続・ゆびさきから恋をするーclose the distance

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結婚エトセトラ

daily life……赤ちゃんほしい

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「ちなっちゃん達さぁ、子供はどうすんの?」

なべちゃんに聞かれて言葉に詰まった私はお弁当を食べる手を止めた。



「うーん、欲しいけど」

「けど?久世さんがその気じゃないの?」

なべちゃんの言葉に慌てて首を横に振った。



「そんなことない!彼がとかじゃなくてその……私の問題って言うか……今すぐにはいいかな、って気持ちでは、いる」



嘘だ、本音はすぐに子供が出来てもいい――そう思っているけど言えずにいる。

そしてその気持ちを実は彼にも言えないままでいた。





お風呂を終えて二人でテレビを見ながら好きなことをしてたらなんとなくイチャイチャし出して、誠くんの手が本格的にやらしいことを始めだしたから当然それを受け入れた。

彼に触れられるだけでどこもかしこも敏感に反応してすぐに果ててしまうから、自分の体が淫らになったと自負している。

でもそんな自分がもう嫌ではない。彼のすることに素直に感じて悦ぶことが嬉しくて幸せ、だから求めてくれるなら求められるだけ応えたい。



「ゴムつけた方がいい?」

誠くんの問いかけにハッとした。



「……ぅ、ん」



子供が欲しいという話は早くからしていたし、その気持ちも伝えてはいたけれど実際のところ避妊をお願いしていた。

だからするたびに誠くんは避妊を確認する。

避妊をしないでエッチをしたことは何回かあるけれど基本安全日しかしていない。



いい加減気持ちを素直に言わないといけない、それを誠くんの目を見て感じる。

誠くんは当然私の不安定な気持ちに気付いているから……。



「ほんとはどう思ってる?」



結局、私から切り出さないといけなかったことを誠くんに言わせてしまった。



「……ごめん」

「謝れって話じゃなくない?謝るようなことなの?」



「ううん、誠くんに言わせてごめんって意味。ホントは私がちゃんと言わないとダメだったから」

そう言った私の言葉を静かに聞いてくれるから、息を呑んで覚悟を決めた。



「誠くんも、ホントにどう思ってるかもう一度聞いてもいい?」

「俺?子供欲しいかってこと?」

コクリと頷く。



「欲しいか欲しくないかだと、欲しい。いつかって言われたら別にいつでもいい。ごめん、これくらいの気持ち。いや、結局さ、どうしても妊娠は千夏の方に負担が多いから。俺は千夏の気持ちを一番に尊重したらいいと思ってるよ。本音はそこだけ」



黙る私を見つめる誠くんの瞳が心配そうで余計に胸が詰まる。私のことだけをいつも一番に考えてくれているのに、私はどれだけ誠くんに気持ちを返せているだろう。



「千夏こそどう思ってる?言えるなら言って欲しい」



誠くんのこういう所が好き。

押し付けたりもせず、でも出口を見つけようと静かに扉を開けて待っていてくれる。その胸にいつも飛び込んで受け止めてもらっているのだ。

胸に詰まる思いが張り裂けそうになったからもう黙っていられないと決心した。



「……もう欲しいの、子供」

「え?」



「えってなに?」

「いや、そっち?欲しかったの?」

伝えていたはずだから当然その認知と思っていたのになんだか誠くんの反応が予想外すぎてこちらが驚く。



「欲しいよ、もう誠くんの赤ちゃん欲しい。作りたい」



欲しくてほしくてたまらない。ずっとずーっと憧れていた。

大好きな人の子供を産むこと、その子のお母さんになりたかった。

大好きな人の大好きな子を育てられるお母さんになりたい。



「――俺の赤ちゃん欲しいってなんかエロい」

「なにそれ」

「いや、ごめん、なんかエロくて良かった」



(誠くんって本当に頭いいのかなってたまに思う)



「俺、いらないのかなって思ってたからさ」

「え、なんで?欲しいって前から言ってたよね?」



「聞いてたけど……出来たら困るって感じじゃんか。避妊も言うし、それがすべてだろ?」

「困るでしょ?」



「なんで?ほしくて作ろうとしててなにが困る」

「困るよ、だって仕事が」

「――仕事の心配してたの?」

誠くんが心底意外そうにそう言うから思わず声を荒げてしまった。



「なんで?!普通するでしょ?私移動して仕事習ってる所だよ?まだなんの役にも立ててないし、佐藤さんにもこれから頑張ってねって言われて周りの人達の手も止めて指導してもらってるような立場だよ?それなのに、妊娠しましたって無責任じゃん」



そこまで一気に捲し立てるとブハッと笑われた。



「ど、どこがおかしいのぉ?普通そう思うでしょ?!」

「いや、真面目だなぁーっと思ってさ。なるほど、そんなこと考えてたのか」



(そんなに笑われるほどおかしなことを言ったとは思わないし、真面目という話とも違うと思うんだけど)



「それが千夏の普通で考えってことね。なるほどなぁ……じゃあ俺の普通と考え教えてやろうか?俺と佐藤は脳みそがそんなに変わらないから同じように思ってると思うし参考にしたらいいわ」

そう言われて少し身構える。



「結婚した時点でいつ辞められてもいい覚悟で仕事教えてるよ」



(え)



「そりゃそうだろ。しかも千夏まだ二十八だろ?絶対子供産むって思うじゃん、佐藤もそう思ってるよ?あいつんところなんか奥さん子供作りたいし仕事熱低いでスパッと辞めてるから、むしろ千夏が働いてることに尊敬してるしいつまでいてくれるかなってぼやいてたぞ」

「迷惑って……思わないの?」

そう聞いたら首をフルフルと振って「思わない」ときっぱり言われた。



「迷惑って話なら、千夏が仕事辞めるって言った時。あれの方がよっぽど迷惑だった」

「え?」

「理由もちゃんと言わずに辞めたくなった、もうすぐに辞めたいって、あんな勝手な話ないし無責任だろ。こっちに諦められる理由もなくて止められる理由も持てない。辞めたいて言われてもそれを受け入れるしかない状況の方が迷惑かけてるって思わないか?」



まさか今あの時の話を持ち出されるとは思わなかった。

確かにあの時は周りのことなんかなんにも考えてなかった、ただもう逃げだしたくて嫌になった気持ちだけを爆発させて誠くんにぶつけていたから。



(思い返すと幼稚で勝手だ……ほんとに無責任)



「それに比べたら結婚や妊娠はその人にとったらおめでたい事だし。仕事は仕方ないけど、それ以上に良かったなって話。育休……は派遣だとないけど、復帰したいってなれば俺もいるし全然上には話が通せると思う。子供がいたら今とは同じように暮らせないし働きたいと思えたときに違う仕事を選んだっていい。そんなに仕事のことで悩まなくていいんじゃない?」



「……ごめんなさい」

「だから謝る話じゃない」

「ううん、前に辞めるて言ったこと」



誠くんがそんな風に思ってたなんて知らなかった。あの時ぶつけた感情を今になって後悔した。



「あの時は強行手段とったけどなー、千夏のこと手離したくなかったし。仕事だけじゃなくて」

その言葉に顔が赤くなる。心が折れてもう歩けないと思っていた私に救い上げるように強い言葉をくれて抱きしめてくれた。今でもずっと覚えている、忘れられない日だ。



「それよりさ」

グイッと腕と腰を掴まれて体を引き寄せられると誠くんの体に近づいた。



「もう避妊しなくていいってこと?」

「あ……うん」



「さっきのもう一回言って?」

「さっきの?」

「俺の赤ちゃんてやつ」



(――やっぱりなんか頭おかしいんじゃないかな)



「なにがそんなに良かったの?」

「何だろ、男の生殖反応を刺激するのかな、めっちゃ興奮したわ」



それなら女にだってきっとある、好きな人の子供を欲する欲求が。

誠くんの首に腕を巻き付けて抱きしめながら言う。



「……誠くんの赤ちゃん欲しい、いっぱい出して」

「――やば、なにそれ」



そうして私たちの妊活が始まった。

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