続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

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結婚エトセトラ

Hello baby……宝物を見つけに①

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「これ落としましたよ?」

大きなおなかをした女性が落とした紙を渡して軽い会釈を交わしたら入口の扉をくぐった。

ここはマンションから一番近くにあった産婦人科。昨夜にネットで初診予約を取ったのだ。

昨日帰ってから誠くんに先生に言われたことを伝えたら少し驚いた顔を見せた。



「そうなの?」

「うん……一回婦人科受診した方がいいって」

そう言ったら何も言わなくて。



「誠くん?」

「いや、そうか、わかった。じゃあ行ったほうがいいな。俺も一緒の方がいい?」



「ううん、それは平気、ひとりで行ける。貧血気味らしいから鉄分のお薬とかももらう方がいいって言われてるし明日行ってこようかと思うんだけどいい?」

「もちろん。千夏が一人で大丈夫なら任せる、なんかあったらいつでも連絡して?」

「うん」

なんとなくお腹に手を触れてしまうと誠くんがフッと笑う。



「いると思う?」

「……わかんない、でも……いたら嬉しいな」

自然と頬がほころぶと誠くんの触れるような優しいキスが落ちてきた。



「久世千夏さーん、診察室一番にお入りください」

昨日もよく寝たおかげでフラつくことはなくなった。呼ばれて席を立って診察室の扉を開けると五十代くらいの優しい目をした男の先生だった。



「お待たせしました、どうぞおかけください」

「よろしくお願いします」

「うん、妊娠二ヶ月に入るところですよ、おめでとうございます」

開口一番がそれで呆気にとられて何も言葉が出なかった。



「……」

「尿検査の結果から出てるので間違いないですね。もともと貧血気味かな、ちょっと赤血球の数値が低めだし、今日は少し鉄分補給のお薬も出しておきますね。後期になってくるとまた鉄分が切れやすくなるかもしれないし、なるべく鉄分が補給できる物を食べたりして上手に付き合っていきましょう。初期はやっぱり身体の変化が出やすいからなるべく無理しないで。神経質になりすぎないようにリラックスして暮らしてくださいね」

フワリと笑われて徐々に気持ちが落ち着いていく。



(赤ちゃん……できてた)



まだ感動まではない。興奮というかドキドキする気持ちが大きい。お薬をもらって次の予約を取って家に帰った時ちょうどラインが入った。



【大丈夫?病院どうだった?】

知りたいことはすぐ知りたい性格は仕事場と同じ。妊娠がというより体調の結果を知りたいんだろうなとなんとなく感じた。時計をみると12時過ぎ。

お昼休憩だから大丈夫かなとラインを返す。



【今帰ってきた。電話できるならしたいです】

送った瞬間に既読になったと思うとコール音で携帯が震えた。



「もしもし、ごめんなさい電話」

『いや、大丈夫。どうだった?』

背後のざわつく声がやけに耳に響く。



「……うん」

言い淀んでしまった私に心配そうな声が降ってくる。



『千夏?大丈夫?』

「……妊娠してた。二ヶ月入ったところって」

『……』



(聞こえたかな?電波悪い?)



返事がなにもないと一瞬不安になるものの相手の様子を待つと声が届いた。



『それって確定?』



目で見たものしか信用しない人だかららしい反応だけれど、誠くんだなぁっと思って笑ってしまった。



「とりあえず尿検査では数値が出てるって。赤ちゃんの心拍はまだ取れないけど、お腹の中に赤ちゃんの住むお部屋は出来てるって写真ももらった」

『……そうなんだ…ふぅん、まだなんか実感ないし信用できないけど。とりあえずわかった、帰ったら見せて。昨日の目眩もそれのせいってこと?』



「初期症状と貧血のせいって鉄分補給のお薬もらってきた」

『了解。じゃあ飲んで今日はもうゆっくりしてて。なるべく早く帰る』

「うん、電話ありがとう。お仕事頑張ってね。帰り待ってる」

そこで電話が切れた。



(信用できないだって……誠くんらしくて笑える)



でも男の人はそんなものかもしれない。高田さんも赤ちゃんが産まれて目の前にしたって男の人は子の親になったという実感が薄いと怒っていたことがある。神秘的なエコー写真を見て徐々に感動が湧いてくる。この中に誠くんの赤ちゃんがいる、それだけで胸の中で幸せが満ち始めた。





―――――――――――――――





(――まじか、えぇ……まじか)



電話を切ってまず感じた俺の気持ち。

妊娠発覚が信じられないとか嬉しくないとかそんな気持ちではなく、そっちのことはまだ二割もないくらいしか信用できなくてさほど大きな感情の波はない。



――それよりも。



(あーーー、もうセックス禁止?中出し生活おわった……)



それしか思えないとか人としてどうかと思うけどそのショックの方がでかかった。



「……マジか」

思わず声に出ていた。



「なにが?」

背後から声をかけられて振り向くと高宮がいた。



「どした?なんかトラブル?」

「……いや」

トラブルではない。ないが、ため息は出る。致し方ないけれど。



「……あー、ちょっと自分の中二みたいな脳みそが嫌すぎて……」

「中二?」



「いや、こっちの話」

「菱田ちゃん絡みね」

ニヤッと笑っても深く突っ込んでこない。高宮も美山さんと付き合いだしてからは俺のことも根掘り葉掘り聞かなくなった。彼女のことを思ってのことだろうが。



(単純に、自分が突っ込まれたら言いたくないからだろうな)



「そういや、昨日菱田ちゃん大変だった?」

「なんで知ってんの?」



「昨日お前ら帰った後入れ違いで医務室行ったんだわ、書類で指切っちゃって。事務所の絆創膏切れててさ。そん時千恵子ちゃんに聞いた」

「千恵子ちゃん?」

「あの先生」



(なんつー呼び方してんだ)



「今の久世夫婦でした?って。もちろん守秘義務で中身は話さないし聞いてないよ?久世と同期だからって言ったら菱田ちゃん迎えに来たんだってそれだけ。優しく話す割に手厳しいよな、オカンぽいっていうか」

「怒られたわ」



「お前が?なんで?」

「貧血と目眩だったんだけど。寝不足もあって……あんまり可愛がりすぎるなと」



「え~菱田ちゃん、倒れるほど抱いてんのぉ?」

大げさに冷やかされて腹が立つけどそこは飲み込んで冷静に返す。



「倒れたのは貧血」

「貧血ねぇー、女の子あるあるだよな。大変だよね、女の子って」

高宮がモテるのはこういう所だと思う。



「あ、そういや佐藤のとこ知ってた?金田から聞いてさ。今安定期入ったんだって。同期でお祝いするからカンパしろって」



(……タイムリーすぎる話題)



「言うてる間にお前んとこもそんな話でるんじゃないの?って、もしかしてそれ?」



(察知が良すぎるのもモテる所だろうな)



「……俺も今聞いたから。まだ信用レベルにはなってないからとりあえず聞かなかったことにして」

「ま、デリケートだよね、この手の話は……了解。とりあえず佐藤のとこで詳細わかったらまたメールするわ。久世も参加でいい?」



「もちろん」

「オッケー、じゃあ菱田ちゃん大事にしてね~」

ひらひらと手を振って喫煙ルームに向かっていった。佐藤のところにそんな話が出てるなら千夏のことは早めに相談したほうが仕事しやすいかもしれないなとぼんやり思いながら俺も事務所に向かった。

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