな、ちくしょ――!!)



「南朋は……初めての子とエッチしたことある?」

「え、あ、まぁいたかな、いたけど……」

「めんどくさい?」

 まず環奈の口からエッチとか処女とか聞くだけで興奮しかけていたのに真っ赤に頬を染めて恥ずかしそうに俯いてスカートの裾をぎゅっと握りしめながら震えているその姿だけでさらに煽られているのに……。



「幼馴染の私なんかとはエッチできない?」



(いや、お前としたいし―――――!!!!)



 初恋をこじらせて十数年。

 俺はずっと環奈のことが好きで好きすぎてそれを伝えるタイミングを逃しまくって今に至っている。

 そもそも最初に線引きしてきたのは環奈の方だ。



「南朋のことは家族みたいに大好き。家族だからずっと一緒にいれるよね?」

 いきなり家族カテゴリーに入れられて好きを伝えても家族愛と受け止められて空回るばかり。

 身長がいきなり伸びて中学くらいからやたらモテだした俺はそれならと見せつける様に彼女を作ってみたが「よかったねぇ!」と笑顔で祝福されて玉砕。

 なんとか振り向かせようとサッカーを頑張ってみたりしたらレギュラーも取れてますますモテて気づいたらチャラいモテ男に昇格。

 いろんな女の子と付き合えば環奈も意識するかもしれない、そう思っていたら軽い男と幻滅されて環奈にだけはどんどんイメージ降格。

 モテるのに環奈にだけは一切モテない。

 嫉妬もされないしなんなら嫌悪感まで持たれだす。



(ちがう、俺がしたいのはこういうことじゃねぇんだよ。環奈だけが振り向いてくれたらいいのになんでだ?なんであいつは俺にまったく興味がねぇんだよ!!)



「南朋は私を女としてなんか見てないよぉ」

 クラスメイトにそんなことを話していた環奈を偶然見かけて固まった。



「兄妹みたいなものなんじゃない?だいたいおかしいじゃん、私と南朋?全然釣り合ってないし!南朋が可哀想だよ、私なんかとどうこう言われるの。そんな噂流れたこともないでしょ?対象外ってみんなが思ってるのに当の本人が私をそういう目線で見てるわけない」



(うそだろ?)



 そもそも環奈自身が俺を対象外にしてるんじゃねぇか。

 お前が!俺をずっと恋愛対象に見てくれてないだけじゃねぇか!!!!



「処女もらってって……マジで言ってんの?」

 問いかけたら頷く。真っ赤な顔で震えながら頷いて俯いたままだ。



(よかった、マジでまだ処女だった。いや、彼氏とかいなかったの知ってるけどずっと見張ってたつもりだけど大学行ってからはさすがに全部の行動範囲なんか把握できないし俺の知らないところでそこだけすり抜けてたらショックで死ぬと思ってたけどマジ良かったぁぁぁ、神いたぁぁぁ、めっちゃ嬉しい―――、って、俺が?環奈の処女もらえるってこと?え、うそ、マジで?ええ、どうしよう、もうすでに勃つ、考えただけで射精する、ちんこ爆発する)



「俺相手にそれ本気?どういう意味か分かって言ってんの?そもそも何するか本当にわかってんの?」

 カッコつけた風に聞いてみるものの頭の中もう沸いて大興奮してるけどな、俺。

 そんな俺の心情なんか当然察知できないウブな環奈は潤んだ瞳でキッと睨みつけてくるからまたとんでもなく可愛い!!

 環奈はいつでも俺を怒るとき涙目で睨んできた。ガキの頃からずっとそう。それで言うんだ、第一声は――。



「南朋のばか」



(かーわーいーーーー、他の奴にバカとか言われたらクソ苛つくけど、俺、環奈にだけはバカって言われるの好きなんだよぉー、めっちゃかわいいー、久々言われたー-、サイコー、こいつ破滅的に可愛いな、くそ)



「南朋にだから……頼んでるのに。南朋だから……」



(ぐはぁぁぁ!それマジ殺し文句だからな!!環奈、俺を殺しに来てる!!やばい、一回抜きたい、もうなんかいろいろ痛すぎてヤバいー!)



「無理ならいい、南朋にだって好みもあるし、それに私相手になんかそもそも無理ってわかってたし」



(まてまてまてまてまて!!!!俺は人生で一度もお前を無理だと口にしたことはねぇぞ!その勘違い一回捨てろや、バカやろう!!)



「ごめん、やっぱり今の聞かなかったことにして、ごめん!」

 そう言ってスクッとその場を立って踵を返そうとするから思わずスカートの裾を引っ張った。



「きゃあ!なん、やだ、スカート引っ張らないで!!ぱ、パンツ見えちゃう!!」

「お前、処女もらってとか誘ってきてパンツ見られるくらいで慌ててんじゃねぇよ」

「だって!え?今日?今?」

「今じゃなかったらいつの話になんの、それ」

「ええ?そんな、え、南朋……い、いいの?」



(いいのって――いいに決まってるし~~~~、身悶えるわ、もう小躍りどころでもないくらい舞い上がってるわ、見た目多分そんなに感情出してないつもりだけど、もう有頂天ってこれだなくらい今気分高揚MAX!!!!)



「お前がいいなら俺はいいよ」



(あぁーー!めっちゃサラッと返しちゃったけど、この言い方賭けだよな、どうだ?いけるか?引くか?)



 ここではっきり気持ちとか思いを伝えてこなかったから今になってんだろうと自分の首をまた絞めて一瞬で自分の吐いた言葉に後悔し始めた。



「でも――その、私今日そんな可愛い下着とか着けてないし……」



(下着―――!そこで可愛い下着つけてないとか気にすんのなにーー、なんでもいいわそんなん。上下柄あってなくてもそれはまた素な感じで可愛いし、ブラトップでも即行さわれるメリットしかないし、あとなに?何なら気にする?てかもう下着とか……下着姿の環奈拝めるだけで鼻血噴くわ、もう~~~~)



「あの、南朋、スカート……引っ張ったらやだ」

「あ、ごめん」

 無意識でぐんぐんスカートを引っ張っていて環奈が恥ずかしそうに身を捩っている。それだけでまた可愛いからますます俺を落としてくる。



「ちょっと、環奈、一回座れ。色々確認する」

「うん……」

 俺も一度冷静になりたいと思い環奈を目の前に座らせた。色々勘違いしたくない、気持ちのすれ違いはこりごりだ。できるなら言葉でちゃんと伝えあってから事を進めたい、少なくとも俺は気持ちを伝えたいのだ。



 俺は環奈が好きだよ、ずっとガキの頃から焦がれるほどお前が好きだ。

 先にその気持ちを言えばよかったけれどそれよりも聞きたい気持ちが勝っていた。

 ずっと聞きたかった、環奈の口から聞きたい。

 環奈の思いを、気持ちを――吐かせたい。



「えー、だいたいなんで俺に処女もらってって話になったわけ?その理由は?」

「――恋、したいから?」



 ――は?



「だれと?」

「これから、だれかと?」



 これからって何?だれかとってだれとだよ、俺は???



「ハタチにもなって~~未だに処女とか引かれたくないの!もう処女じゃなくなれば恋しても告白するのも勇気が持てそうだから!処女捨てたいの!!」

「――はぁ」

「南朋は女の子慣れしてるし、処女の相手もしたって言った。私のことも知ってるし、ら、乱暴?なこともしないだろうって樹里が……恋愛対象に見ない相手となら割り切って処女が捨てられるだろうって……」



(森下ぁぁぁぁ、あのクソボケ女ぁぁぁぁぁ!!!!環奈になに吹き込んでんだぁ!!そもそも理由!!!なにそれ、なにその理由!!!!処女捨てたいだけってなんだよ、処女捨てるのも新しい恋のためってなんなんだよ!!!!恋愛対象外の相手と割り切ってヤッて処女捨てるってなんだそれぇぇぇぇ!!!!!)



 俺、結局恋愛対・象・外!!!!!



「――お前さ」

「……なに?」

「はじめてとかもっと大事にしなくていいの?」



(俺のちんこ、一瞬で萎えた……)





 ***





 ――はじめてとかもっと大事にしなくていいの?



 南朋がなんだか急に元気をなくして項垂れたように聞いてくるから首を傾げた。



「大事って……大事にして結局いつまでたっても独りじゃん」

 いつか好きな人が出来たら……好きな人に好きって言ってもらった時にって大事にしていても誰にも言ってもらえない。

 大事にしすぎたら今度はただの重たい面倒な処女……周りはみんな経験を済ませてどんどん可愛くなるのに私だけ焦ってどこにも行けないまま。



「もういらないもん、大事にするのなんか大事なことじゃなかった。大事にしてたって重荷になることばっかりでもう嫌なんだもん。だったら捨てた方がいいって、捨てたいって思うようになったら大事になんかできるわけないじゃん」

 胸の奥のつかえを話し出したら声が震え出して、悔しさや虚しさが込みあがってきた。



「アプリとか合コンとか、ナンパだって考えたけどそんなのやっぱりできなくて……そしたら樹里が南朋だったら絶対ひどいことしないって、私のことも知っててくれる相手だからって……でもそうだよね、おかしなこと言ってる、私。ごめん、南朋にその重荷肩代わりさせるんだよね、困るよねそんなの――「そんな話してんじゃねーわ!」



「お前がっ――、お前は……はじめては好きな男に抱かれたいとかないのかよ」

 どうしてそんな言葉を南朋が切なそうに言うの。

 私がずっと夢見ていることを、南朋はどうしてそんな表情で私を見つめて告げてくれるのだろう。



「はじめてってさ、女の子にもそりゃよるだろうけど……痛いし、やっぱ怖いと思うよ?それって好きな相手でもそうなんだぞ?わかってんのか?そんな行為を捨てたいって気持ちで出来るほどお前って勇気もってんの?」

「それは……」

「なんも知らないからそんなこと考えたんだろうけどさ、なんも知らないんだから好きな男に任せろよ、預けろよ。俺はさ、環奈が適当に選んだ男に痛い思いさせられるのは嫌だし、ノリや遊びでヤるような男に環奈が抱かれるのはもっとたまんねぇよ」



「え……」



「バッカみてー、俺ってホント、昔からずっとバカみてー。俺だからとかいう言葉真に受けて……」

「南朋、待って、違うよ私……」



 私――、何を今言う気だった?



 南朋だからお願いしたのはどうして?

 南朋だったからこんな話をしたんじゃないの?



「だって南朋は……」

「ずっと好きだわ、環奈のこと。バカみてーにガキの頃から」

「なにそれ、初めて聞いた」

「昔から何回か言ってるけどな!お前が!勝手に家族愛の好きって受け止めてスルーしてきただけだろうが!」

「だっ――、え、だって、彼女何人作ってきたの?何人の女の子とエッチしてんのさ!!」

「それは――、最初はお前の気を引くとこから始まったけど、どんどんお前がドン引きして……思春期に下半身で物事考えない男なんかいねぇから!それに経験積んどくの大事だろーが!!いつかお前を気持ちよくさせるために……っいてぇ!」

 近くにあった洗濯物を投げつけてやった。



「え、え、えエッチ!!」

「悪いけどエッチだわ、でも処女もらってとか言い出してるお前もたいがいエロいからな、わかってんのか?」

 そう言って腕をいきなり掴んできて南朋の胸の中に引き込まれた。南朋の体は私の体なんか簡単に包み込めるくらい大きくて肩幅も、腕の長さも、太さも、力強さも、もう私の知っている子供のころの南朋なんかじゃない。

 熱っぽい瞳で私を見つめてくれる目の前の人は、ドキドキさせる男の人だ。



「な……お」

「おまえ……そんな可愛い声で名前呼ぶとか卑怯だぞ」

「そんな、卑怯って……」

「さっきから下着がどうとか、私でいいのとか……誘惑がひどい」

「ゆ、誘惑なんかしてない……本当にそう思って……南朋が私のこと好きなんか思ったことなかったし、今日は本当に下着、そんなに可愛いのじゃないし……」

「じゃあ見せてよ」



 ――え?



 そう言って南朋の腕が背中に回って首後ろのボタンを外しかける。



「え、あ、ちょ――え?待って南朋!」

「環奈の下着姿見せてよ」



(う――うそぉぉ!)



 女の子の服にも慣れた手つき。腕を背後に回して包み込むような体勢で後ろボタンをサラッと外されたら背中が少しひんやりした。外気に晒されて震えたのか、これからされる行為に震えたのかわからない。ただ南朋の瞳が私を真っ直ぐ見つめてくるから逸らせないだけ。



 こんな風にだれかとずっと見つめ合いたかった――。

 真っ直ぐに、何にも邪魔されず時間なんか忘れるほど見つめ合っていたかった。



 南朋の手がグッと腰を押し付ける様に南朋の方に寄せられて自然と身体が前のめりになる、南朋の顔がすぐ近くにあって息がかかりそうな距離に思わず息を止めた。



「――息止めんなよ、死ぬぞ」

「――だ、だって、息が南朋にかかっちゃうと思って……」

 それくらい近いんだからどうしたらいいんだろうしか思えなかった。昔から知っていて安心している南朋にさえこんな緊張とドキドキが襲うのに私は本当に南朋以外の人とこんなに近くで見つめ合うことなんか出来たのだろうか。



 ううん、違う。

 南朋だから、こんなにドキドキするんじゃない?



「ひゃ!」

 いきなり腰回りに熱い手が差し込まれて体が跳ねた。



「なに、今の可愛い声――、やべぇ」

 そういう南朋の声もなんだか全然いつもと違う。熱っぽくてなんだろう、甘い。

 南朋の声が、見つめる瞳が、表情がとてつもなく甘い。



(南朋って……見慣れてたから忘れてたけど――イケメンだった)



 南朋は俗に言うケチャップイケメン。甘×濃のちょうど良いイケメンだ。顔立ちはそこまで濃くないけど色素が濃い感じ、カッコいいと爽やかの塊で、見た目でまず文句を言う女の子はいないだろう。そこにサッカーがうまいとか走りが速いの男子モテ要素を兼ね揃えて、南朋には三つ上にお姉ちゃん(愛美ちゃん)がいる。お姉ちゃんのいる環境でかつ私という幼馴染を持つ南朋は女の子耐性が出来上がっていて扱いがとてもうまい。

 宥めるのも引くのも守るのも慣れっこ、モテない要素がないのだ。



 そんな南朋が私を好き?



 ――南朋は私を女としてなんか見てないよぉ



 友達に本当に幼馴染の関係なのかと問いただされて思わずそう答えた。その気持ちに嘘はない、釣り合ってないのは知っている、南朋の横に並べるような容姿も要素もない。私が南朋の傍にいれるのは、家が隣同士で小さな時から付き合いのある幼馴染だから。家族みたいに仲良くしているだけだ、そう言い聞かせた。

 そう思っていたら、ずっと一緒にいられる、それなら堂々と一緒にいられる。

 そう思わないと傍になんかいられなかった。



 南朋は彼女を何人も作ってはすぐに別れてを繰り返していた。

 特別な相手になれても離れる時が来る。それなら私はずっと一緒にいられる家族のような関係でいたい、それが誰よりも特別な関係だと信じていたから。



「全然かわいいじゃん、これよりかわいいブラジャーとか着けてんの?俺の前以外でつけるのもう禁止な」

「南朋……こういう下着が好きなの?どういうのが好き?」

「だからぁ――、あざといぞ、お前だいぶあざといぞ」

「下着の好み、聞いちゃダメってこと?」

「――――鼻血出る」

「え、大丈夫?」

 思わず部屋を見渡してティッシュを探したらベッドサイドにあったから思わずそこへ駆け寄った。数枚とって南朋の方を振り向こうとしたら背中越しから南朋の体の重みを感じてそのままベッドに倒れ込む。



「え、な、なお?」

「お前さぁ、上だけブラジャー姿でベッド駆け寄るとか……ワザとやってんのか?ワザとなのか?襲えって言ってんのか?」

「い、言ってないよ!鼻血出るって南朋が言うから」

「出てる?」

「で、出てない、かな?」

 顔を覗き込んで確認したらいきなり南朋のくちびるが私のくちびるに重なってきた。



 これは――私のファーストキス。

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